不可解なお隣さん
もちろん夫には、隣の奥さんを怪しむ気持ちはありません。わが家を訪ねてくるたびに鼻の下を伸ばしているのです。
ある日夫は、私が作ったお弁当に手を付けないで帰宅。なんと出がけに隣の奥さんからお弁当をいただいたというのです。日ごろお世話になっているお礼だと言われたそうですが、さすがにやりすぎではないでしょうか。
翌日、私はマンションのエントランスで隣の奥さんにばったり。せっかくの機会なので、おすそわけのお礼を伝えつつ、自分の素直な気持ちを伝えることにしました。申し訳ないという気持ちを前面に出し、やや迷惑に思っていることもほのかに匂わせて話をしたのです。
それからというもの、夫がお弁当をいただくことはなくなりましたが、彼女は相変わらずマンション中のご家庭におすそわけを配っていました。
「俺はハズレ嫁を引いたな」
隣の奥さんからのおすそわけがなくなって数週間経ったある朝のこと。目をこすりながら、眠い、寝坊したと起きてきた夫は、朝から不機嫌でした。しかし真夜中までスマホを触っていたら眠いのは当たり前。自業自得です。
テーブルについた夫は、目の前の朝ごはんを見てげんなりしている様子。もうそして「俺はハズレ嫁を引いたな」 とポツリ……。
意味不明な夫の発言の真意を問いただしたところ、手作りのパンではないからガッカリしたとのこと。隣の奥さんは焼きたての手作りパンを朝食に出すのに、なぜうちはスーパーの食パンなんだと言うのです。
「嫌なら食べなくて結構」 と私が言うと、「離婚されてもいいんだな」 と夫。そのまま喧嘩に発展し、夫は朝食も食べずにさっさと出かけて行きました。
「まずい!」手作りのパンを出したのに…
その様子を見ていた娘は、急におばあちゃんの家に行きたいと言いだしました。その理由を聞いた私は、夫に一泡吹かせる秘策を思いついたのです。その日の夕方、私は娘を連れて義母を訪ねました。
翌日、朝ごはんを食べようとする夫の目の前には、手作りパン。しかし夫は、形が悪い、硬いと文句ばかりです。隣の奥さんはもっとじょうずに作るのに、努力が足りないのではないかと、嫌みを言う始末。
すると、急に娘が泣き出しました。実はこのパン、娘が義母に教えてもらって作ったものでした。夫の主張を耳にした娘はパン作りがじょうずな義母を思いだし、昨日の夕方、急遽習いに行ったというわけです。
お隣の奥さんが抱えていたのは…?
夫がうろたえているうちに、娘が登校する時間がやってきました。娘は悲しい顔をしたまま学校へ。さすがの夫も深く深く反省したようで、もう2度とこんな態度は取らないと約束してくれました。
問題は娘です。家に帰ってきたらキチンと話そうと思っていたのですが、マンションのエントランスで隣の奥さんに偶然出会ったそう。あまりに元気がない娘に隣の奥さんが声をかけてくれ、娘はわが家での一部始終を話したのでした。
ソワソワしながら娘の帰宅を待っていた私は、隣の奥さんと一緒に現れた娘を見てびっくり! 隣の奥さんは、申し訳なさそうに謝ってくれました。
よくよく話を聞くと、お隣のご主人はどんな料理も褒めず、感謝すら見せないそう。そんなある日料理をおすそわけし「おいしい」と褒められたことが忘れられず、過剰なおすそわけをするようになったと言います。
私は、おすそわけを断って申し訳ない気持ちでいっぱいです。隣の奥さんには、ご主人に気持ちを伝えることをおすすめしました。これにてわが家のおすそわけ騒動は収束したのでした。
今では時折娘が隣にパンを習いにいき、週末にはわが家にもおいしい焼きたてのパンが並ぶようになりました。隣のご主人も、少しずつ感謝の気持ちを見せるようになったそう。丸くおさまって何よりでした。
隣の芝は青く見えるもの。今回も、隣と比較したことが引き金になり、夫婦喧嘩に発展しています。
しかし大切なのは、人と比べることではなく自分にとっての幸せとは何かを見つめ直すこと。他人と比較して一喜一憂するのではなく、今ある幸せに感謝し、周りの人たちと温かい関係を築いていくことこそが、人生を豊かに彩る秘訣なのかもしれません。
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。