顔を合わせるたびに「なんとしてでもうちの息子と別れてもらいますからね!」と言ってくる婚約者の母。私が同じ会社で働いていることも気に食わないようで……?
義母の言いがかり
「どうせ色仕掛けで採用してもらったんでしょ」「うちの息子が部長だから、婚約者のあなたも特別扱いしてもらっているのかしら?」と言いがかりをつけてくる婚約者の母。
私はインターンや面接をがんばって入社しただけなのに……と悲しくなりました。仕事だって一生懸命取り組んでいます。色仕掛けはもちろんしたことはありません。
「とっとと息子と別れてちょうだいね!」「あと、別れた後は部署も異動してちょうだい。あなたみたいな浅ましい女が近くにいたんじゃ息子の吸う空気が汚れてしまうわ」と義母。
「あなたみたいな人が息子と結婚しようだなんて、おこがましいのよ!」とまで言われて、私はショックを受けました。しかし、義母との会話を思い出しているうちに、あることに気がついたのです。
婚約者は見栄っ張り
私がおかしいと思ったのは「うちの息子が部長だから」という部分。実際は私が部長で、婚約者がその部下なのですが……。
不審に思った私は、すぐさま婚約者に確認を取りました。すると、「つい見栄を張っちゃったんだよね……」と婚約者。「母さんは俺のことを自慢の息子だと思ってくれてるし、お前の部下だと知ったら発狂してしまうと思うんだ」という意見にはうなずきかけたものの、やはり私のプライドが許しません。
「今すぐ訂正してきてくれる?」「もしかしたら人は学歴だけじゃないってわかってくれるかもしれないし……」と言うと、食い気味に「それは無理!」と婚約者。
「母さんのことは俺がなんとかするから、しばらく口裏を合わせてくれ!」と丸め込まれてしまいました。嘘の片棒を担いでいるようで、なんだか私はモヤモヤ……。
私の正体を明かす時が来た
2週間後――。
婚約者の母親から、私に電話がかかってきました。いつものようにネチネチ言われるんだろうな……と構えていたのですが、今日は上機嫌な様子。
「聞いてちょうだい!無事に次男の就職先が決まったわ!」「しかも、長男と同じ会社に就職なのよ!」
「おめでとうございます」と言いかけて、私は口をつぐみました。うちの会社は夏前に採用者が決定されるはず。冬も間近に迫ったこの時期に採用が決まるなんてありえないのです。
そのことを尋ねてみると、「エリートにはエリート専用の採用ルートがあるのよ」とにおわせてきた婚約者の母親。
「春から兄弟そろって大企業勤めなんて鼻が高いわ~!というわけで、次男のためにも春までに退職してちょうだいね!」
いきなり自分の話題になって、思わず「は?」と返してしまった私。「この間は部署異動でいいと言ったけど、もし次男の配属先に上司としてあなたがいたら?そんなの堪えられないじゃない!」と義母。
「エリート一家の我が家にドブネズミは必要ないの!」
「金輪際二度とウチの息子に近寄らないでwww」
「ではコネ入社もご遠慮ください」
「え?」
「私からは二度と近づかないので、そちらかも私に二度と近づかないでください」「そのためにも、まずは次男くんの内定を取り消します」と告げると、「あんたに何の権限があるのよ」と鼻で嗤われてしまいました。
「人事部長の権限です」
私と婚約者は人事部勤め。私はそこの部長、つまり人事部長なのです。
「息子よりあなたの方が優秀なんて、そんなことあるわけないでしょ!」という婚約者の母親に、「では会社の公式サイトを見てみてください」とだけ言いました。すぐに確認したらしい婚約者の母親。ようやく婚約者の嘘に気付いたのでしょう、「どういうことなの……」とぽつりとつぶやいていました。
「うちにエリート専用の採用ルートなんてありません」「採用者はすべて私が最終確認することになっているんですが、次男くんの書類を確認した記憶がないんですよね」「私も早速次男くんの調査にとりかかりますので、これで失礼します」と言って、私は電話を切りました。
その後――。
婚約者の弟のデータベースを改ざんし、内定を出したのは自分を人事部長を偽っていた婚約者でした。なかなか内定の決まらない弟にしびれを切らした母親から頼まれて、仕方なくやったとのこと……。
婚約者の母親からも「結婚を認めてやるから次男の内定を戻せ」と言われましたが、私まで不正に手を染めるつもりはありませんでした。そもそも、彼はもう婚約者ではありません。
不正調査の中で、彼には他にもたくさんの余罪があることがわかったのです。採用面接に来ていた女子大生数人に私的に声をかけ、2人で食事に行った子には評価を高くつけ、断られた子は落とす……職権乱用です。私は人事部長として、彼を解雇処分するよう上に求めました。
学歴ばかりが目に付く世の中ですが、人間性が本当に大事だと感じました。そして、婚約者の不正を見抜けなかった私もまだまだだと痛感。しばらくは人事部長として、人を見る力を養うことに注力したいと思います。