毎日夜遅くまで残業し、休日まで出勤して仕事をしている夫。それでも会社の状況はなかなか良くなりません。
ある日、私は夫の会社の近くまで行く用事があったので、思いつきで立ち寄ってみました。にこやかに出迎えてくれた義父母でしたが、顔には笑顔で隠せないほどの疲れの色が見えます。思い切って何か手伝えることがないか尋ねてみましたが、「気持ちだけ受け取っておくよ」と……。
義両親は、とても誠実な人たちです。責任を持って会社を支えようとする姿勢が、ひしひしと伝わってきました。
元経理の勘?感じる不穏な空気
義父母と話していたとき、何だか背中に強い視線を感じた私。振り返って見ると、1人の女性社員がこちらをにらんでいました。彼女は最近入った経理担当で、経験が豊富だと聞きます。
義父母が席を外すと、彼女は私に近寄ってきました。私たちの話を盗み聞きしていたようです。彼女は挑発的な態度で、「人の仕事には口を出すな」と警告してきました。先程チラッと義母が広げた書類を見ましたが、そこだけでも間違いがあるように見受けられたのですが……。軽く指摘したら、悔しそうな顔をした彼女。経理を任せて、本当に大丈夫なのかと少し不安になりました。
その数日後は、夫の給料日。申し訳なさそうに夫が差し出した、月給16万の明細を見て、私は驚きを隠せませんでした。新入社員の初任給より低い金額を見て、会社の大変さを感じるとともに、何だか納得いかないものを感じたのです。
私はいろいろと考え、思い切って義父と話すことに。そして、経営コンサルタントをしている私の兄に相談することを提案したのです。幸いなことに、義父はそれを受け入れてくれました。兄も二つ返事ですぐに対応してくれましたが、その結果、思いもよらないことが発覚したのです。
夫のとでもない裏切りが発覚…
兄に呼び出され、私も会社の資料を確認したのですが……。思わず、あ然としてしまいました。会社の経営に関わる一大事を見つけた私たち。すぐに義両親と話し合うことにしました。そして、慎重に対策を練り、決戦の場へと進んだのです。
その日、社長室に呼び出されたのは夫。私たちは夫の目の前に資料を並べ、詰め寄ります。実は会社の支払い記録と夫の給与明細のコピーには、大きな隔たりがあったのです。夫の顔は、みるみる青ざめていきました。これは、れっきとした不正行為。そして、夫1人の力ではできないことです。誰か協力者がいるはず……。私たちは思い当たる相手も、社長室に呼び出しました。
それは、あの日、私をにらんでいた経理担当の女性です。プロがこんな不一致を見落とすはずはありません。このズレは、勘違いで済まされるレベルではありません。なんと彼女は、差額を夫の隠し口座に振り込んでたのです。その総額は、1000万にも及んでいました……。
さらに、夫の支出明細を見ると、『会議』や『出張』という名目で頻繁に経費が発生しています。しかし、その大半が業務時間外に使われており、その使い道は高級レストランやホテル。夫も経理の女性も俯き、震えています。
義父は深いため息をつきました。将来は夫に会社を任せようと決めていたのに、不正に、業務外での不適切な関係が絡む二重の横領……。義父は失望しています。
私は傷心する義父に代わり、夫を追い詰めてました。それを見て、不倫相手である経理の女性は逆ギレ。夫を支えていたのは自分で、無関係な私に出る幕はないと言うのです。犯罪や不貞行為をするような人が、よくそんなことをと思いましたが、言い返したい気持ちを抑えて、私は現実を教えてあげました。実は、義父からのバトンを受け、私がこの会社の社長に就任したのです。
夫に残された唯一の道とは
今回の一件で、夫には家業を継ぐにふさわしい覚悟と責任感が足りないことがはっきりしました。そこで、私に白羽の矢が立ったのです。
夫は、義父から社員としても息子としてもいらないと言われ、私からも夫としていらないと言われ……。みんなから不必要だと、手放されたのでした。今、夫の目の前にあるのは、唯一更生への道のみ。反省し、罪を償ってもらいたいです。
新しい人生のスタートを切った私は、兄とも協力して、賢明に働きました。おかげさまで義父から受け継いだ会社は経営難を乗り越え、今は落ち着いた経営に戻っています。社員たちも懸命に働いてくれていて、頼もしい限りです。これからもみんなで会社を盛り上げていきたいと思います。
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わが子を大切に思うのと同じように、義父にとっては会社もわが子のようなものだったのではないでしょうか。そんな大切にしてきた会社を、息子が裏切っていたとなれば勘当されてしまっても仕方ないのかもしれませんね。反省し、しっかりと罪を償い、更生れることを願うばかりです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。