夫・守の言葉を信じて会社を退職した沙織。息子が生まれ、守の「家族のため」という優しさに、次第に息苦しさと違和感を感じていました。そんな中、元同僚と再会し、守が周囲に「沙織は産後うつだから会えない」と話していたと聞かされます。違和感が疑念へと変わっていきました。
しかし、そのことを守に問い詰めると、「沙織を退職に追い込んだ同僚の嘘だ」と真っ向から否定。「俺を信じるよな?」と問われ、沙織はどちらを信じるべきかわからなくなってしまいます。
悩みを聞いてくれる隣人の大山さんの助言もあり、沙織は現状を変えようと再就職を決意。守は反対しますが、沙織は自分の意思を貫くことにしました。
しかし、面接の前日に、スーツが消えていました。守が「破れていたから」と処分していたのです。さらに、伝えていないはずの面接日を知っており、沙織は面接をキャンセルせざるを得ませんでした。
一体どうやって面接日を……? 再就職を相談していた義母は話していないと言い、夫は隣の大山さんとは「挨拶だけ」と話します。しかし後日、沙織はマンションで守とその大山さんが親しげに話す姿を目撃。
「どうして2人が……」
誰のことも信じられなくなった沙織は、月曜日に荷造りをして、火曜日に晴人を連れて家を出ると決心。月曜日、守が仕事に出発した直後、さっそくタンス預金のありかであるキッチンへ直行すると、なぜかタンス預金がありません。すると背後から「探し物?」という守の声が……。忘れ物をして家に戻ってきたと言うのです。とっさに調味料をチェックしていたと沙織は言い訳しますが、守が全部知っているのだと悟ります。
「私はもう……守から逃げられない……!!」と絶望的になるのでした――。
隣人に促され、保育園に電話した結果
絶望の淵に立たされた沙織は、晴人を抱っこ紐に抱え、青い顔でふらつきながら外を歩いていました。
お金も……スーツも……なんにもない……もう私は一生あの家に――
するとそこへ「島本さん?」と沙織を呼ぶ声が。
声の主は隣人の大山さんでした。
大山さんは沙織を見るなり「何かあったのね!? 顔が真っ青よ! 上着も着ないで……」と心配します。
大山さんの顔を見た途端に思わず駆け寄る沙織でしたが、はっとして後ろずさりをしました。大山さんが守と話していた場面を思い出したのです。
「もう誰も何も信じられない…! 私にはもう何もない!」
沙織がそう叫ぶと、大山さんは沙織の肩を持ち、「もう何もないなら失うものもないはず。信じなくていいから何があったか吐きだしなさい!」と伝えました。
沙織の行動がなぜか守にすべて漏れていることを話す沙織。大山さんは心配そうに「保育園は大丈夫か」と聞きました。申し込みを取り消されていないか気にしてくれたのです。
沙織はますます血の気が引く思いがしながら、保育園に電話をかけました。すると返ってきた答えは……大山さんが懸念したとおりで、守によって取り消されていたのです。
ポロポロ涙をこぼして打ちひしがれる沙織。「晴人くんのためにも諦めないで」と励ます大山さんに、沙織は疑っていたことを詫びました。
大山さんは「もしかして日曜日のこと?」と沙織に確認しました。そしてその日は突然守が家にやってきたことを明かします。沙織は恐る恐る、いったい何の用だったのかと尋ねるのでした。
◇ ◇ ◇
心を閉ざし、誰一人信じられなくなった人にとって、差し伸べられた手は救いであると同時に、新たな絶望への入り口にも見えてしまうことがあるのでしょう。そんな沙織に対し、大山さんがしたのは「ただ話を聞く」というシンプルな行為でした。ささやかな寄り添いが、困っている人の道を変える大きなきっかけになるかもしれません。困っている人が近くにいたら、まず耳を傾けてあげることを心に留めておきたいですね。