「単身赴任中の彼のところに一度も会いに行かないなんて、奥さまとしてどうなんですか?」「私のほうが、彼のことを大切にできます。だから、離婚を考えてもらえませんか?」と言ってきたその女性。
しかし、私は夫から「こっちには来るな! 」と厳しく言われていたのです。なんだかんだと理由をつけていたので不思議に思っていたのですが、まさか浮気相手がいたとは……。
勝ち誇った態度の浮気相手
「彼、私と結婚したいって言ってるんです。でも奥さまが怖くて言い出せないって聞いたので、私からお話しすることにしました」と浮気相手。わざわざ浮気を暴露しに来るなんて……。
「慰謝料については、300万円を考えています。相場より上ですし、それで納得いただけるかと」と彼女。まさか向こうから慰謝料の話をされると思わず、私は戸惑いました。
「それくらいの金額で彼と一緒になれるなら、私にとっては安いものです」「うちの父は会社を経営していて、こういうことはすぐ対応できますから」「私の方が若いですし、父が会社をやってるので……正直、比べられる立場じゃないと思いますよ?」と一方的に言って、彼女は電話を切ってしまいました。
電話を切ったあと、しばらく何も考えられませんでした。信じたくない。でも、どこかでずっと感じていたのかもしれない。彼が私を遠ざけていたのは、仕事ではなく、あの女の存在だったんだ、と——。
「もう、いいかな」
そう思った瞬間、私の中の何かが音を立てて崩れるのを感じました。
真実を突きつけられた今、見て見ぬふりを続ける理由なんて、もうどこにもありませんでした。
私は深呼吸したのち、スマホを手に取り、夫に電話をかけました。この時点で私はもう離婚を決意していたのです。
「単身赴任中にずいぶんと楽しくお過ごしのようね?」と言って、浮気相手の名前を出すと、「な、なんで彼女のことをお前が知ってるんだ!?」と夫は大慌て。
彼女自ら、私に連絡してきたことを話すと、「あ、あの、違うんだ。彼女とはただの遊びで、本気じゃないから……!」「だから、な? お願いだから、お前の親父さんにだけは言わないでくれ!」と夫。
「こんなくだらないことを親に言うつもりはないわ……ただし、離婚はしてもらうわよ!」「私、浮気なんてするような人はきらいなの。それに、あなたは彼女に結婚したいって愛をささやいているそうじゃない? お望みどおりにしてあげるわ」
「待って! 頼むから、離婚は勘弁して! 本当にただの遊びなんだって!」と半泣きの夫。
「どうしてそんなに慌てているのかしら? 彼女、社長令嬢を名乗ってたわよ。私への慰謝料も、彼女のお父様がポンと出してくれるんですって」
「……え? あいつ、本当に社長令嬢だったのか?」と夫。どうやら、話半分で聞いていたようで、本気で信じてはいなかったようです。
「そういえば、あいつ……やけに羽振りがよかったな。毎回のプレゼントも全部ハイブランドで……」夫はひとりごとのようにそう言ったあと、急に口調を変えました。「……マジかよ。もし本当に社長令嬢なら、悪くない話じゃないか。お前と離婚しても、何の問題もなし! ならよし、やっぱりお前とは離婚だ!」
夫の急な手のひら返しにため息をつきながらも、私は「じゃあ、これで終わりにするわ。あなたが正式に認めてくれれば、それで十分。慰謝料については、あなたと彼女の連名で誓約書を用意してくれる? それがあれば、静かに離婚してあげるから」と言いました。
夫は一瞬渋ったものの、「……わかった。そこまで言うなら……。とにかく、穏便に済ませたいんだ」と言い、数日後、離婚届と誓約書が速達で届きました。
社長令嬢同士のいさかい
3日後――。
「早く離婚届を提出してもらえませんか? 速達で送ったんだから、もう届いてるはずですよね?」と再び浮気相手から連絡が来ました。
「離婚前に書類をそろえたり、仕事の調整をしたりと手続きがあったのよ。でもそれも済んだから、ちょうど今日の午後に役所へ行こうと思っていたの」と答えると、「早く出してくださいよ!早く彼と結婚したいんです!」と彼女。
「一応確認しておきたいんだけど……本当に慰謝料を300万も払ってくれるのよね?」と尋ねると、「もちろん、慰謝料はすぐに振り込みます。準備はもうできてますから」と答えてきました。
