「昨日は旦那さまをお借りしてすみませんでした!」「でも決してやましいことはありませんので、ご安心くださいね!」と言ってきた彼女。
彼女は都内の大学の法学部の3年生。うちの弁護士事務所主体で開催した、弁護士を目指す大学生向けセミナーに参加したとのことでした。
セミナー後、彼女は私の夫と食事に行き、将来について親身にアドバイスをしてもらったそう。彼女は「私もいずれは弁護士として活躍するつもりですし、不適切な関係などと誤解されるのは避けたいので、こうしてご連絡したんです」と言っていたので、素敵な心構えだと思っていたのですが……?
見栄を張った夫
「本当に旦那さんって優秀な弁護士さんですよね!」「これからも旦那さんにはいろいろとご相談させていただくかもしれませんので、今後ともどうぞよろしくお願いします!」と言って電話を切った彼女。
彼女との電話を終えた私は、すぐさま夫に連絡しました。
「昨日はずいぶんと楽しかったようね、女子大生と食事してたなんてびっくりしたわよ~」と言うと、「な、なんでそれを……!」と大慌ての夫。
「ところで、どうして彼女はあなたを弁護士だと勘違いしてるの?」「弁護士は私で、あなたは私の弁護士事務所の事務員でしょうが!」
「嘘はついてない!彼女が勝手に勘違いしてるだけなんだ!」と言う夫に、「なんですぐに訂正しないのよ!」と怒った私。
「食事中に向こうが勘違いしてることには気づいたんだけど、訂正するタイミングを逃したっていうか……」「そもそも、弁護士の妻を敵に回すような馬鹿なことはしないって!」という夫に、私は「信じていいのね?本当に彼女とは何もないのよね?」と再度確認した私。
「これからはもっと慎重に行動するし、今度会うことがあったらしっかりと弁護士じゃないことも伝える」という夫。その夫の言葉を私は信じてしまったのでした。
大学生からの大切なご報告
数カ月後――。
再び大学生の彼女から私のもとへ連絡が来ました。
「今日は大切なご報告があってご連絡しました!」「私、あなたの旦那さまの事務所で働くことになりました!」「あと、妻の座も私に譲っていただきますので、事務員のあなたはとっとと辞めてもらえますか?」
以前よりも居丈高に、上から目線でそう言ってきた彼女。
「最低ね……妻がいながら若い女の子に手を出す夫なんて、即離婚よ」と言うと、彼女は「はい、すぐに離婚してください!」「でも、私たちに体の関係はありませんから、慰謝料請求しても無駄ですからね?」と勝ち誇ったような態度。
「年収3000万円の弁護士の旦那さま、奪ってごめんなさい♡」
「私の大学卒業と同時に結婚するので、早く離婚してください!」
「は~い!ありがとう」
「え?」
一瞬呆気にとられたような彼女でしたが、「夫は年収300万円だけど?」と伝えると、「冗談はやめてくださいよ~」と言い返してきました。けれども夫が年収300万であることは事実。雇い主の私が言っているのだから間違いありません。
「私が弁護士で、夫が事務員なの」「あなたが就職するとか言ってるその弁護士事務所の所長は私よ」と真実を伝えると、「そんなの嘘よ!だってあなたはあのときのセミナーにいなかったじゃない!」と彼女。
大学生向けセミナーだったので、私はあえて現場に行かずに、別の仕事をしていました。年齢が近いほうがお互いに話しやすいだろうと思い、セミナーの講師も若い弁護士で固めていたのです。まさか、受付の私の夫がターゲットにされるとは思いもしませんでした……。
「そんな……!私、彼に騙されてたってこと?」「卒業後、事務所で雇ってくれるって話はどうなるの!?」「これでもう将来安泰だと思っていたのに!」
そう嘆く彼女に、「内定はあげられないけど、夫ならもらってちょうだい」「人を騙して私を裏切るような人とさよならさせてくれてありがとう」と言った私。そしてすぐ、買い物に出ていた夫に「離婚届をもらいに市役所に行ってきてくれる?」とメッセージを送りました。
慰謝料の代わり
弁護士を騙って、私を裏切った夫。怒りを通り越して夫に呆れてしまった私は、離婚届を持って帰ってきた夫にすぐさまサインをさせました。夫は「遊びだったのに……」と言っていましたが、私が傷ついたことに変わりはありません。
翌日――。
離婚届を役所に提出し、無事に夫と赤の他人になった私。せいせいした気持ちで事務所に戻ろうとしたときに、例の大学生の彼女からまた連絡がありました。
「彼から本当に離婚したって聞いたんです……。でも、私に慰謝料は絶対請求しないでくださいね?」「私は騙されたんです、私は被害者なんです!」「法学部で学んでるからこそ、肉体関係も持たずに今まで来たし……」
あくまでも自分の非を認めようとしない彼女。私はため息をついて、「こんな小賢しいことをさせるために、親御さんは学費を払ってくれているわけじゃないだろうに……」「慰謝料を請求する代わりに、今回のことを大学に報告しておくね」と言いました。
もともと、慰謝料を請求するつもりはなかった私。それよりも、法学部で得た知識を自分のいいように使おうとしているその精神が気に入りませんでした。だからこそ、大学に一報入れることにしたのです。
「そもそも慰謝料っていうのはね、与えた精神的苦痛に対して謝罪の気持ちを込めて払うものなの」「それを支払い拒否するってことは謝罪の気持ちはないんでしょ?」と言うと、「あ、謝ります!本当に申し訳ありませんでした!」とようやく謝ってくれた彼女。
私にはその場しのぎの謝罪を受け取るつもりはありませんでした。「法律はあくまでも最低限のルール、それ以前に道徳的にどうかということを考えなさい」とだけ言って彼女との電話を切り、すぐに彼女の大学にこの一件について報告したのでした。
その後――。
私の報告により、彼女は大学を退学処分となり、遠方の実家に戻ることになりました。彼女のご両親も激怒して、彼女の私物を売り払い、相場よりも高い慰謝料を私に一括で支払ってくれました。
元夫も実家に戻ることになったのですが、私が元義両親にすべて報告していたこともあり、みんなから冷たい目で見られて肩身の狭い思いをしているそうです。
私は離婚前と変わらず、弁護士事務所の所長として日々忙しく過ごしています。元夫がいなくなっても変わらない生活を送れていることに少しほっとしています。
【取材時期:2024年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。