たくさん迷いましたが、私は一度仕事を辞めて不妊治療に専念し、早めに出産し、再就職しようと決めました。
私の決意を伝えると、不妊治療についていろいろ調べ、考え、「妊娠するにはお金も労力もかかるんだな」とつぶやいた夫。気をつけなければいけないことや、やらなければいけないことも多いと知り、尻込みし始めました。
しかし、子どもを得たいという気持ちに勝るものはないようで、「大変そうだけど頑張ろう」と私たち夫婦は不妊治療を始めたのです。
そして、半年後。私は妊娠することができました!
夫の言葉に、あ然…
「赤ちゃんできた! やっと私たちのところに来てくれたね♡」
私は妊娠判定の結果にすっかり浮かれて、仕事中の夫に連絡してしまいました。しかし、そんな私とは反対に、何だか夫の反応が薄い……そう思っていると、夫がとんでもないことを言い出したのです。
「あのさ、もし俺が離婚してって言ったら怒る?」
「もう父親になりたいブーム去った」
あまりに無責任な発言に、私はブチ切れました。夫にどうしても子どもが欲しいと言われ、大好きな仕事まで辞めて頑張ってきたのに……。
「は? 子どもが欲しくて不妊治療しようって言ったの、あなたですよね?」
「んー、もういいかなって」
怒りをぶつけた私に夫は、「こんなに時間がかかると思わなかった。待ちくたびれて何かもうしらけた」と言ったのです。私はショックで言葉を失いました。そして夫は、私への愛情が冷めてしまったと言い、他に好きな人ができたと……。
もっと早く妊娠してくれたら不倫なんてしなかった、俺だけを責めるなと言われ、私もすっかり夫への愛が冷めました。
その日の夜、改めて話すと夫は「もう子どもはいらない」と言うので、さっさと離婚することにした私。予想以上に私があっさり引き下がったので、夫は驚いていました。私はすぐに荷物をまとめ、「残りの荷物は近いうちに運び出す」と告げ、その日のうちに実家へ戻ることに。
私が家を出るとき、「そんなに早くしなくてもいいのに……」なんてのんびり言ってきた夫。いずれ同僚である不倫相手も仕事を辞めるけれど、今は仕事が忙しくてすぐには退職できないので、まだ時間があるそうです。あまりにも腹が立って何も言い返す気にらなず、『覚えてろよ……』私は心の中でそう思いながら、無言で家を出ました。
自分でも驚いた私の行動
後日、夫の会社のエントランスで夫が出てくるのを待っていた私。離婚届にその場でサインしてもらおうと思っていました。すると、仕事終わりの夫が出てきたため声をかけようとしたら、夫が少し離れて歩いていた女性へ目配せをし、女性がうれしそうに微笑んだのです。
「あ、不倫相手、この人だ」
そう直感した私は、悲しいのか腹が立ったのか、怒りと涙が込み上げてきました。私は気付いたら夫の横を素通りして、女性に向かって「あんたのせいで、私は妊婦なのに夫に捨てられた」と叫んでいたのです。夫も女性も、真っ青な顔をしていて、その場にいた他の社員たちもざわついていました。
夫に腕を引っ張られ、エントランスの外へ摘み出された私。「何てことをしてくれたんだ! 見損なった!」と夫に怒鳴られました。怒られる筋合いはないと思いますが、私もまさか自分があんな行動をするとは思っていなかったので、自分に驚いて呆然。
夫にはその場で離婚届にサインしてもらい、その週末、私は新幹線で義実家へ。義両親へ妊娠と離婚を報告。
すべての経緯を話し終えると、義両親は泣きながら、私に謝ってくれました。義両親は激怒して、「離婚してもあなたは私たちの娘よ。困ったら何でも言ってね。それから慰謝料も養育費もしっかり息子に払わせるのよ」と言って、夫との縁を切ると宣言。その言葉に私はまた泣いてしまいました。
娘の幸せを願って…
その後、私たちの離婚は無事に成立。弁護士を通して話し合い、私は夫へ慰謝料と、養育費の支払いを約束してもらい、不倫相手にも慰謝料を請求できることになりました。
夫は会社で不倫が噂され、白い目で見られるようになってしまったそうですが、私へ支払う慰謝料や養育費の負担も重く、仕事を辞めるわけにはいかずストレスで激太り。不倫相手とも破局。義両親からは縁を切られたそうです。
不倫相手は、私がエントランスで叫んだところを複数の社員に目撃されたことで、夫と同じように社内で噂が広がり、肩身が狭くなり退職したと夫から聞きました。慰謝料のために借金をしたと聞いたので、返済に追われアルバイトを掛け持ちする苦しい生活でもしていることでしょう。
私は実家に戻り、健やかな妊婦生活を経て、無事に女の子を出産。義両親にも報告し、とても喜んでもらえました。もう少し落ち着いたら娘を連れて義両親にも会いに行きたいと思っています。娘と両親と過ごす今を、とても幸せに過ごしています。
◇ ◇ ◇
不妊治療という夫婦の大きな決断には、お互いの揺るぎない覚悟と、その後の人生に対する深い責任感が不可欠です。その重みを理解しないまま相手の人生を巻き込むことは、愛ではなく身勝手な行為に他なりません。予期せぬ裏切りに直面しても、悲しみに暮れて絶望するだけでなく、すぐに関係に見切りをつけたところに母としての強さを感じますね。お母さんと娘さんの幸せを願うばかりです。
【取材時期:2025年5月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。