「お義母さん! 私、ついに証拠を…見つけました! やっぱりあの人、浮気してました!」
震える声で、私はスマホを握りしめていました。
ロックが解除されたまま放置されていた夫のスマホ。夫はお風呂に入っていました。
おそるおそる開くと、そこには――見知らぬ女性と2人で写る夫の姿。旅行先で撮ったらしい写真が何枚も保存されていたのです。
「えっ……本当なの!?」と、電話口の義母は、最初は驚きを隠せないようでした。「はい……抱きついたり、腕を組んだりしている写真が……もう、離婚しかありません」と、私は涙を堪えながら義母に訴えました。
「そんな裏切り方をされたら、本当につらいわよね」と深く同情してくれた義母。そのやさしさがあたたかく、私はぽろぽろと涙をこぼしました。
「……でもね、やっぱり離婚はやめたほうがいいわ」
すっとトーンの変わった義母の声。私の涙も止まりました。まさか、私の味方だと思っていた義母から、そんなことを言われるなんて思いもしなかったのです……。
夫と義母の裏切り
「え……?」と戸惑いを隠せない私を諭すように義母は続けました。
「男の浮気なんて、よくあることよ。一度や二度で騒いでたら、家庭は成り立たないの」「それにね、浮気される方にも原因があるっていうじゃない? あなたって、あまりおしゃれとかしないタイプだし……息子だってさびしかったんじゃないかしら?」
私は耳を疑いました。まさか、義母から「浮気されたほうが悪い」と言われるなんて……。
「夫婦ってお互い様じゃない。だから、ここは私が母として、息子をきつく叱っておくから! だから……今回は、水に流しましょう?」「感情的になっちゃダメよ。大事なのは『家庭を壊さないこと』。あまり騒ぎ立てたら、あなたの立場が悪くなるわよ?」
裏切られたのは私なのに、なぜ私が我慢しなければならないのか――私には理解できませんでした。しかし、義母はさらに続けます。
「夫をうまく管理してこそ、良い妻なのよ。こんなことでいちいち騒いでたら、恥ずかしいわよ? あなたの一時の感情で夫婦関係を壊すのはどうかと思うわ、ご両親だって悲しむだろうし」
矢継ぎ早に繰り出される言葉に、私は何も言い返せなくなってしまいました。
「……わかりました。お義母さんがそうおっしゃるなら……少し、頭を冷やしてから考え直してみます」と答えるのが精いっぱいでした。電話を切ったあとも、胸につっかえたもやもやは大きくなっていくばかりでした。
我慢に我慢を重ねる妻
「私がきつく叱っておくから」という義母の言葉を信じ、私は夫には何も言いませんでした。ただただ苦しい日々を耐え続けていたのです。
しかし、1週間経っても夫の態度は何ひとつ変わりません。それどころか、その日も終電間際に「仕事でトラブった。今日も帰れない」と悪びれもしない様子で電話がかかってきたのです。
翌朝――。
私は義母に電話をかけ、「あの……夫に、あのこと、言ってくれました?」と尋ねました。
「えっ? あぁ……あのことね」と、歯切れの悪い義母。「実は……まだ言えてないのよ」と言われ、私はまた耳を疑いました。
「……だって、あの子だって仕事が忙しいじゃない? 疲れてるところに浮気がどうのなんて言ったら、余計にあなたたちの雰囲気が悪くなっちゃうでしょ」「私もいろいろ考えたんだけど……わざわざ触れなくてもいいかなって。どうせ、ただの遊びだろうし、息子は根はいい子だから、絶対に本気にはならないわ。このまま自然消滅を待ったほうが波風立たなくていいじゃない?」
信じられない義母の言葉に、血の気が引きました。
「任せてって言ったのは嘘じゃないわ。でも母親だからこそ、子どもを追い詰めるようなことはしたくなかったの。これがあなたたち2人にとって最善の策になると思ったのよ」
義母は、「あなたたち2人のため」という言葉を免罪符にしながら、かわいい息子を守りたいだけにしか見えませんでした。
「夫婦ってね、全部白黒つければいいってもんじゃないの。妻は多少、目もつぶってあげないとね」
電話の向こうの義母の言葉は、以前とは別人のもののように聞こえました。
「……わかりました、もういいです」と言って、私は電話を切りました。
夫にも、そして義母にも、期待しても無駄だということを痛感したのです。もう誰にも頼らない――そう固く決意して、私は自分のために行動を起こすことにしました。
半年越しの反撃
それから、半年――。
私は義母の言葉を信じたフリをしながら、静かに反撃の準備を進めていました。そして、その日は再びやってきたのです。
「ごめんな! ちょっと仕事でトラブって……」とメッセージを送ってきた夫。「今日も残業で遅くなるの?」という私の問いに、夫はいつものように「うん、帰れないかもしれない」と嘘をつきます。
「それじゃ仕方ないね。なら、このまま聞いちゃうんだけど」
私は努めて冷静に、しかしはっきりと告げました。
「あなた、浮気してるよね? 離婚しましょう」
「……は? な、なに言ってんだよ急に! 浮気なんて馬鹿なこと言ってんじゃねーよ!!」と、激しく動揺している様子。
「……そう言うと思った。でもね、証拠は全部そろってるの」
私は弁護士に相談し、興信所に調査を依頼。車の移動記録から相手の女性の身元、2人が不貞行為に及んでいる決定的な証拠までそろえたのです。
「……今日も、職場の部下の女性の部屋に2人きりでいるんだよね?」
なんて言おうか迷っているのか、ピタッと返信が止まりました。
「で、どうなの? まだ『仕事だ』って言い張るつもり?」と問いを重ねると、「ま、待てって! ……違うんだ! ただ、食事をごちそうになっただけで」と苦しい言い訳。
「これ以上、嘘や言い訳を重ねるつもり? 私はそれでもいいけど。そんな不誠実な態度は、裁判になったときに悪質だと判断されて、慰謝料の額が上がる理由になるらしいわよ」
そう言うと、夫の態度は一瞬で変わりました。
「悪かった! 認めるよ! 付き合ってるよ! でも、……本気じゃないんだ。俺は、お前一筋だよ!」「誰だって間違いくらいあるだろ? たった1回の過ちで、離婚なんて……」
まだそんな見苦しい言い訳をするのかと、怒りを通り越して笑いさえこみ上げてきました。
「初めての浮気なんだ! ちょっと魔が差したっていうか……」
「もう絶対にしない! 約束するよ!」
「2回目なのに?」
「……え?」
 
