母を早くに亡くし、教師をする父に男手ひとつで育ててもらった私。顔合わせの際、私が片親で、父が医師でないと知ったとき、義母は顔をしかめました。あのときの義母の表情は、今でも忘れられないくらいショックでした。私の職業と、亡くなった母の実家が会社を経営していたことで、なんとか結婚を認めてもらえたのです。
結婚から半年ほどがたち、私の妊娠が発覚すると、義母は有頂天。どんな名前にするか、夢中で考え、連日いろいろな名前候補を提案されます。しかし、子どもの名前は夫婦2人で決めたいと思っていたので、私は困惑。夫は「自分が何とかするから心配ない」と言いますが、夫は義母に甘いので、私の不安はなかなか払拭されず……。
意見が二転三転する夫
妊娠前から、何となくおかしいとは思っていたのですが、夫が、だんだんと家に帰らなくなりました。私も同じ医師なので、職業柄、残業や急な泊まりが発生することも理解はしていますが、それにしてもここ最近は頻度が多すぎる……違和感を覚えずにはいられませんでした。
それから数カ月後、無事に男の子を出産した私。夫が話をつけてくれたようで、義母による命名はなんとか免れましたが、その夫は私の入院中、1度もお見舞いに来てくれませんでした。夫が産院に来たのは生まれたと報告したときの1度だけ。忙しいのはわかるのですが、さすがにそれだけというのは……。
身の回りのことは義母がやってくれたので、問題なかったはずだと夫は言いますが、跡継ぎが生まれると、大張り切りの義母の相手をするのは、正直なところ、とても大変でした。出産の前後は自分のことで精いっぱいなのに、そんなときに義母に気を使うのはつらかったです。夫には、そこをフォローしてほしかったのですが……。
そう伝えると、夫は私の気持ちを考えてくれようともせず、今は産後直後で体がつらいから気持ちも沈むのだと決めつけ、「退院後は子どもの世話は、すべてを母さんに任せればいい」と言ってきました。
私は、わが子にはできることはすべて自分でしてやりたいと思っていたので、それでは納得がいきません。また、子どものお世話を手伝ってもらうことで、義母に実権を握られそうなのも嫌です。
包み隠さず胸の内を夫に話すと、「近いうちに同居を解消しよう」と言ってくれました。これからは私を自由にするからとも言ってくれましたが、何だかその言葉に違和感を覚えた私。
今までは何でも義母の言いなりで、私の気持ちを汲んではくれなかった夫が、急に頼もしくなって、一体どんな気持ちの変化があったのだろうと不思議でした。お見舞いにも全然来てくれなかったものの、「息子は大事な跡継ぎだから何よりも大事にしたい」という夫。
先ほどまでは、子どもの世話は義母に任せればいいと言っていたのに、今度は急に「育児にも積極的に参加する、しっかり育てる」と言い出したのです。私の心はざわつく一方でした。
突然、家から締め出された私
それから数週間後のある日、夫に勧められ、久しぶりに外出した私。気分転換に近所のスーパーで買い物をして、帰ってくると、玄関が開きません。鍵を持たずに出かけたので、家にいる夫にドアを開けてほしいとお願いしましたが……。
「跡継ぎ産んでくれてサンキュ!お前はもう不要!」
「出てっていいぞ!笑」
閉まったドアの向こうから、夫の声が。ドアを開けてはくれないのです。そして夫は、「だって、母さんとの同居が無理なら、離婚するしかないだろ? 自由にしてやる」と言います。
そのまま実家に帰ったらいいと言われました。私が、「だったら息子を一緒に連れて帰る」と告げると、夫はそれを拒否。
そして夫は、優秀な遺伝子を持つ子どもがほしかっただけで私と結婚したと言ったのです。医師として腕の良かった私に、後継を産ませたかったそうで、無事に息子を産んだ私にはもう用がないとのこと。
強引に息子を取り返そうとしたら病院をクビにするとまで言って、脅してきました。今は産休中ですが、私が勤める病院は義実家が代々親戚経営している病院。私をクビにすることなんて簡単なことなのでしょう。
夫も息子を手放したくないようですが、それは私だって同じ。夫との離婚は受け入れられますが、息子を取られることはどうしても承諾できない私。とっさに嘘をついてしまいました。
「あなたの子じゃないけど?」
こんなその場しのぎのハッタリ、すぐにバレてしまう……そう思っていると、夫は意外な反応を見せました。
「へ?」
嘘をつくなと怒鳴られるかと思いましたが、夫が一瞬ひるんだため、私は畳みかけました。「それでもその子が欲しいなら、DNA鑑定でも何でもしなさいよ! ただし、そのときは、あなたが付き合ってる彼女のことも、全部お義母さまに話させてもらうから!」
衝撃の真実と夫のその後
突然私を追い出し、子どもだけ奪おうとした夫。実は、出産直後の夫の言葉に違和感を覚えた私は、探偵に夫の調査を依頼していました。すると、わずか2週間ほどの調査で、夫には長年付き合っている女性がいたことがわかったのです。
その女性は、私とはまったく違うタイプ。もちろん医師でもなければ、派手な見た目で、家庭環境も素行も良くないだろうと、義母が嫌悪するような女性。夫は、優秀な遺伝子を持つ跡継ぎさえいれば、義母も彼女のことを許してくれるかもしれないと期待し、私と結婚したのでした。
不倫の証拠を突きつけ、私が「さっきの言葉はとっさについてしまった嘘で、その子はあなたの子で間違いないけど、私からその子を奪うと言うならお義母さんにすべて話す」と告げると、夫は凍り付きました。彼女との関係が義母にバレることを、夫は何よりも恐れていたのです。
結局、夫は「わかった、子どもは返す。慰謝料でもなんでも払う! だから彼女のことは母さんに黙っていてくれ」と懇願。息子を私に返し、慰謝料と養育費を一括で支払うとその場で約束してくれました。彼女との関係が義母にバレ、仲を引き裂かれることを何よりも恐れた夫は、あっさり息子を返してくれたのです。
その後、私は弁護士に依頼し、夫と離婚。慰謝料と養育費はすべて一括で支払われました。元夫と彼女との関係については、約束通り元義母には何も知らせず、私は病院も辞め、義家族との縁を完全に切りました。
それからしばらくして、元同僚の医師から、結局元夫は彼女との関係が元義母にバレてしまい、職を辞して彼女と駆け落ちしたと聞きました。今となってはもう、元義母や元夫がどんな生活を送っているかはわかりません。私は実家に戻り、近所の病院に転職し、今は父の手を借りつつ、育児と仕事を両立しながら日々、楽しく生活しています。
◇ ◇ ◇
いかなる事情があれど、人を傷つけた上に成り立つ幸せなど、ないのかもしれませんね。その事情が個人的な利益に通じることであれば、なおさらです。存在そのものを踏みにじられ、どれほど傷ついたことでしょうか。お父さまと息子さんと3人、この先ずっと幸せに暮らしていけることを願うばかりです。
【取材時期:2025年10月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。