私も仕事は順調で、一般企業で正社員として数年働き、今はフリーランスでイラストレーターとして在宅ワークをしています。
ある日、仕事の締め切りに追われ、PCにかじりついていると、弟が私の家にやって来ました。そして弟は、少し照れくさそうにしながら、笑顔で言ったのです。「俺、結婚することになったんだ。今度、婚約者を紹介したい」
私は弟からのうれしい報告に、自分のことのように大喜び。心から祝福し、顔合わせの日を楽しみにしていました。
初対面で放たれた、ありえないひと言
そして迎えた顔合わせ当日――。
弟は急な仕事で遅れてしまい、先に婚約者の彼女だけがひとりで私の家を訪れました。私は笑顔で彼女を迎え入れ、弟がいなくても気まずくないよう、いろいろと話題を持ちかけたのですが、緊張していたのか彼女は愛想笑いをするくらいでほとんどしゃべらず……。会話がまったく弾まず、気まずい空気に困惑していると、不意に彼女が口を開きました。
「いいですね、親の遺産でこんなに広い家に住めて。無職のくせに親の遺産でひきこもりなんて、いいご身分」
予想外の発言に私は耳を疑いました。「この家は、私が自分で稼いだお金で買った家ですけど……」そう言い返すと、「見栄張ってウソなんかつかないで大丈夫です。フリーランス? 在宅ワーク? どうせお小遣い程度の稼ぎですよね?」と鼻で笑いながら、また失礼な発言をしてきた彼女。
挙句の果てに「せっかく大企業勤めの高収入エリートをつかまえたのに、お姉さんがニートだなんて恥ずかしい。あなたとは関わる気はありませんから!」と言い残し、彼女は帰っていったのです。私は彼女の衝撃発言にあぜん……。
その後、夜遅くに仕事を終えた弟が私の家に寄ってくれました。私はすぐさま弟に、その日の彼女の発言を報告。すると、弟は信じられないといった様子で絶句したあと、神妙な面持ちで「実は俺、起業準備のために会社を辞めて、今は無職なんだよね。まだ彼女には話していないけど……」と教えてくれました。
私は弟に「早く伝えた方がいい」と助言しましたが、弟は「とりあえず、今日は彼女が失礼なことを言って本当ごめん」とだけ言って、肩を落としながら帰っていきました。
謝罪に来たのかと思いきや…
数日後、弟から結婚式の招待状が届くと同時に、彼女がひとりで再び私の家へやって来ました。弟に叱られ、謝りにでも来てくれたのかと思い、出迎えると彼女は開口一番に「無職ニートが親族なんて恥ずかしいので結婚式には絶対に来ないでください」と。わざわざ、嫌みを言いに来た彼女に私は心底驚きました……。
「無職はあんたの夫(弟)よ……」と心の中でそう呟きながらも、私は波風を立てないよう、その場では「わかりました」とだけ伝えました。そして彼女が帰ったあと、招待状の「欠席」に丸をつけて返送し、弟に電話をかけた私。「招待状ありがとう。でも、彼女から『無職ニートは来ないで』と言われたから、欠席するね」と告げたのです。
電話の向こうで絶句していた弟は、少し考えたあと「わかった、あとは俺に任せて。本当にごめん」と言い、電話を切りました。
弟は電話のあとすぐに彼女と話し合いの場を設けたようです。後日、弟から聞いた話では、弟が「姉さんに、結婚式に来るなと言ったんだって?」と尋ねると、彼女は「そうだけど? だって恥ずかしいじゃない、新郎の姉がニートだなんて」とあっけらかんと答えたそう。
そして、彼女の本性に絶望した弟は、「そうか、じゃあ俺とも結婚できないかもね。起業するのに俺も会社を辞めて、今は君の言う『無職ニート』だからね」と告白。弟からの衝撃告白に、当然彼女は「はぁ!? 大手のエリートだったのになんで! 起業なんて成功するわけない! なんでそんなバカなこと!」と激怒し、弟に詰め寄ったそうですが……。
「君こそ、専業主婦になるつもりで、早々に会社を辞めたじゃないか。なんで俺だけ責められなきゃいけないんだよ!」
そう弟に言い返され、彼女は反論できず、ただただ逆ギレ。2人はその日、付き合って初めての大喧嘩をして、結局そのまま破局しました。
その後すぐ弟は、式場のキャンセルやら招待客への謝罪やらをテキパキと済ませ、起業準備に奮闘する生活を送るように。もちろん、ショックを受けて落ち込んでもいましたが、彼女と破局した悲しみではなく、彼女の本性を見抜けなかった自分に絶望しているといった様子でした。
3年後、再び現れた失礼な元カノ
それから3年後、弟は起業して大成功。弟が立ち上げた会社は、業界から注目される企業にまで急成長。そんな弟の活躍を聞きつけた元カノは、3年越しに弟に復縁を迫ってきました。
「あなたならきっと成功すると思ってた! 成功おめでとう! 今なら私の結婚相手としてふさわしいわ! やり直してあげる! 事業も手伝ってあげる!」と、なぜか上から目線の元カノ。
弟が一時的に無職だったことや私の仕事を見下していたのに、起業が成功したとたん、見事なまでの手のひら返し。身勝手にもほどがあります。弟が立ち上げた会社は、さまざまな事情で働きたくても働けなかった人、学びたくても学べなかった人を支援しています。ステータスや収入で人を判断し、決めつけ、見下すような元カノには、到底理解できない企業理念でしょう。
きっぱり断っても、会社にまで押しかけてしつこく言い寄ってくる元カノに「これ以上しつこくするなら、弁護士を通じて法的措置をとる」と告げた弟。それ以降、元カノが現れることはなくなりました。
私は弟からデザイン依頼を受け、たまに力を貸して、一緒に楽しく仕事をしています。弟と一緒に仕事ができる日が来るなんて、こんなにうれしいことはありません。これからも自慢の弟と仲良く、助け合って人生を楽しみたいと思います。
◇ ◇ ◇
職業や肩書きだけで人を判断して見下した結果、大切なものを失ってしまった元カノ。まさに自業自得と言える結末でしたね。弟さんとしては、つらい経験ではあったものの、結婚前に彼女の本性を知れて良かったのではないでしょうか。外側の条件ではなく、その人の内面や歩んできた努力に目を向けられる人でありたいものですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。