鼠径ヘルニア(脱腸)とは
鼠径ヘルニアは、脚の付け根である鼠径部で、腸管や内臓脂肪の一部が筋膜を越えてポコッと飛び出す病気です。特に中高年の男性は加齢や前立腺肥大などに伴う腹圧上昇の機会が多く、この部位の支持組織が弱りやすいため、女性よりも鼠径ヘルニアの発生が多い傾向にあります。
鼠径ヘルニアの手術件数は、65歳~85歳で多くなります。これは、加齢による鼠径ヘルニアの発症率に加えて、一度発症してしまうと手術するほかに治す方法がないという特徴も関係しています。
鼠径ヘルニアは治療すると再発する可能性は低いですが、逆側の鼠径部にできることはあります。検査や手術の際に逆側にできているのを見つけたときには、同時に治療することも可能なため、術後の再発が心配な方は医師に相談してみるのもよいでしょう。
鼠径ヘルニアの症状は? 症状セルフチェックリスト
鼠径ヘルニアの仕組みがなんとなく理解できても、発症する部位から恥ずかしさを感じたり「こんな症状で受診していいの?」、「男性がかかりやすい病気だから、女性なら違うかもしれない」と受診をためらったりする方もいるでしょう。まずは該当する症状がないかチェックしてみてください。
鼠径ヘルニアセルフチェックリスト
- 脚の付け根(鼠径部)に柔らかい膨らみが表れる
- 立ち上がったり重いものを持ち上げたりすると、膨らみが目立つ
- 横になったり体勢を変えたりすると、膨らみが引っ込むことがある
- 鼠径部に違和感や不快感、突っ張ったような感覚がある
- 長時間歩く・立つと、鼠径部に違和感や痛みを感じる
- おなかが張った感じがする、または痛みがある
鼠径ヘルニアと区別がつきにくい別の病気
鼠径ヘルニアを疑って受診される方に多く見られるのは、痛みではなく膨らみだけというケース。実は、鼠径部の膨らみに痛みを感じる場合、以下のような異なる病気が隠れていることが多いため、注意が必要です。
<リンパ節腫脹>
鼠径部にあるリンパ節が、けがや感染症などさまざまな要因で炎症を起こし、病的に腫れる疾患です。外側からはわかりにくいのですが、超音波検査などで鑑別することができます。
<粉瘤(ふんりゅう)>
粉瘤は皮下の袋状組織に老廃物がたまった良性腫瘍です。小さなしこりから始まり、大きくなると炎症を起こし痛みが出ることがあります。
このように、鼠径ヘルニアの症状と似ているようで異なる病気の可能性もあるため、違和感に気づいたときには早めに医療機関へ相談しましょう。
病院に行くタイミングと初診のながれ
「これって鼠径ヘルニア?」と疑ったら、早期に医療機関を受診しましょう。受診する診療科は外科がベター。大阪うめだ鼠径ヘルニアMIDSクリニックのような、専門クリニックもあります。
初診の流れ
1.問診
2.触診・視診
3.必要に応じた検査(CT検査・腹部超音波検査など)
4.診断と手術の方針説明
5.術前検査(採血、心電図・呼吸器検査など)
鼠径ヘルニアを治すには外科手術しかなく、放っておくと嵌頓(かんとん)*になるリスクが高まります。基本的に鼠径ヘルニアの治療では、ベルトで患部を抑えて一時的な対処をしたり内服薬を使用したりはしません。ただし、持病の治療を優先させるなどさまざまな理由から手術日まで期間が空く場合、あくまで一時的な措置という位置づけでおこなうケースもあります。鼠径ヘルニアは自然に治ることはないため、症状があれば早々に医療機関へ相談することが大切です。
*嵌頓(かんとん)……腸が詰まって血流不全を起こすこと。重症化すると患部が壊死してしまうため、緊急手術が必要となることも。
鼠径ヘルニアのリスクを抑えるために
シニア世代にリスクの高い鼠径ヘルニアですが、筋膜は鍛えられない箇所のため、筋トレや体操などで予防することはできません。しかし、日ごろから筋膜が緩んでしまわないようにすることで、発症リスクへアプローチすることは可能です。
生活習慣でリスクを抑えるポイント
生活習慣で気をつけるなら、腹圧管理と適正体重(BMI:20前後)の維持が大切です。まずはおなかへ過度に力を入れないように注意し、食べ過ぎを避ける、食物繊維を意識的に摂取するなどで便秘を予防しましょう。
適正体重の管理には、筋トレよりも適度な運動が望ましく、日常的に腹圧をかけすぎない生活を心がけることで、筋膜への過度な負担を防ぐことができます。身近なところから取り入れていきましょう。
便秘予防でリスクを抑える方法
大腸の動きに合わせて時計回りに「の」の字にマッサージすることで、便が留まりやすい大腸のS状結腸を刺激して排便を促します。
おへその下、腹部右下、おへその上、腹部左下……とゆっくりとマッサージしていきます。固くなっているところがあれば、緩やかに10回程度押してみてください。2セットを目安に続けてみましょう。
排便力を上げる! トイレで排便しやすい姿勢
排便時に腹圧をかけ過ぎないためには、排便しやすい姿勢を習慣化することも有効です。洋式トイレでは前傾になり、しゃがんだときのような姿勢をとるようにしましょう。直腸と肛門が一直線になり、便を排出しやすくなります。踏み台などを使用し、背骨と太ももの角度を35度程度にするよう意識するとよいでしょう。
まとめ
鼠径ヘルニアはいつ誰が発症するかもわからないので予防も対策も難しい病気ですが、正しい知識を知っておけばいざというときにも安心です。日ごろから自分の体をよく観察することを習慣化し、少しでもいつもと違うところが見つかったら早めにかかりつけ医に相談しましょう。毎日の生活習慣の中で、腹膜に負担がかからないように心がけておくことも意識してみてくださいね。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
取材・文:原のどか/お父さんラブな甘えん坊男児を育てる転勤族ライター。趣味の「神社仏閣でおみくじを引く」を楽しみに、行く先々で家族を連れまわして開拓中。「育児も人生もなんとかなる!」をモットーに、困ったことも楽しみながら情報を発信していきます!
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