ある日、仕事で夫の会社を訪問すると、私はとんでもない場面に出くわしました。夫が部下の男性社員に難癖をつけて怒鳴っていたのです。そして、夫は「やり直しだ!」と言って、床に叩きつけた資料をわざと踏みつけ、去っていきました。
あまりのひどさに、立ち尽くして絶句してしまった私。夫に怒鳴られていた部下の男性社員に声をかけ、一緒に資料を拾いました。すると、「すみません。お見苦しいところを……お打ち合わせですか?」と言う彼。どうやら私が何者か知らなかったようです。
私が主要取引先の社長令嬢だということは、大概の社員が知っているので、入社したばかりだったのかもしれません。そんな相手に対して夫は、あのような態度を取っていたのかと考えると、あきれるしかありませんでした。
母からの提案で夫との別れを決心
その日の夜、昼間に見た夫の態度をとがめた私。すると、夫は逆上。「女が仕事に口を出すな! 文句があるなら俺より稼いでから言え!」と言って、リモコンを壁に投げつけたのです。
あ然とする私に対して、暴言を吐き続ける夫。ここまでひどいことをされたのは初めてでしたが、夫のこの態度がこれからも続くかもしれないと思うと、私は怖くなり『離婚』の二文字が頭をよぎりました。
そんなとき、母から電話が。
内密に話したいと言われ、夫のいるリビングから離れ、自室でこっそり話すことにした私。私たちが結婚する前から進めていた大きな計画が最終段階に入ったと言い、私へ昇進の打診と、任せたい仕事について話した母。あまりに大きな話だったので私は驚きましたが、おかげで離婚の覚悟も決まりました。ひとまず私は、母からの提案を受け入れ、今の仕事を離れ、新しい任務の準備に入ることにしたのです。
電話の後、リビングに戻ると夫の姿はもうありませんでした。私に職場での態度をとがめられ、腹を立てていたので、私を避けて先に寝てしまったのだと思います。私は決心したからには早急に、離婚の話を進めたかったのですが……。
棚ぼたチャンスを逃さず離婚!その後…
一晩明けて、仕事を終えて帰宅した夫に、私はまず、今の仕事から離れることを話しました。すると夫は、私が無職になると勘違いし、自ら離婚をチラつかせてきたのです。
「へー、じゃあ離婚だな。無職の嫁なんかいらない! 寄生虫は不要だ!」と、私をののしってきました。夫からの願ってもない申し出に私は内心ガッツポーズ。
これを棚ぼたのチャンスと捉えた私は、離婚届を取り出し、「あなたの迷惑にはなりたくないから……」と俯きました。キツイことを言ったら私がすがってくると思っていたのか、予想外の展開にひるむ夫。しかし、自ら離婚話を持ち出した手前、引けないようで、その場で離婚届にサインしてくれました。
「無職の嫁なんてこっちから願い下げだ!」「後でやっぱりやり直してなんて言うなよ!」「親のすねでもかじってせいぜい頑張って生きろよ!」など、次から次へと……。後悔しているのか、強がっているのか、ブツブツ言う夫でしたが、離婚に承諾してもらったため、私はそのまま家を出ました。
翌日、離婚届を提出し、正式に別れた私たち。その連絡をした以降、夫と連絡を取り合うことはなくなり、実家に戻った私は、今の仕事から離れ、新しい任務の準備を進めました。
離婚から数カ月。母は元夫の会社の買収を発表し、適正な手続きを踏んで元夫は会社から退職を求められました。買収にあたって会社を調べたところ、社内の聞き取り調査によって、元夫の部下いじめや不真面目な勤務態度が浮き彫りとなったのです。
衝撃の事実を知った元夫は、私へ怒りの電話をかけてきました。電話に出るなり「このクソ野郎! どういうことだ! 俺をはめたのか!」と私に怒声を浴びせる元夫。さらに元夫を怒らせたのは、私の人事についてでした。
私は、母の会社から買収先に転籍し、再建に尽力する予定です。元夫が部長を務める部署の新部長に就任します。元夫が部長にまで昇進できていたのは、すべて優秀な部下たちのおかげ。部下の手柄を自分のものとして上に報告し、不当な評価を得ていただけ。部下たちは元夫から「文句を言ったら主要取引先を失うぞ」などと脅され、元夫のパワハラを上に報告することができなかったのです。
私がすべてを話し終えると、「態度を改める! 謝罪もする!」と言い、私から会社に残れるよう頼んでほしいと泣きついてきた元夫。あまりにしつこいため、ひとまず私は元夫の要求を受け入れ、電話を切りました。本意ではありませんでしたが、私は母や会社に元夫の要求を伝えると、元夫は異動を命じられることに。
転落に転落を重ねていく横柄な元夫♡
今の部署に残ることはできずとも、会社に残れることとなり喜ぶ元夫でしたが、出された辞令は地方転勤。この辞令に元夫は再び激怒。本社勤務でなくなることはプライドが許さなかったようで、結局自ら退職しました。
そうして、元夫が去った部署は、部下がのびのび働ける環境に一新。私も会社の業績アップのため、力を尽くしました。優秀な部下に席を譲るため、私はさらなる昇進をかけてより一層仕事に打ち込み、もうじき本部長になれそうです。
退職後、私を見返そうと躍起になった元夫は、起業したそうですが、1年も経たないうち倒産してしまったそう。借金に苦しむことになり、私に「土下座でも何でもするからやり直してくれ」と連絡してきました。プライドはどこに行ったのやら……。
あきれて返す言葉が見つかりませんでした。もちろん、やり直す気になれるわけもありません。それに私は今、同棲している彼がいます。その彼とは、元夫に難癖をつけられ、怒鳴られていた部下。今は私の部下であると同時に、私の婚約者です。
その事実を知った元夫は、仕事もプライベートも順調な私をどうしても許せなかったようで、今度は、私よりも稼ぎがいい女性と再婚し、幸せになってやろうと婚活。しかし、かなり年下の女性に入れ上げてしまったようで、気を引くために大金を貢ぎ、さらに借金を膨らませ、転落した人生を過ごしていると、風の便りに聞きました。
私は同棲していた彼と再婚し、子宝にも恵まれ、幸せな毎日を過ごしています。今は育休中ですが、彼は家事にも育児にも協力的で、愛情深くて、やさしくて……本当に幸せです。この幸せのために、家族も、仕事も頑張ろうと思います。
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会社では部下を見下し、家庭では妻を見下し、上司としても夫としても信じられない言動を繰り返していた元夫。誰かを苦しめ、傷つけたことは、巡り巡って自分自身に返ってくるものなのですね。周りの人を大切にする心を、忘れないようにしたいものです。誠実な人柄こそが、仕事もプライベートも輝かせる一番の力になるのかもしれませんね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。