予約したのに当日キャンセル!?
もう二度と来ないだろうと思っていたのですが、後日彼女からママ友会をうちの店でしたいと連絡がありました。1万円のコースを20名とのこと。まさかの予約にびっくりしましたが、なんだかんだうちの料理を気に入ってくれたのだと思うと少し嬉しい気持ちになりました。
しかしママ友会当日、ママ友ご一行をお迎えする準備をしていたものの、時間になっても誰も現れません。心配になってママ友に連絡したところ、別の店に急遽変更したからキャンセルね! と軽く言われました。
「セレブが集まるママ友会なのに、そんな貧乏くさい店でするわけないじゃない。本気にするなんて、みんなでバカにしている」と嘲笑うママ友に、あ然とした私。どうやら最初からキャンセルするつもりで予約したようです。
これから彼女たちは、隣町のレストランでママ友会をするそう。自慢げに予約をした店名を話していました。
そのお店にはいかないほうが……
私は、お店の名前を聞いてびっくり! つい「それは大変!逃げて!」と忠告しました。意味がわからないと鼻で笑ったママ友は、詳しい話も聞かぬまま電話を切ったのでした。
私が逃げてと言ったのには、もちろん理由があります。なぜならそのレストランは私の両親のお店。曲がったことが大きらいな父がいます。
彼女の話し声は甲高く、おそらくレストランでソムリエをしている父の耳に届くでしょう。父も盗み聞きは良くないとわかっていながらも、彼女たちの意地の悪い話を聞いたら黙っていられず、説教が始まるでしょう。
父はこれまで何度もお客さんを説教し、心を入れ替えさせたことがあるのです。でも、説教されたお客さんは皆父に感謝し、以降常連客になっているのが父のすごいところ。
彼女たちが心を入れ替えるとは思えません。お互いのためにも、両親のお店にはいかないほうがいいと考え、止めたのでした。
まさに渡りに船!
彼女たちと父のことは気になりますが、まずは仕込んでしまった料理をどうにかしなければなりません。夫と頭を抱えていると、ちょうど通りかかった常連さんが顔を見せてくれました。
貸切の札は出ていたものの「挨拶だけしに寄った」と常連さん。ひどく困った顔をしていた私たちに「何かあったのか?」と声をかけ、話を聞いてくれました。お客様に話すことではないとわかっていたものの、常連さんの顔を見ると弱音が出てしまい、私たちは事情を話すことに……。
すると常連さんは「ちょうど良かった!」と言って、部下を集めてくれました。ちょうどプロジェクト成功の打ち上げをしたいと思っていたとのこと。急遽うちの店で宴会をしてくれることになりました。
事情を聞きつけ集まってくれた部下の方たちはみんなとても良い方で「こんなおいしい料理が無駄にならなくて良かった」「予約なんてけしからん!」と味方してくれました。それだけでショックだった気持ちがやわらいだのでした。
そんな偶然ある!?
するとそこに、宴会の盛り上がりを耳にした娘がやってきました。友だちのママがいると思っていた娘は、お店の様子を見てびっくり。「あれ? ◯◯ちゃんママは来なかったの?」と言います。
すると、その名前を聞いたある部下の方がさっと顔色を変えました。ママ友の子どもの名前はかなり珍しく、部下の方もピンときたよう。詳しく聞くと、その男性はあのママ友のご主人だったのです。
さっきまで楽しそうに食事をしていたご主人でしたが、私たちに平謝りすると同時に、怒りに満ち満ちた表情に……。両親の店に行くというので、私も一緒に向かうことにしました。
意地悪ママ友の末路
私たちがレストランに到着すると、まさにママ友が父に説教をされている最中でした。彼女たちは非を一向に認めず「店が貧相すぎるのがいけない」「私たちのようなセレブが行きたいと思うような店にすべき」と言い張っていたようです。
しかし、彼女の夫がレストランに来たことで、ママ友は急におとなしくなりました。夫には逆らえないようで、しおらしくなった彼女は私や父に謝り、ご主人に連れられてレストランを出ていきました。
それ以来、彼女を目にすることはなくなりました。ご主人も父と同じく曲がったことが大きらい。今回の一件で夫婦でいることを見直されてしまい、彼女はご自慢のタワマンから出て行くことになったようです。
あのとき常連さんが連れてきてくれた皆さんは、彼女のご主人も含め、あれ以来常連に。店も繁盛しています。セレブとは程遠い生活ですが、これからも真面目に地道に頑張っていこうと思います。そしていつかは、実家のレストランのように、みなさんに長く愛される人気店になりますように……。
これまで実直に頑張ってきたことで、ピンチを乗り越えられましたね。見た目や地位よりも、心の温かさや誠実さが大事なのだと気付かされたのでした。