浮かれ出す姉と母
婚約の報告をすると、姉と母は「へえ〜!で、イケメン?年収は?海外赴任もあるの?すごいじゃん!」となぜか私以上に盛り上がっていました。
「やっぱり人生、逆転ってあるのね〜」と母が言えば、姉は「でも彼が美人な方を選ぶ可能性もあるわよ〜?」とニヤニヤ。軽口のつもりかと思って笑って流したものの、翌日から姉は本気モードに突入。美容室にエステ、ネイルに洋服の新調までして、「いつ紹介されても大丈夫なように準備しとかなきゃ」と張り切っていたのです。
母も母で、「せっかくだから、お姉ちゃんにもチャンスがあるかも」と、完全に姉の味方。私は「彼に会わせるつもりはないから」と伝えましたが、2人は完全に聞く耳を持たない様子でした。
カフェでの“運命の出会い”?
週末、婚約者とカフェで待ち合わせていた私は、少し早めに店に着いて席に座っていました。スマホを眺めながら彼を待っていると、隣の席の男性が椅子を引いた拍子に飲み物をこぼし、私の足元にも少し飛んできてしまったのです。
男性は「あっ、ごめんね。濡れちゃった?」とどこか軽い調子で笑い、「席空いてる?相席でもいいかな?」と聞いてきたのです。派手な服装で私とはまったくタイプの違う男性……。私が戸惑っていると、当然のように私の正面に腰を下ろし「最近マジで運気悪くてさ〜。でも今日、なんか当たりの予感してたんだよね〜」と、勝手に話し出すのでした。
その場を離れることもできずにいると、スマホに「少し遅れる」と婚約者からの連絡が。そのとき、店のドアが開きました。目を向けると、なんと姉と母が入ってきたのです。私に気づいた2人は一瞬動きを止め、次の瞬間には隣の男性を見て顔を見合わせ、「やっぱりあの人よ」「一緒にいるってことは間違いないわね…!」と小声でささやき合っていました。そしてそのまま、迷うことなくこちらへ向かってきて男性と会話を始めたのでした。
「その人、私の婚約者だけど?」
数日後、母に呼び出されて実家へ行くと、リビングには姉と母、そしてあの派手な男性の姿が! 姉は腕を絡めながら満面の笑みで「ごめんね、でももう決まったの♡」とひと言。そして「彼、美人な私の方が好きだって♡言ってくれたの〜!」と誇らしげに言ってきたのです。
母と姉が何か勘違いしているようなので、私は静かに「その人、私の婚約者じゃないけど?」と告げました。「……え?」と姉が固まる中、「カフェで勝手に相席してきただけの人だよ。名前も知らないし! この人から私の話題が出たことあった?」と続けると、姉は「確かに……彼からあなたの話を聞いたことなかったかも……」と言い、顔色が一気に青ざめていきました。その場は気まずい空気のまま終わり、私は無言で家をあとにしました。
その後に分かったのは、姉は「運命の出会い」だと信じて何度も食事をごちそうし、彼の話に乗せられてお金まで渡していたという事実。母もまた、「起業準備中らしいから応援したい」と言って財布の紐を緩め資金援助をしていたそうなのです。そして後日、母と姉から私のスマホに何度も着信がありました。 「連絡が取れないのよ!」「お金を返してもらわなきゃ困るのに…!」と焦った様子。どうやら、男性に散々貢いだあげく、突然音信不通になってしまったようです。
その一件のあと、私は無事に婚約者と結婚し、穏やかな家庭を築いています。姉はというと、さすがに今回のことで懲りたのか、以前よりも落ち着き、私に対してもどこか距離をとるようになりました。母も何も言わなくなり、今では家族との関係も必要以上に深入りせず、ほどよい距離感で保てています。
◇ ◇ ◇
誰かの幸せを羨んだり、奪おうとしたりしても、本当の幸せにはたどり着けません。自分の人生は、人と比べるものではなく、自分自身の価値で満たしていくものなのです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。