義両親はとても明るく、ポジティブな人たちです。自分たちの作った野菜のおいしさを伝えたいと、農業だけでなく新しい分野にも挑戦。畑で採れた野菜を使ったパンを製造し、販売し始めたのです。私ももちろん、お手伝いしています。
それから3年、小さなパン屋ですが、お店も軌道に乗り、ご近所さんからの評判も上々です。しかし、そんな状況が、気に食わない様子の夫。「微々たる稼ぎでも楽しく働けるのは、老人の趣味だからだ」そう言って、義両親のことを鼻で笑うのです。
生活のために一生懸命働いている自分のほうが上だと言わんばかりに、私たちを見下してきて……。
義両親を見下し、横暴な態度を取る夫
ある日突然、畑を全部売ると言い出した夫。Uターンして、転職した会社で自分が思うように出世できず、給料も上がらないことに苛立ち、パン屋がうまくいっている義両親の姿が面白くないようなので、土地をお金にしてしまおうと言うのです。
先祖代々守ってきた土地を、簡単に手放そうとするなんて……。パンの製造・販売も、この畑があってこそです。何よりも、畑仕事は義両親の生きがいでした。夫は、農作業にはケガのリスクもあって、重労働も多く、もう若くない義両親にとっては大変だと言います。私は何もせず家にいるより、よほど健康にいいと思うのですが……。
「のちのち俺たちが苦労することになる。あいつらが体でも壊したらどうなる? 俺は年寄りの世話なんてゴメンだからな」と吐き捨てるように言った夫。結局のところは、何もかも自分のためで、両親の気持ちをまったく考えない夫に、私は腹が立ちました。そんな私に夫は……。
「一家の大黒柱は俺だ!」
「逆らうヤツは全員出ていけ!」
「いいの?! 義両親も出ていくって!」
「え?」
私の反応に、驚く夫。義両親がいなければ、勝手に土地を売ることもできません。夫は、急に慌て始めました。
義両親が夫に伝えていなかった真実
翌日、私は義両親と一緒に義実家を出ました。畑にも近い、空き家になっていた義母の生家で暮らすことにしたのです。義母の生家は古いですが、時々手入れをしていたので、十分に生活できます。
夫はしつこく義両親に連絡してきて、「土地を売らせろ! 俺は農家なんか継がない! さっさと売って金にしたほうがいいに決まってる! もう逆らわないと約束すれば、今回だけは許してやる」と偉そうです。
「なんで大黒柱の言うことを聞かないんだ」と言う夫に、とうとう義母が怒りました。
「大黒柱は、あんたじゃない! 私とお父さんよ!」
そして、農業とパン屋以外にも、夫には伝えていない不動産所得があると告白した義母。義両親は畑以外にもいくつかの土地を所有しており、その中には企業に貸している土地もあって、農業をせずとも十分に暮らしていけるだけの収入があったのです。
夫は昔から、何かと義両親に迷惑ばかりかけていたそう。農業をバカにして、義両親を見下し、それなのに困ったらお金を要求。進学した大学にはすぐに行かなくなり、遊んで暮らすようになり、音楽で食べていくと言って仕送りを要求したり、就職したかと思えばすぐに辞めてしまったり。
私が知り合ったときは、会社勤めの普通のサラリーマンだったので、義両親から昔話を聞かされて驚きましたが、思い通りにならないとすぐに投げ出すところがあり、少し思い当たるところもありました。
そのため、義両親は「あてにされては困る。きちんと働いて自立した生活を送ってほしい」と、この事実を今まで夫に黙っていたのです。私にはUターンしたタイミングで、すべてを話してくれていました。資産の総計や義実家にある金庫の管理など、もしものときのために備え、私には情報も共有してくれています。
驚きの真実を知り、夫は怒り心頭。自分の素行の悪さが原因なのに、よくそんな態度に出られるものです。何度連絡しても義両親に無視される夫は、私に伝言を頼んできました。「今、1番体を張って労働しているのは自分だから、少しは敬ってくれてもいいだろう」と言います。まるで義両親が楽して稼いでいるかのような言い方に、さらに頭にきました。
夫は自分の態度が原因で…
義両親に余裕があるのは、不動産所得のおかげだけではありません。パンの売上も、収入のかなりの割合を占めています。近所のスーパーにもパンを卸すなど大盛況なのです。私はひそかに勉強して、今では経理を担当させてもらっています。
夫は私や義両親に興味がなく、心に余裕もなかったので、気づいていなかったのかもしれませんが、私たちも、懸命に働いてきたのです。夫は都会で暮らしていたからと、地元の人を格下扱いし、見下しています。その偉そうで鼻につく態度のせいで、職場の人から嫌われて、業務がスムーズにいかないとパンを買いに来てくれた夫と同じ会社で働く方から聞きました。
私を義実家から追い出したことで、義両親から薄情者だと非難された夫は、親子の縁を切るとまで言われています。夫がひとりで住んでいる義実家は、義父の所有物。夫はひとり暮らしをするよう、退去を求められることに。
その後、私は夫と離婚し、今は義両親とビジネスパートナー兼友人として付き合っています。夫はひとりでは何もできない人なので、離婚はしたくなかったようですが、義両親や地元の人を見下す夫とは、もう一緒にいたくありませんでした。
夫は義実家を出て、ひとり暮らしを始め、義両親は義実家に戻り、私は義両親のご好意で義母の生家に住まわせてもらえることになりました。義両親のお手伝いだけでなく、地元の企業に就職もして、義両親には家賃を支払って生活しています。これからも仲良く楽しく、一生懸命働きたいと思います。
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プライドを持ったり、見栄を張ることは決して悪いことではありません。それが自信となり、飛躍につながることもあります。しかし、それにとらわれ、誰かの努力を笑ってはいけませんよね。人を尊重し、懸命に働くことこそが、揺るぎない信頼と充実した人生を築くものなのかもしれませんね。誰かの「生きがい」を支えられる存在でありたいものです。
【取材時期:2025年10月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。