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電話しているのに「さっぱり連絡がない」と言い切る認知症の母に感じる切なさ【体験談】

昨年の夏、入院中に認知症を発症し、要支援1の認定を受けた90歳の母は、長野の田舎町で1人暮らしを続けています。日々の生活はほぼ自立してできるのですが、問題は記憶障害。本人は「物忘れ」と言いますが、時折耳を疑うようなことを言っては周りを驚かせます。そんな母の心ない言葉にショックを受けたエピソードをお話しします。

電話で安否確認するのが習慣に

軽度の認知症がわかった母は、退院してから町のデイサービス(利用者が自宅で自立した日常生活を送れるよう、食事や入浴などの支援が中心の介護サービス)を利用できるようになりました。

当初は断固拒否していたものの、約1年が過ぎようとしている今では、施設のお迎えを楽しみに待っています。独居老人にとって、入浴ができ、昼食が食べられて、入所者やスタッフと会話ができるのは、生きる張り合いにもなっているようです。

 

隣町に住む兄夫婦は、週末に買い物をするなど、近くにいるからこそのサポートをしてくれています。神奈川県に暮らす私は頻繁に帰省できない代わりに、週の半ばに母に電話をかけ、安否確認を兼ねて話し相手をするのが習慣です。

 

以前は、私の仕事や孫たちの話など、こちらの様子を聞きたがった母ですが、認知症と診断されてからは、もっぱら自分の話ばかり。毎日暇でつまらないとぼやきながらも、近所の人とお茶のみをした話、外食に連れて行ってもらった話、デイサービスで褒められた話など、1度の電話で同じ話を4周も5周も繰り返し、私はただひたすら「よかったね」「ありがたいね」と相づちを打つという具合。しばらくしゃべり続けると、母は満足げに「じゃあまたね」と電話を切るのでした。

 

母の近況を聞いて、必要物資を調達して送るのも私の役割。母が「折り紙を折っている」と聞けば大小さまざまな折り紙を送り、「お友だち達が来てもお茶菓子がない」と聞けば和菓子の詰め合わせを送り、「変わったものが食べたい」と言えばレンジで温めてすぐ食べられるお惣菜を送ったりしています。

 

一昨日の電話も忘れている母

ところが、ある日兄から「最近、お母さんに電話してる?」と連絡がきました。「してるよ。どうして?」という私に、兄は「さっぱり連絡してこないって、お母さんが言っているけど」と私を責めるような口調で言うのです。私は耳を疑いました。なぜなら、一昨日に母と電話で長話をしたばかりだったからです。

 

「ちょっと待って。私おととい電話したばかりなんだけど」と言って、母と交わした会話の内容まで説明しました。兄は電話の向こうで母に確認しています。母は「そうだったかな?」「すぐ忘れちゃうんだよな」と悪びれもせず、つぶやいています。

 

仕事が終わってからだと遅い時間になってしまうため、私はアラームまでかけて仕事の合間に電話をしているのに、もう何カ月も音沙汰がないような言われ方をされて、腹が立つやら、悲しいやら。それも認知症のせいと思うと、気持ちのやり場が見つかりません。

 

「せつなくて涙が出るんだけど」と言うと、兄はそれをそのまま母に伝えますが、母は「そうなんだよ、すぐに忘れちゃって切ないんだよ」と笑っていて、会話も的外れ。心配して電話をかけたことも、母の喜びそうなものを送ったことも、母はもう忘れているんだろうか。もしかしたら、母を喜ばせたくて新型コロナウイルスの前によく連れて行った旅行のことも、孫たちと一緒に過ごした思い出も、全部記憶から消えるのかもしれない……。そう思うと寂しさと虚しさが込み上げて、涙がこぼれました。

 

 

近い記憶ほどよく忘れる

最近読んだ認知症の記事には、「近い記憶から忘れていく」と書かれていました。母と話しているとまさにその通りで、十数年前の出来事は細部までよく覚えているのに、ここ数日、数週間の話はエピソードごとごっそりなくなっていたりします。

 

少しずつ認知症が進んでいる母は、この春、要支援1から要介護1に認定されました。要介護1になると、今までは基準に満たず、入所できなかった介護老人保健施設にも入ることができるなど、支援の幅が広がります。

 

これまで「ひとりでやっていける」と強気だった母も、少しずつ意識が変わってきたようです。母の甥が老人施設を経営しており、妹や従妹もそこに入所しているため、周囲からは「早く入所すればいいのに」と勧められていたものの、頑なに拒んでいた母。しかし、いよいよ心が決まった様子で、最近では「今度空きが出たら、入れてもらおうかな」と言い始めました。

 

まとめ

母が施設に入る日も時間の問題で、カウントダウンが始まったと感じる今日このごろです。近くで身の回りの世話ができない私にとっては、施設に入ってくれたほうが安心であることはたしかです。しかし一方で、実家に帰省してもそこにはもう母がいないという日がくることを受け入れるには、もう少し時間がかかりそうです。

 

 

※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。

 

著者:あらた繭子/50代女性・主婦。大学生と高校生の子をもつアラフィフのフリーライター。長年の無茶な仕事がたたり、満身創痍の身体にムチを打つ毎日。目下の癒しは休日のガーデニングと深夜のKPOP動画視聴。

イラスト:マメ美

 

※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2024年6月)

 

シニアカレンダー編集部では、自宅介護や老々介護、みとりなど介護に関わる人やシニア世代のお悩みを解決する記事を配信中。介護者やシニア世代の毎日がハッピーになりますように!

 


シニアカレンダー編集部

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