「そういえば、夫にはあなたが社長令嬢だって、どうしてちゃんと伝えていないの?」と聞くと、「最初から社長令嬢って言うと、変な人が近寄ってくるんですよ。だから、あえてはっきりとは言わなかっただけです」「まぁ、そんな悩み……平凡な主婦のあなたにはわからないですよね」と彼女。
私の質問を不審に思ったのか、彼女は「もしかして今さらになって、彼のことが惜しくなったんですか?」と言い出しました。
「慰謝料300万払うって言ってるんだから、早く離婚してください笑」
「あなたみたいな庶民の主婦からしたら大金でしょ?笑」
「私が誰か知らないの?」
「え?」
「実は、私の父も会社を経営しているのよ」と言うと、「そちらも会社を経営されてるんですか? でも、きっと小規模なところですよね? 社員も親戚ばっかりとか……?」と言ってきました。
「……まぁ、名だたる大企業には遠く及ばないけれど、一応、全国展開はしてるのよ」
「すでに父の秘書にお願いしてもう調べてもらったんだけど……うちとあなたのお父様の会社は取引があるわね」「お父様の会社、工場経営で従業員は20人ほど。地元の人たちに信頼される、立派な会社だと聞いたわ」
「うちが工場経営だからって、馬鹿にしないでもらえますか?」と怒る彼女に、私は「馬鹿になんてするわけないわ。うちの会社も、過去にあなたのお父様の工場に生産をお願いしていたみたい」と返しました。
「すごく気持ちの良い取引だったって父は言ってたわ。また別の契約を結ぶ話が持ち上がっているみたいよ」と言うと、「まさか……お父さんが言ってた大きな仕事って……」と彼女。
「もちろん、私が契約に口を出すことはないから、安心して」と言うと、彼女はほっとしたのか何も返してはきませんでした。
「それから、離婚後に一度夫に会いに、そちらへ行こうと思ってるの」「面と向かって、ちゃんと最後のお別れの挨拶をしに……ついでに、あなたとあなたのご両親にもご挨拶にうかがおうかしら?」と言うと、「……やめてください。本当に来ないで。お願いですから、父にも何も言わないでください」と彼女は必死に止めるのでした。
再び手のひらを返そうとした夫の末路
1時間後――。
「離婚届、まだ出してないよな!? 頼むから、出さないでくれ!」と夫から電話がかかってきました。
「社長令嬢だっていうから、あいつとの結婚を決めたのに! お前んとこよりショボい会社じゃねーかよ! 騙された!」と憤慨する夫を、私は「地域に根差して、代々続いている立派な会社じゃない」「あなたが彼女や彼女のご実家をとやかく言う資格はないわ」とたしなめました。
「うるせぇ! 俺は地方の工場経営で一生終えるなんて嫌だ! だいたい、お前の実家も取引先になるっていうんだぞ!?」と夫。そしてすぐにしおらしくなり、「なぁ、俺、お前とやり直したいよ……また一緒に暮らそう」と言ってきました。
「はぁ? ふざけたことを言わないで! 誰があなたなんかとやり直すもんですか」
そう言うと夫は、「実は単身赴任が終わると思ってたら、会社から延長の連絡が来て…‥」「俺、本社に戻りたいんだよ! 地方じゃ、俺のやりたかったことは叶わないんだ……」と嘆き始めました。
私は「若くてかわいい彼女がいるじゃない! 離婚届は出しておくから、末永くお幸せにね~」と言って、そのまま離婚届を出しに行きました。
その後――。
元夫によると、浮気相手のご両親は、娘が既婚者に手を出していたと知って激怒したのだそう。どうやら、彼女は慰謝料300万円について父親に嘘をついていたようなのです。……しかし、そんなときに彼女の妊娠が判明しました。
誓約書の存在もあり、結局私への慰謝料は彼女のご両親が立て替えて、一括で支払ってくれることに。元夫は彼女の父親から「責任を取れ」と言われて、彼女と結婚。今は彼女のご実家の工場でひたすら働いていると聞きました。給料のほとんどはご両親への借金返済分に充てられているそうです。
私は独身に戻りました。バツイチでそれなりの歳ですが、言い寄って来る男性もいます。……元夫の二の舞にならないよう、今度はじっくり見極めてから、お付き合いに進もうと思います。今はひとりの時間も心地よくて、ようやく本当の意味で、自分の人生を取り戻せた気がしています。
【取材時期:2025年5月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。