とある夕方、私は同僚ママ・ユキエさんの家のインターホンを押しました。私の職場では、どうしても仕事が終わらないときは、互いに子どもを預けあっています。
厄介な若夫婦
今日もにこやかに出迎えてくれたユキエさん。子どもたちは遊んでいる最中ということで、家にあがらせてもらい、少しの間おしゃべりを楽しんでいました。
しばらくすると、インターホンが鳴りました。その音に、肩をビクッとさせるユキエさん。「出ないの?」と聞くと、シーっと人差し指を口に当て、そっとモニターを確認してから深いため息。後ろから画面をのぞき込むと、若い男女が立っています。
若い男女は「車停まってるのにおかしいな……マヨネーズ貰おうと思ってたのに」と言って去っていきます。2人はユキエさんのお隣に最近引っ越して来た若い夫婦とのこと。
引っ越し初日に挨拶に来て以来、こうして夕方になると何かしらを貰いにくるのだとか。なんだか厄介そうな夫婦です。
うちにもよこせ!
翌日、私が幼稚園の畑で作業をしていると、例の若夫婦にバッタリ。「わあ! たくさんお野菜ありますね! 少し分けてもらえませんか?」と、畑で育っているジャガイモを欲しそうにしています。
しかしここは幼稚園の畑。私が判断できることではありません。お裾分けを断ると、若夫婦は「ケチ!」と吐き捨て去っていきました。
それから数日後。農業を営んでいる実家の両親からたくさんの野菜が届いたので、私はユキエさんにお裾分けをすることにしました。たくさんの野菜を抱えて歩いていると、そこに例の夫婦が現れて「やっぱり野菜をあげられないなんて嘘だったんだ! タダで貰えるじゃない! うちにもよこせ!」と叫びます。
私がやんわり断ると「じゃあ自分で貰うから!」と去っていきました。なんだか嫌な予感しかしません。
ジャガイモがない!
それから数日、その日は職場の幼稚園で芋掘りをする日です。掘り起こしたジャガイモでじゃがバターパーティーをすることになっています。楽しみにしている子どもたちを連れて畑へ行くと、なんだか様子がいつもと違います。
慌てて近寄ってみると、なんとほぼすべての芋が掘り起こされているではありませんか。どれだけ掘っても何も採れず、子どもたちは泣き始めてしまいました。
幼稚園の畑には、動物被害の対策としてカメラを設置しています。泣いている子どもたちをなだめて幼稚園に戻り、映像を確認することにしました。すると、予想通り犯人はあの若夫婦でした。
若夫婦の家を訪ねると、あっさり罪を認め「野菜なんていくらでも育つのだから分けてくれてもいいだろう」と開き直ります。そんな態度に呆れつつも、この畑は幼稚園のもので、私はお世話を任されているだけだと説明しました。
園長のカミナリが!
すると「幼稚園のもの……?」と2人は顔面蒼白に。そこに園長も登場して「そういうことだ! なんてことしてくれたんだ、オマエたちは」と、2人を叱り飛ばしました。
話を聞くと、若夫婦はもともとこの幼稚園の卒園生。園児のときから園長は手を焼いていたようで、今でも頭があがらないのだそう。大の大人だというのに、子どものように怒られていました。
若夫婦は幼稚園にやってきて園児に謝罪。盗んだジャガイモを全部持ってきて、予定通りじゃがバターパーティーを開催しました。さらに、改めて芋掘りができるように、休みの日を使っての畑仕事を引き受けたよう。さすがの卒園生、手慣れた手つきで畑を耕し、さつまいもの苗を埋えていました。秋には無事、さつまいも堀ができそうです。
畑で実際に野菜が育っている様子を見るのは、子どもたちへの食育として非常に大切です。そんな機会を自分たちの欲のために奪っていった若夫婦の罪は大きいですね。子どもたちのために畑仕事をしっかりやり、立派なさつまいもを育てて欲しいものです。
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