結婚の挨拶といえば人生の一大イベントですが、私の仕事が忙しく、婚約の挨拶と両家の顔合わせを一度にまとめることになりました。そのため、彼の実家へは私の両親とともに向かったのですがーー。
結婚の挨拶へ…
彼の実家に着くと、恰幅のいい義父が出迎えてくれました。義母も隣でニコニコし、そのすこし後ろには、義弟も笑顔で立っていました。
玄関先に植えられたお花も丁寧にお手入れされ、清潔感のある家……この様子なら、義実家とも良い関係を築けそうな気がします。
とても和やかな雰囲気の中、義母がお昼ごはんの用意を始めたので、私も手伝いをしようとキッチンへ。するとそこには、豪華な料理の数々がすでに出来上がっていました。
私も母も料理が大好きなので、大興奮! どれから食べようか、ぜひレシピを聞きたい、と心を躍らせながら食卓へ運ぶお手伝いをしました。
気が利かない母親!?
「なんだよ、このメシ! 寿司頼めって言ったよな!?」「まったく……恥ずかしいったらありゃしない!」義父と彼、義弟は、目の前に並んだ豪華な料理に文句ばかり。私たちは耳を疑いました。
義母はすぐに謝っていましたが、正直私には何がわるいのかさっぱりわかりません。すると、彼も「うちの母親、気が利かなくてごめんな……」なんて謝ってきたのです。
いっきにその場の空気が重くなりましたが、母は気にせず義母の料理を絶賛。義母はうれしそうに笑ってくれましたが、そんな姿を見た義父は「お客様に気を遣わせて……」と舌打ち。
デザートの手作りケーキも安っぽいと批判して、聞いていて本当に気分がわるくなりました。義母の料理はどれもとてもおいしかったのです。
未来の私
「この義母の姿は未来の私かもしれない……」嫌な予感が頭をよぎる私。結婚したら、この文句の矛先は私にも向くような気がしています。
そんなことを考えていると「この結婚、ナシだな……」とかすかに声に出ていたよう。それを聞いた両親も「そうだね〜帰ろう」「それがいい」と同意してくれました。
私たちは義母におもてなしのお礼を言い、帰り支度を始めたのですが、何も理解できていない彼や義父は、もっとゆっくりしていってほしいと言います。挙句、「お前の気遣いが足りないからだ」と義母を責めている声も聞こえてきました。
先延ばしにしても仕方がないと感じた私は、彼に「結婚は白紙に戻そう」と伝えました。
すると目を丸くして驚く彼。義父も「どういうことだ!?」と声を荒らげています。
義母に対する言動を見ていて結婚生活に不安を抱いたと伝えると、両親もこんな家に嫁がせるわけにはいかないと言ってくれました。
そして母は、義母の近くに歩み寄り、わるいことをしていないのに謝ることはない、いつまでも我慢をすることはないから自由になればいいと声をかけました。すると、義母の目からは大粒の涙が……。そして、「私、いつかこの家を出たいって思っていたんです……」と打ち明けたのでした。
元義母のその後
義父は動揺しているように見えました。しかし、この期に及んで、ただの専業主婦はひとりでは生きていけないのだから、素直に謝れと怒鳴ります。
さすがにイラッときた私は、何か言わないと気が済まないと思っていたのですが、どうやらそれは父も同じだったよう。
「それならお義母さん、うちの会社の社員食堂で働きませんか? こんなにおいしい料理がたくさん作れるのなら大歓迎だ」と、自分が働く会社にスカウトしました。どうやらこれまで食堂を切り盛りしていたおばあさんが定年するそうで、後釜を探していたようです。
荷物をまとめるように義母に告げ、そのまま一緒に彼の実家を後にした私たち。その後、弁護士の力も借りて無事に義母の離婚は成立。父の話では、生き生きと仕事をしているようです。
私も婚約を破棄したので彼とはそれっきりですが、義母になるはずだった彼女とは、今でも料理友だちです。やさしくて物知りな元義母。彼とは結婚しなくてよかったと心底思いますが、彼女が義母になってくれたら、とても楽しそうだったとほのかに思っているのでした。
女性を家政婦のように扱う男性がいまだに存在しているのは、とても残念ですね。家の中が整っていて、出来立ての料理が食べられる、そんな当たり前の生活を送れるのは、生活の基盤を作ってくれている人がいるからだということに、気づいてほしいと願います。