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男「もしもし母さん?オレだけど」母「…詐欺だ!」⇒だまされたフリして捕まえようとした結果

私は45歳の専業主婦。4人の子育ても一段落ついたところで、末息子のコウタも自動車教習所へ通うような年に。出勤する夫や上の子たちもコウタと一緒にまとめて送り出し、その日も普段と変わらない1日が始まると思っていたとき……。1本の電話で、私の平穏な日常が破られたのです。

 

「もしもし、オレだけど」

その朝、ひとり残った私が上機嫌で掃除機をかけていると家の電話が鳴りました。出ると、雑音に交ざって遠くから若い男性の声がします。

 

「もしもし母さん、オレだけど……」

 

「え? コウタ? 忘れ物?」。私は、ちょうど末っ子のことを考えていたので名前を呼んでしまいました。

 

「そうそう、コウタ。実は大変なことになって……。妊婦さんに車をぶつけちゃったんだ……。そこの小学校前の交差点で……。相手の信号無視が原因だから、警察沙汰にはせずに示談金を渡せばいいって……」と、しどろもどろな声が聞こえてきます。

 

一瞬ギョッとした私。事故を起こしてコウタも動転し、声が震えているのかと思ったけれども、よく考えれば怪しい点だらけ。息子は遠くの自動車教習所で教官と教習車に乗っているはずですし、路上教習でも近所の小学校前なんて通るわけがありません。

 

「これが振り込め詐欺……。オレオレ詐欺か……」。そう確信した私は電話を切ろうとしたのですが……。

 

だまされ作戦開始と思いきや?

私は、こんなやからを野放しにしておいたら他の人が被害に遭うかもしれないと心配になりました。そもそも4人も育て上げたこの私に、親心を持て遊ぶ詐欺電話をかけてくるなど許せなかったのです。

 

「ここはだまされたふりをして犯人の素性を見極め、とっ捕まえてやろう」と思った私は、会話を続行することに。

 

「それは大変! 示談金は、どこに持っていけばいいの? 振り込み先は?」

 

すると電話口の男性は、「えっと……それはまだ……。母さん、また後で電話する!」と言って、お金の請求の話になりそうだったのに、話を終了してしまいました。

 

 

あれから2週間

それから2週間ほどが過ぎ……。なんと例の詐欺男は、あれから何度も電話をかけてくるように。受け答えしているうちに妙に情が湧いてきてしまったのです。とはいえ、正体がわかるようなことを話すわけでもなし、こちらは相づちを打つくらいでしたが、向こうも何だか電話を楽しみにしている様子。

 

それでも、金銭を振り込めといった要求が来れば、警察にすぐ通報しようと思っているのですが……。なぜかそういう話にならないのです。

 

そのうちに、いきなり「母さんは昔からまんじゅう好きだったよね」とか「俺は母さんの作る魚肉ソーセージのアメリカンドッグが好きだった」と言い始めて、私は大仰天。たしかに、昔子どもたちがお友だちを家に呼ぶたび、そういうおやつを出していたのです。しかし、なぜそれをこの偽コウタが知っているのか謎が深まるばかりでした。

 

「あなたはもしや……?」。ある考えに至った私が確認しようとすると、すぐに電話が切られてしまいました。

 

ついに出てきた親玉!?

偽コウタからの電話が途絶えて数日。「妊婦の弁護士」を名乗る男から着信がありました。ついに来た! と思いつつも黙って聞いていると、「示談金1000万円を今すぐ振り込んでください。無理なら500万でもいい。訴えられたくなきゃ急いでください」などと明らかに怪しい持ち掛け方で振り込みを強要します。

 

「振り込む前に息子と話をさせてください、そこにいるんでしょ」とねばると、ついに話し手が交代。私は、電話口に出た偽コウタに言いました。

 

「いい、 話をよく聞いて。今すぐそこの事務所を出て、外で待っていなさい。マサヒコ! あんたは、今が正念場。まっとうな道に戻りなさい。大丈夫、私がついているから」

 

いきなり自分の名前を出されて、びっくりしている様子の偽コウタ。長い沈黙の後に、「ありがとう……母さん」という言葉を残して、電話口から消えたのです。

 

 

感動の再会

この数日の間に私は、警官をしている長男が調べ上げた詐欺事務所のビルの前に駆けつけました。すでにパトカーも集結しており、親玉らしき男が連行されている最中。外の木陰には、コウタと一緒にマサヒコの姿が。思った通り、昔なじみの男の子でした。放置子だったという彼にとって、わが家が唯一の居場所だったようです。

 

話を聞くと、中卒で親から家を追い出され、貧乏生活の果てに犯罪集団につかまって詐欺に加担させられることに。電話先リストにうちの番号があったのを見て、他の人に任せたら私がだまされるのではと心配し、自分が担当して時間を引き延ばしていたというのです。

 

「あなたも警察に出頭して、自分の意思で足を洗いなさい。金を奪わなかったことは私が証言する。あんたはもう私の子も同然なの。最後まで面倒を見るわ」

 

泣いて自首したマサヒコは、詐欺未遂の初犯ということで説諭(教え諭すこと)だけで済みました。その後は、夫が紹介した工場で働くことに。いつか立派な男になって、本名で堂々と電話をしてきてほしいものです。

 

親は、いつでも子どもからの電話を待っているものですからね。

 

--------------

不幸な生い立ちのため、詐欺に加担しそうになってしまった彼。しかし、本当は正直で心のやさしい青年だったのですね。周囲の人のやさしさを知ることで立ち直ることができてよかったです。

 

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