病気で余命わずかな父が「なんていい男と出会ったんだ!」と褒めそやすのは私の婚約者。褒められて私もまんざらではありませんでした。しかし、結婚式前日のとあるLINEをきっかけに事態は一変するのです……。
大誤爆
明日に控えた結婚式。私は緊張でそわそわしていました。そこに、婚約者から「暇だからちょっと構ってよ♡」と甘えたメッセージが届いたのです。
「明日の準備もあるし……」と返すと、「明日はただ一緒にいてくれたらそれでいいんだ」「きっと式でお酒も飲まされるし……きっと君の家に着くころにはベロベロだよ」と返信が。
この人は本当に私の婚約者?と疑いながらも、当たり障りのない返事を返しました。すると……。
「あんなつまんない式終わったら、速効お前の待ってる部屋に帰るから!」「式後は男だけでの2次会があるって言ってあるし、絶対あの馬鹿女にはバレないって」と婚約者。
男だけの2次会が嘘だったことにショックを受けながらも、不自然にならないよう「馬鹿女って誰のことだっけ……?」と尋ねてみました。
「そんなの決まってるだろ。俺と籍を入れる気満々の、あの馬鹿女だよ」「婚姻届けなんて所詮紙一枚、そこに愛なんてないのに浮かれてて超ウケるよな」
婚約者は私を騙していたのです。でも何のために?と思った私は、しばらく話を合わせることにしました。そして、「なんで結婚することにしたんだっけ……?」と尋ねました。
すると、「金のためだよ」と即答する婚約者。
「あいつの両親は今は会社を畳んでいるけど、資産は数億にものぼるって話だ」「そしてジジィは病気でもう余命わずか」
私の結婚をとても喜んでいた父の顔が浮かびます。ごめんなさい、こんな男を結婚相手に選んでしまって……と、私は怒りと共に胸が痛みました。
私の隣には…
「ジジィの遺産貰ったらすぐ再婚しような♡」
「すぐに薔薇100本抱えて、迎えに行くからさ」
「ジジィって俺のこと?」
「え…?」
実は、私は独身最後の日だからと、父のそばにいたのです。結婚式前日だというのに、顔色がだんだん悪くなっていく私。その原因がメッセージのやり取りにあると気付いた父は、私のスマートフォンを見て激昂。
「明らかに俺のことだよな?馬鹿女の父親である俺のことを言っているよな?」という返信で、婚約者は自分が誤爆したことに気付いたようでした。
「いやこれは……」「どうして、順調だったのに……」「遺産のためだけっていうのは本当は違ってて……」としどろもどろなメッセージが連投されてきました。
父は「いいか、首を洗って覚悟しておけよ」「娘を馬鹿にされた親の怒り、なめんじゃねーぞ!」と婚約者を一喝したのです。
結果オーライ?
当然、婚約は破棄。式場にも中止の連絡を入れました。
その間も婚約者からの着信やメッセージが頻繁に来ていました。「余命わずかなお義父さんにウェディングドレスを見せてあげたくないのか」「お前が『私の誤解だった』と一言言えば、みんな丸くおさまるんだぞ!」とまで言われたのですが、こんな輩と籍を入れる気はありません。
それに、娘を馬鹿にされた怒りからなのか、なぜか父親の生きる気力がみなぎってきたようで……。すっかり顔色も良くなり、私の隣で鼻息を荒くして怒っている父。あまりの激変っぷりに、医者の顔色の方が悪くなっていました。
「しっかりと娘を愛してくれる人を見つけてからでないとあの世には行けない」と息巻く父を見て、私と母は涙をにじませながら顔を見合わせて苦笑いしたのでした。
その後――。
父をはじめ、母や弁護士の方ががんばってくれて、元婚約者と浮気相手には慰謝料をがっつり請求することに。
父も無事退院。今は両親と私でのんびりとした生活を送っています。もしもまた誰かとご縁があったら……そのときはしっかり下調べをしたうえで、婚約しようと思います。