すぐ近くには姉も住んでおり、いつも何かと助けてくれる頼もしい存在。姉以外に近所に知り合いはいませんが、最近引っ越してきたA子さんとは、顔を合わせる機会が多く、あいさつを交わすようになりました。
ただ、彼女が私の車をやけにじろじろと眺めてくるのが、ずっと気になっていて……。
警察から突然の電話
ある週末、姉とドライブに出かけていると、見知らぬ番号から着信がありました。車を止めて電話に出ると、聞き覚えの無い男性の声。
「警察です。お車の件でお話を伺いたいのですが」
一体なんのことかと話を聞くと、A子さんの車が盗まれたという通報があったと言うのです。しかし、その車というのは、私の愛車。わけのわからない話に私が混乱していると、電話口の男性は、A子さん宅の防犯カメラに証拠が映っていると言いました。
突然の出来事に驚きつつも、「これは父から譲り受けた私の大切な車です」と必死に説明した私。しかし、男性は聞く耳を持たず、「すぐに出頭しないと指名手配する」と強い口調でまくし立ててきます。
警察がこんな電話をかけてくるはずがない……そう思った私は、隣にいた姉にアイコンタクトで助けを求めました。すると、「電話をスピーカーにして! 録音するから!」と私に小声で指示した姉。私は言われた通り、通話をスピーカーに切り替え、録音を開始。
「あなたは本当に警察の方ですか?」
私が聞くと、男性は動揺したのか、言葉に詰まり、「す、すぐに出頭しないなら、慰謝料だ! 慰謝料を請求するぞ!」と言い出しました。ますます怪しい……警察が慰謝料を要求することなんてある? もしかして、詐欺? などといろいろな考えが頭をよぎり不安になっていると、姉が再び私に指示してきました。
私の車なのに、私が車を盗んだとは…?
「わかりました。警察署へ行きますので、お名前をお聞きしても?」
姉の指示通り、私がそう言うと、男性はあきらかに焦り出しました。
「な、名前? 俺の名前は必要ない! 警察に行けばわかる!」その反応に、男性が警察官ではないことを確信した私たち。電話を切って、急いで警察署へ向かうことに。
その道中、スマホで何やら調べていた姉が驚くべきものを見つけました。「この車、勝手にSNSに投稿されてるよ!」姉から投稿を見せてもらうと、セレブ風の写真の数々に混じって、私の車の写真が載せられていたのです。なんとA子さんは、私の車を写真に撮り、自分の車であるかのようにSNSで自慢していたようです。
警察署へ到着した私たちは、先ほどの電話の録音と、SNSの投稿を提出し、事情を説明。これをきっかけに、次々と驚くべき事実が明らかになっていきました。
警察に通報があったのは事実ですが、通報したのはA子さんではなく、A子さんの知り合いの男性。そして、その男性というのが、私へ警察を名乗り電話をしてきたあの男性だったのです。
後日、A子さんが警察から事情聴取を受けることとなり、私が車を盗んだという事実もなければ、防犯カメラに証拠もないとわかりました。私の疑いが晴れてから数日後、通報したA子さんの知り合い男性からも話を聞いた警察が、通報の経緯から順を追ってすべてを私に報告してくれることになったのですが……。
本物の警察を巻き込んだ大騒動の真相
まず、通報したのはA子さんのSNSを見て、A子さんとの仲を深めたクラシックカー好きの男性。その男性からのコメントをきっかけに、彼のSNSを見て一目惚れしたA子さんは、自慢の車でドライブに行く約束をしたそう。
そしてデート当日、当然車がないA子さんは、隣人に車を盗まれたと嘘をつき、彼が警察に通報。嘘がバレることを恐れたA子さんは、隣人だから大ごとにはしたくないと言い、彼に誤解だったと警察に再度連絡してほしいと懇願。しかし、A子さんの話を信じ、「窃盗は犯罪だ!」と息巻く彼は、連絡を取り下げるどころか、私に罪を認め出頭させようと、電話をしてきたというワケでした。
私に出頭を促すために彼が電話で警察を名乗り、指名手配だとか慰謝料だとか、言い出したため、不信に思った私たちは警察へ。結果、ここまでの大ごとに発展してしまったのです。
警察を名乗った男性は、軽犯罪法違反や脅迫未遂などの疑いで、A子さんも虚偽の申告に関わった疑いで警察の捜査対象となりました。最終的に、私が処罰を望まないと伝えたことや、金銭的な実害がなかったことなどが考慮され、2人は書類送検されたものの、起訴猶予処分(※検察が起訴を見送ること)になったと聞いています。引っ越し早々、とんでもないトラブルに巻き込まれ、とんだ災難でした。
この一件のあと、A子さんはどこかへ引っ越していき、私は姉と夫、そして愛車と平穏な生活を送っています。大切な愛車にいたずらをされたり、盗まれたりしないよう、庭に駐車場に防犯カメラを取り付けました。
◇ ◇ ◇
引っ越し先で起こった、まさかの隣人トラブル。SNSで見栄を張るための嘘が、他人を巻き込む大きな騒動に発展してしまった今回の事件。SNSの使い方について考えさせられますね。不審な連絡に慌てず、警察へ相談した2人の冷静な判断は見事でした。あやしいと感じたときは、周囲の信頼できる人と協力し、警察などの然るべき機関へ相談することが大切ですね。これをきっかけに、A子さんにはSNSの使い方を見つめ直してほしいものです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。