夫は、パート先でも注意されたときにそういう顔をしているのかと私に尋ねてきましたが、そんな顔をしたことは一度もありません。パート先のみなさんはやさしいので、そもそも注意されることがないのです。従業員同士も仲良しで、お店の雰囲気がとても良く、お客さんもみんないい人たち。
飲食店に勤める私は、以前うっかりビールをこぼし、お客さんの服を汚してしまったことがありました。そのときは、さすがに店長には注意されましたが、お客さんは怒ることなどなく、私の心配までしてくれました。それを機に、私はそのお客さんと仲良くなり、今ではほとんど毎日通ってもらえるようになりました。
物腰が柔らかくて、上品なお客さんは、昔この町で教師をしていたそうです。とてもやさしそうなおじいさんですが、昔は熱血で生徒からの人望も熱く、今でも教え子たちはお客さんを慕っているそう。もしかしたら、夫や義母も知っている方かもしれません。
理不尽に怒られ、笑われる私
今日も私は、夫に叱られています。大事な仕事の書類を、チラシと一緒に私が捨ててしまったようなのです。確かに、私のミスではありますが、そんなに大事な書類をチラシの上に置いておくなんて……。最近は、わざと私にミスをさせて怒っているようにすら思えます。
いつものように叱られているとき、私があまり落ち込まなかったことで、ますます夫の気分を害しました。すると夫は、「いっそ泣かせてやろうか」と怒鳴り、義母も私に怒っていると言います。しかし、怒らせるようなことをした記憶がまったくない私。いつも理不尽に怒られているので、思い当たるふしがなく、困ってしまいます。
義母の機嫌を損ねたようで、明日の夕飯の下ごしらえを長時間かけてしておいたのですが、それを全部捨てられてしまっていました……。おまけに、私の洗濯物だけが地面に落とされ、土だらけに。足跡までついていて、悪意のあることが丸わかり。汚れた洗濯物を拾う私を見て、義母は楽しそうに笑っていました。
どうやら、夫も義母も私のことが気に入らず、私を泣かせて笑いたいよう。わざわざ私を叱る機会を作り、ストレス発散しているのです。
私を泣かせてやろうと楽しむ親子
「嫁いびりされてやんの〜」
「笑ってないで何か言い返してみろよ! 本当は泣きたいんだろ?」
義母にいびられて、みじめな私を見て大笑いする夫。真剣に相手にしていたらこちらが参ってしまうので、私は何をされても泣いたり怒ったりせず、笑って流してきました。
「泣くことになるのはお義母さんだから大丈夫!」
しかし、それではおもしろくない義母と夫からの悪意ある言動は日に日にエスカレート。さすがの私も、もう我慢の限界……。反撃に出ることにしました。
「は?」
何を言ってるんだかというような表情の夫。やれるもんならやってみろと言って、機嫌を損ねてどこかに行ってしまいました。
明日、義母は同窓会に出席するそう。今は私をいびって楽しそうに笑っている義母ですが、もしかしたら、泣きながら帰ってくるかもしれません。
そして翌日、夫から怒りのメッセージが届きました。帰宅すると、義母が電気もつけず暗い部屋で泣いていたと言うのです。一体何が起きているのだと問い詰めてきたので、教えてあげました。
実は、私が仲良くしているというお客さんは、義母の恩師。私から嫁いびりの話や夫からひどい扱いを受けている話を聞いて、同窓会の最中にみんなの前でお説教をしてくれたようです。いい年をしてみんなの前で叱られるのも恥ずかしいし、同級生から後ろ指をさされることにも義母は耐えられなかった様子。
夫は、プライベートなことを他人に話すなと激怒していましたが、そもそも人に話されて困るようなことをしているほうが悪い。義母の嫁いびりは、どんどんひどくなり、夫は助けてくれるどころか、私のことをバカにして大笑い。親子2人で私のことを泣かせてやろうと楽しむ毎日……。
正義感の強い元教師のお客さんは、どうしても許せなかったようです。
最後に泣いたのは私ではなく…!
狭いこの町で暮らす人たちには、お客さんの教え子も多く、「あの人に嫌われたら、この町では生きていけない」とまで言われています。なんと夫は、お客さんの教え子だった上司から「私生活に問題があると、出世にも響くぞ」と忠告されたそうです。
同居のためこの町にやってきたとき、誰も知り合いがいなかった私。越してきたことを後悔した時期もありましたが、今は強い味方ができて本当に良かったと思っています。
あれ以来、義母は自室から出てこなくなりました。同窓会で大恥をかき、噂が広がってしまい、メンタルがボロボロになってしまったようです。私のせいで義母が外を歩けなくなったと夫は怒っていますが、嫁を助けないどころか、義母と一緒になってバカにしていた夫。むしろ義母よりも印象が悪いのは夫です。じきに夫の噂も広がりそうな……。
夫は、今回の件が自分の出世に影響すれば、私にも影響がある、道連れにしてやると脅してきました。何を言っているのか、この先も夫の隣を歩んでいくわけがありません。私は夫に離婚を言い渡しました。何十年も教鞭をとってきたお客さんの教え子には、弁護士さんも不動産屋さんも。夫と別れて再出発する私に力を貸してくれる人がたくさんいます。ご縁に感謝して、周りの人を大切にして、人生を再スタートします。
◇ ◇ ◇
人をいじめて自分のストレスを解消しようだなんて、人として絶対にやってはいけないこと。自分が参ってしまわないよう、何をされても、言われても、真剣に相手にせず、受け流すという選択をしました。これは、精神的な負担を軽減するための懸命な判断だったと思います。しかし、今回のようにさらにエスカレートしてしまうケースの場合、受け流し続けるだけでなく、状況に応じては、嫌なものは嫌と明確に伝えることも大切なのかもしれませんね。また、1人で抱え込まずに周りに助けを求めることも大切です。これからは、あたたかい周りの人たちの力を借りて、妻には幸せな人生を送ってほしいですね。
【取材時期:2025年2月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。