あわてて電話をかけてきた夫に、私は「1回目の浮気は半年前だよね。あのときの相手は……会社近くの居酒屋で働くバイトの女の子だっけ?」と最後の一撃を加えました。
「な、なんで……!? あれは……絶対にバレてないはず……」とブツブツとつぶやく夫に、「ふふ、知らないとでも? 全部わかってたよ、最初から」とやさしく言った私。
夫は「それも出来心で……」とあわてていましたが、もう遅い。
「さっき、自分で言ったよね? 『たった1回の過ちで、離婚なんて……』って。2回目なんだから、離婚されても文句言えないよね?」
「ま、待ってくれ! あのときのはノーカウントだろ! だって、お前何も言わなかったじゃないか!」と往生際の悪い夫。
「言わなかったんじゃなくて、見逃してあげただけ。お義母さんに必死に説得されてね……『私からちゃんと叱っておくから、事を荒立てるな』って。だから大目に見たの」「でもお義母さんは私を裏切って、あなたを叱るどころか何も言わなかったみたいね。その結果がこれ、また同じことの繰り返し」
「ち、違うんだ! これが最後! 本当に最後だから! 信じてくれ!」と懇願する夫に、「そんな言葉、信じてもらえると思ってるの? 一度ならず二度までも妻を裏切る人なんて、もう興味ないから」ときっぱり告げました。
「あなたとは離婚します。荷物まとめて実家に帰るから。さようなら」
 
裏切りを重ねた親子の末路
案の定、家を出て1時間も経たないうちに、今度は義母からヒステリックな電話がかかってきました。
「ちょっと、どういうつもり!? なんで離婚なんて……今回だってあなたが我慢すれば済む話でしょう!? 家庭を壊すつもりなの!?」
「私が我慢すれば済む、ですか……本気でそう思ってるんですか?」
私は、この半年間溜め込んだ怒りを、静かに言葉に乗せました。
「家庭を壊したのは、浮気をした夫。そして、その浮気を見て見ぬふりした、お義母さんですよ」「最初の浮気のとき、叱ってくれましたか? そのせいで夫は『何回やってもバレやしない』と勘違いした……その結果が『二度目の浮気』です。私に『我慢しろ』と言い続け、裏切られた私は傷ついた。なのに今も責められているのは私だけ。理不尽すぎます」
「私はあなたたちのためを思って……」「私だって、お父さんに浮気されても我慢してきたし……」と涙声で繰り返す義母。
「お義母さんがそうしたいなら、お好きにどうぞ。でもその価値観を私に押し付けるのは違うと思います。私は、我慢してまで『あなたたちの家族』でいるつもりはありません」
そして、私はすでに弁護士に相談していることを伝えました。
「夫への慰謝料請求はもちろんですが、お義母さんに対しても、私に我慢を強いて精神的苦痛を与え続けた責任を、弁護士を通じて追及するつもりです。覚悟しておいてください」
さっきまでのしおらしい態度はどこへやら。「はあああ!? まさか私にまでお金を要求するつもり!?」と絶叫する義母。私はにっこりほほえんで「はい、私はあなたたちの都合の良い犠牲者で終わるつもりはありませんから」と言って、電話を切りました。
その後――。
私は夫、浮気相手、義母に弁護士を通じて内容証明を送りました。夫は電話で泣きついてきましたが、私は取り合いませんでした。浮気相手は慰謝料請求に怯えて、すぐに夫に別れを告げ、会社も辞めたそうです。
そして、義母は「嫁が弁護士を立ててきた」と近所の知人に泣きついたそうです。しかし、その通知内容を知った人たちからは同情されるどころか、「息子さんの浮気が原因なんでしょ?」と言われる始末。かえって自らの立場を悪くしたと聞きました。
夫と義母の自業自得とはいえ、あっけない幕切れでした。夫も義母も、わたしへの支払いで貯金のほとんどを失ったそうです。今は実家で毎日いがみ合っていると聞きました。
理不尽なことを「よくあること」だと我慢し続けるのは、自分自身の心をすり減らすだけだとつくづく思いました。自分の尊厳、そして心を守るために、ときには勇気を持って「NO」と声を上げることも必要だと痛感しました。
私は今、平穏と自由を取り戻し、二度とあの人たちに振り回されることのない新しい毎日を歩んでいます。古い価値観や他人の思惑に振り回されず、自分の考えをしっかり持つこと。それを肝に銘じて、これからは自分らしい未来を描いていこうと思います。
【取材時期:2025年8月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
 
   
       
                           
                         
                         
                         
               
               
               
               
               
               
               
                 
                