料理を作ったり、コーヒーを入れたりするのには自信があるらしい夫ですが、開店したてでお客様にグラスの水をかけてしまったりと前途多難。開店前にしっかり接客の練習をすべきだとあんなに口を酸っぱくして言ったのに……。
「軌道に乗るまで」という約束で、休みの日だけ夫のカフェを手伝っていた私。しかし、3カ月後、夫は私に無断でバイトを採用していたのです――。
女子大学生のアルバイトに夫がついた嘘
「こんにちは!新しくバイトで入った者です!」と、私のスマホに電話をかけてきた女の子。聞けば、今日から夫のカフェで働くことになったのだとか。緊急連絡先として休憩室に貼っておいた私の電話番号を見て、連絡したのだそうです。
彼女は就活中の大学4年生で、もともと夫のカフェの常連だったとのことでした。講義がほとんどなくなったことを機に、バイトに応募したのだそう。人件費を払う余裕なんて、夫のカフェにはないはずなのに……。
「会社経営しながら副業でカフェも経営しちゃうなんて……店長って本当に理想的な男性ですよね」「私、週7でバイトに入れるんで!だから奥様がパートに出なくても大丈夫ですよ!私が店長をしっかり支えますから」
彼女の言葉に私は目を白黒させました。会社を経営しているのは私のほう。
「お店も店長のことも、私に任せてください!」「人気店員としてお店を盛り上げてみせますね!」とやけに自信たっぷりな彼女に、私は「はぁ……」としか返せないのでした。
その後すぐに、私は夫に連絡。
「この経営状態でバイトを週7で雇うなんてどういうつもり?」「しかも、本業は会社経営でカフェはただの副業なんて…….。どうしてそんな嘘をついたのよ?」「私がパート扱いされてるんだけど!」
「彼女みたいな若くてかわいい子が店員でいたら、客足も増えるだろうと思って!」「会社経営うんぬんは話の流れでそうなったっていうか……。しっかり訂正しておくから安心して!」と夫。
そして、「あ、お客さんが来たからまたあとで!」と言って夫は電話を切ってしまいました。面倒ごとにならなければいいけど……と思いながら、私は天を仰ぎました。
私を見下す女子大生
2カ月後――。
いきなりバイトの彼女から「奥様、今週末のシフト、私の代わりにお願いしますね!」と連絡が。
「就活で内定もらえて、彼氏が旅行に連れて行ってくれるんで!」「おばさんって暇そうだし、大丈夫ですよね?」とあからさまに私を下に見ている彼女。
「全然大丈夫じゃありません」「申し訳ないけど、私も週末、本業の仕事が入っているので」と答えると、彼女は「えっ!?本業!?」と驚いていました。結局、夫は2カ月の間、彼女に対して訂正しなかったようです。
「私は本業が休みの日に夫のお店を手伝っていただけ」「なので、突然のお休みは店長である夫と直接相談してください」と言うと、彼女は「えー!そんなぁ」と不満げ。
「そのくらい融通きかせてくれてもよくないですかぁ?」「店長も週末忙しいみたいだしぃ、奥様が一人でお店回しておいてくださいよぉ」と彼女。そして、「奥様の仕事なんてテキトーに理由つけて休んでも問題ないだろうし、私のシフトよろしくお願いしますね~!」と言って、私が止めるのも聞かず、一方的に電話を切ってしまったのです。
またもその後すぐに、夫に連絡した私。
「突然、バイトの彼女から連絡があって、強引な態度で週末のシフトを代わってくれって言われたんだけど!」「しかも、あなたも忙しいから私一人でお店を回してくれって……バイトだからって仕事をなめすぎなんじゃない?」
憤慨する私をなだめるように、「ごめん!俺から彼女にはちゃんと話しておくから!」と言う夫。しかし、私の怒りはおさまりません。
「それに、あなたも週末忙しいって……。私、何も聞いてないんだけど?」と言うと、「じ、実は……、週末は店を彼女に任せて、泊まり込みの経営の勉強会にでも参加しようかと思ってて……」「でも、彼女もいないなら店は休業にしちゃおうかな」と夫。
