前置胎盤はハイリスク妊娠のひとつであり、ときには大量の出血によってお母さん、赤ちゃんともに大きなリスクを伴うものです。そこで今回は、前置胎盤の原因や症状、お母さんと赤ちゃんに与える影響のほか、前置胎盤と診断された後の過ごし方と出産方法を詳しく紹介していきます。
前置胎盤とは
胎盤とは妊娠後に作られる器官であり、およそ妊娠15週目(妊娠4カ月目)ごろまでには完成します。胎盤はへその緒を介しておなかの赤ちゃんとお母さんをつなぎ、血液や栄養分、酸素をおなかの赤ちゃんに送る重要な役割を担っています。
通常は、子宮の天井付近(お母さんの頭側)に作られる胎盤ですが、何らかの理由で子宮の頸部の出入り口(内子宮口)付近に胎盤が作られ、内子宮口を塞いだり、覆ってしまったりすることがあります。この状態を「前置胎盤(ぜんちたいばん)」と呼んでいます。
前置胎盤の原因は?
前置胎盤になってしまう原因ははっきりと解明されていませんが、次の3つがリスク要因になると考えられています。
1.子宮に何らかの手術歴がある
帝王切開術や流産や人工妊娠中絶の手術を以前に受けたことがある場合、子宮内膜にある傷あとが影響して、通常よりも低い位置で受精卵が着床してしまうことが原因と考えられています。このことから、そのほかの子宮の手術や子宮内膜炎症にかかったことがある人もリスクが高いといわれています。
2.子宮内膜の変化
子宮も年齢を重ねると老化をしていきます。そのため、高齢出産の方は子宮の内膜が萎縮することで正常な着床部位に異変が起きてしまうことがあります。また、タバコを吸う方は子宮に血流障害が生じて、正常な着床を妨げられる場合があります。
3.多胎妊娠や子宮の形
多胎妊娠(双子以上)の場合は、胎盤の数が多くなるので通常よりも下につくられてしまうことがあります。また、子宮筋腫や子宮の奇形がある場合も胎盤がつくられる位置が制限されてしまうことから、前置胎盤のリスクが高くなっています。
前置胎盤の3つの分類と症状
【正常妊娠】
胎盤は子宮体部に付着しています。
前置胎盤は正常よりも下の方に胎盤が付いており、内子宮口の塞がり度合いによって3つに分類されています。
1.全前置胎盤
完全に、内子宮口が胎盤によって塞がれているタイプです。
2.部分前置胎盤
内子宮口の一部を胎盤が覆ってしまっているタイプです。
3.辺縁前置胎盤
胎盤が内子宮口の縁にわずかにかかっているタイプです。
重症度は、全前置胎盤 > 部分前置胎盤 > 辺縁前置胎盤 となっており、原則として帝王切開で出産します。しかし、分娩までの妊娠期間中に大量の出血を起こす可能性もあるため、十分な妊娠管理が必要です。なお、妊娠中に前置胎盤と診断されても、経過とともに胎盤が上に上がり、前置胎盤でなくなるケースもあります。
●前置胎盤で見られる症状
前置胎盤では自覚症状が少なく、無症状という方も多いです。症状として、腹痛を伴わない出血が起こることがあります。また、内診によって大量の出血を招くことがあるため、診察時の内診は禁忌となっています。
これは、子宮の壁と胎盤がおなかの赤ちゃんの重みによってずれ、胎盤から出血を起こしてしまうためです。特におなかの赤ちゃんが大きくなってから症状が出やすい傾向にありますが、そのほかでも大量の出血がある場合は、緊急を要する事態となっているため、すぐに受診しましょう。
前置胎盤がお母さんに与えるリスクとは?
前置胎盤における最大のリスクは大量の出血と癒着胎盤です。
●前置胎盤と大量の出血
前置胎盤の場合は、出血がない場合でも早産になるリスクが非常に高く、妊娠が継続できた場合でも帝王切開での出産となります。出血量が非常に多いため、場合によっては赤ちゃんだけではなくお母さんも危険にさらされてしまうことがあるため、自己血や輸血の確保が必要とされています。
●前置胎盤と癒着胎盤
通常、胎盤は出産時に赤ちゃんと一緒に体の外に排出されます。しかし、子宮に癒着して剥がれなくなるケースがあり、この状態を癒着胎盤とよんでいます。前置胎盤においては、約5~10%の割合で癒着胎盤を合併するといわれており、さらに大量の出血をする可能性が高くなっています。場合によっては、子宮を全て摘出しなければいけないこともあります。
前置胎盤の管理と出産方法
前置胎盤における分娩週数は平均34~35週となっており、可能な限り37週まで待機しますが、少なくともこの時期を目指した妊娠の管理がおこなわれます。
●安静にする
出血がない状態でも、早産や出血のリスクが高いため、基本的には安静にしておくことが必要です。また、運動や性交渉も控えた方がいいとされています。また、妊娠期間をなるべく長くさせるために、子宮収縮抑制剤の使用などもおこなわれています。
●入院管理
出血が見られる場合は、基本的に入院して管理することになります。
●出産方法
・出血がないまたは少量の場合:
おなかの赤ちゃんの成長などを考慮し、妊娠37週まで妊娠を継続し、陣痛が来る前に予定帝王切開をおこないます。
・出血が多量またはおなかの赤ちゃんの状態が良くないと判断された場合:
妊娠週数にかかわらず緊急帝王切開をおこないます。
予定帝王切開では、輸血の準備として自己血貯血(※1)やインフォームドコンセント(※2)をおこない、安全に手術をおこなうための準備がなされます。また、通常の帝王切開よりも大きなリスクが伴うため、ICUやNICU、麻酔科などのある大きな病院(大学病院・総合病院)での対応が必要です。基本的には、小さな病院にかかっていても前置胎盤の疑い、または診断が出た後は大きな病院へ紹介されることが多いですが、紹介がない場合は自分から医師に相談したほうが良いでしょう。
※自己血貯血:前置胎盤では帝王切開がおこなわれますが、出血量は通常の帝王切開に比べて多く、約14%の割合で輸血が必要となっています。そのため、出産に備えて、自分の血液を採取する「自己血貯血」という方法で十分な血液量をストックしておきます。これは、妊娠33~34週ごろにおこなわれています。
※インフォームドコンセント:患者・家族が病状や治療について十分に理解し、また、医療職も患者・家族の意向や様々な状況や説明内容をどのように受け止めたか、どのような医療を選択するか、患者・家族、医療職、ソーシャルワーカーやケアマネジャーなど関係者と互いに情報共有し、皆で合意するプロセス(出典:インフォームドコンセントと倫理 | 日本看護協会
まとめ
前置胎盤は、妊娠期~分娩~分娩後まで大きなリスクを伴います。そのためハイリスクな妊娠のひとつとなっており、しっかりとした妊娠の管理が必要です。症状としては、目に見える変化が少なく腹痛などもないですが、出血が起きたときは量が少なくてもすぐに受診することが大切です。大量の出血を起こした場合は、お母さん、おなかの赤ちゃんともにリスクを伴います。運動や性交渉を控え、安静にすることが大切です。そのため、ご家族の方に家事を分担してもらったり、万が一の状況に備えて周囲の人に病院の連絡先を伝えておいたりと、少しでも安心して妊娠を継続できるような環境を整えておくようにしましょう。