休みなく続く介護…
そんな同居介護ですが、夫はノータッチ。同居前は「できるだけやる」と言っていたはずなのに、いざ同居を始めると介護どころか家にすら寄り付かなくなり、休日も朝から張り切って準備をして、どこかに出掛けていきます。
義母は、夫がノータッチであることを知ってか知らでか、私がお世話をしていても夫の名前を大声で呼びます。義母が私ではなく夫にお世話をされたいのはわかっていますが、来ないものは仕方がありません。私が義母のお世話を続けると「どうせ遺産目当てでしょ! 1円もあげないから!」と怒鳴るのがお決まりの流れです。
義母の暴言もストレスですが、何より耐えられないのは夫が介護をしないこと。これが当たり前になってしまっては困ります。私は夫の休みに合わせて久しぶりに友人と出掛ける予定を立て、その1日だけ義母のお世話を夫に託すことにしました。
夫も承諾していたので安心していたのですが……。
介護にノータッチの夫
友人とのお出掛けが明日に迫った日の夜、仕事から帰った夫は、お風呂を済ませると夕飯も食べずに寝室に直行してしまいました。明日の予定を念押ししておこうと思い、寝室に向かうと、そこにはスーツケースにせっせと荷物を詰める夫の姿が……。
「何してるの?」私が言うと、夫は旅行の準備だと言います。さすがに明日ではないだろうと思いつつ、いつから行くのかと聞くと、今日の夜から夜行バスで京都に行くのだとか。私は呆然としてしまいました。
夫は私との約束をすっかり忘れていたようで「家事と介護がおまえの仕事。俺に自分の仕事を押し付けるな」と言って、そのまま荷造りの手を止めることはありませんでした。
さすがに私も我慢できず「週末は俺が介護するって言ってたよね? 私はあなたが協力してくれって言うから、仕事も辞めてここに来たのに……」と怒りをぶつけるうちに、涙が溢れてきてしまいました。
夫はめんどくさそうに大きなため息をついてから、予想外の言葉を口にしたのです。
義母の決断
「順番待ちをしている施設から連絡があって、まもなく順番がまわってくるっていうから、あとちょっと我慢して」
義母を施設に入れるなんて初耳です。義母にもまだ伝えていないそうで、決まったら私から話すようにと言いました。たしかに介護から解放されたら楽になります。しかし、私は介護から逃れたいのではなく、夫婦で協力したかったのです。
しかし今回は夫を止めることは難しいでしょう。私は誰と行くのか、いつ帰るのかを尋ねました。夫曰く「親しいお友だち」と行くそう。私が腑に落ちない顔をしていると、夫は「介護に追われて疲れ切って、女を捨ててる今のおまえじゃあ不倫されても仕方ないよな」とぼそっと言い捨て、そそくさと出掛けていきました。
これはおそらく不倫旅行を意味するのでしょう。こうなったら、不倫の証拠を掴んで慰謝料を取ってやる! と腹をくくりました。
翌朝、義母は「私、施設に入るから」と淋しそうにつぶやきました。夫との会話が聞こえていたようです。私は、義母の人生は義母自身で決めてほしいと思っていたので、嫌なら断ればいいと提案しますが、義母の決意は固く「これ以上迷惑はかけたくない」と言われてしまいました。
しかし、最後にお願いがあると言うのです。
夫の計画がまる潰れ! そのワケは?
一カ月後、ついに義母が施設に入居する日。義母を施設に送り届けて帰宅した瞬間、夫は待ってましたとばかりに離婚届を突きつけてきました。
私が素直に応じると、夫は驚きながらも「これで女を捨てた嫁と邪魔者の母親から解放される」と大喜び。それだけならまだしも「専業主婦のくせに、離婚してどうやって暮らしていくつもりだよw」と私を見下し始めました。
しかし夫は何かを勘違いしています。義母は、介護生活が始まって以来一度も顔を見せなかった息子に失望していたそう。ついには何の相談もなく施設に入れると言われたときに、自分の財産はすべて私と孫に残すと決めたようで、私と息子は義母からまとまった金額の生前贈与を受けています。
夫の浮気にも、気付いていたようです。施設に入る前に、息子にバレないように財産を整理したいと相談されたのでした。義母は、息子が申し訳ないと私に何度も詫びてくれました。私に冷たく当たったのも、そうすることで私が音を上げ、もっと息子が介護に協力すると思ったようです。
夫はその話を聞いて、顔面蒼白。すぐに義母に電話をして確認していましたが、話が本当だとわかると肩を落としていました。
その後、離婚届を役所に提出して、無事に私たちの離婚が成立。義母のおかげで、広々とした家で悠々自適に暮らしています。でも私が何よりもうれしかったのは、義母からきらわれていないと気付けたこと。もともと見返りを求めていたわけではありませんが、頑張って介護をしてきてよかったと心から思っています。
介護には休みがなく、子育てのように少しずつ楽になるものではありません。自分のキャリアを捨てて介護に専念するという決断を下すのも、簡単ではなかったと思います。
義母のやさしさに触れられて本当によかったですね。それだけでも報われたのではないでしょうか。