「そんなの聞いてないわよ!」と声を荒げた私に、「あれ?そうだったっけ?」と夫はとぼけた様子。「あ、お客さんが来ちゃった!じゃ、あとで!」と、夫もまた一方的に電話を切ってしまったのでした。
店長とバイトの本当の関係
1週間後――。
「ねぇ、奥様♡」と、突然私に連絡をしてきたバイトの彼女。
「大事な報告があるんですけど~……。私、店長と結婚します!」と、とんでもないことを言われ、私は頭をぶん殴られたような気持ちでした。
「まさか、2人で隠れて浮気してたってこと?」と聞くと、「えへへ♡」と彼女。
「年収3,000万の社長はもらったから!」
「パートのおばさんは出てってよねw」
「誰のこと言ってる?」
「え?」
堂々と略奪宣言してきた彼女と夫に呆れ果てた私は、すべて彼女に話すことに。夫は必死に隠してきたのでしょうが、そんなことはもう関係ありません。
「私の本業が会社経営で、夫はそんな私の援助で雇われ店長としてカフェをオープンしたの」「あと、夫の経営が下手すぎるから、カフェの店長は新しく雇いました」「夫は来週、店長からパートへ降格になるのよ」
さっきまで私を小馬鹿にしていた彼女でしたが、「そ、そんな……。嘘でしょ……」と一転して悲痛な声。「友だちみんなに『最高の彼氏ができた』って自慢してたのに……」と言う彼女に、私はさらに社会の厳しさを教えることにしました。
2人の哀れな末路
「衝撃を受けているところごめんね」「あなたが内定決まった会社って……」と聞くと、彼女は私が経営する会社の名前を答えました。
「やっぱり……。そこ、私が経営してる会社よ」「社長のことも知らずにうちの会社を受けたのね」と言うと、「うそでしょ!?」と驚く彼女。そして、「受けたっていうか……、店長が俺の会社だから雇ってあげるよって約束してくれたから……」と続けました。
「まずは、すぐに就活を再開することをおすすめするわ」と言うと、彼女は「えっ!?もうどこも募集してるところなんてないのに!?」と焦った様子。
「だって私の会社で採用するなんてありえないから」と言うと、「そ……そんな……」「店長の嘘だったなんて……」と彼女。
「再就活、がんばってね」と伝えてやり取りを終えました。
その後――。
私が浮気を知ったことにまだ気付いていない夫から電話が鳴りました。バイトの彼女を私の会社で雇ってやってくれと言う夫。「彼女の真面目な仕事ぶりは俺が保証する」とまで言うので、「不真面目な浮気ぶりのこと?」と返すと、夫はあたふたし始めました。
私は夫に彼女とのやり取りを全部伝え、「今離婚届にサインすれば、カフェ開業で援助した資金の返済は求めない」という条件を出して離婚を切り出しました。「別れたくない」「やり直したい」とさんざんすがってきた夫でしたが、慰謝料に加えて援助資金の返済まで求められてはかなわないと思ったのか、しぶしぶサインをしてくれました。もちろん、カフェのパートもクビです。
大学生の彼女からは「旦那さんとは二度と会いません!私は旦那さんに騙されただけなんです!だから内定をください!」と連絡がありました。たしかに、見栄を張って嘘をついた元夫にも非はあります。しかし、既婚者と知って元夫に手を出しておいて、開き直って被害者面するような彼女を雇いたいとは思えなかったので、きっぱりと断り、慰謝料を請求しました。
今、カフェは新しい店長のもと、軌道に乗り始めたところです。来客数も少しずつ増えているので、来年には安定した黒字経営になるでしょう。私もたまに客として利用していますが、そこでコーヒーを飲むたびにどうしても元夫を思い出してしまいます。経営者としても、一人の女性としても、もっと人を見る目を養わなければ……と思っています。
【取材時期:2024年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。