先日、結婚式を挙げたばかりの私たち。その写真のデータは案外早く届きました。素敵な写真ばかりで、眺めているだけで幸せなため息がこぼれます。
「ねぇ、写真のデータ届いたよ! 」と単身赴任中の夫に弾む声で連絡すると、「へぇ、あとで何枚か俺にも送っておいてよ」とそっけないながらも返事が来ました。
しかし、「うん、厳選して送るね! そうだ、印刷して部屋にも飾りたいな。かわいい写真立ても用意しなきゃ」と私が言うと、「……そんなの恥ずかしいからやめろよ。自分の写真を自分の家に飾るなんて」と夫は心底嫌そうでした。
夫はまだ単身赴任先だし、見る人は私1人だけ。仕事で仕方がないこととはいえ、さみしい思いを写真で紛らわせるくらいいいだろう、と思っていたのです。
しかし、夫の口から飛び出したのは、思いもよらない言葉でした。
「母さんに見られたら絶対にからかわれるだろ? 同居中に変なものを見せるのはやめてくれ」
衝撃的な事後報告
「えっ、同居中……って?」と尋ねると、夫は声のトーンを変えることなく答えました。
「今度からうちに母さんが同居することになったから。結婚式の写真なんて恥ずかしいだろ? だから飾るのは禁止、わかったな?」
問題をすりかえられている気がして、私は「写真じゃなくて、同居ってどういうことよ!」と思わず声を荒げてしまいました。
夫によると、結婚式で義母から「単身赴任でお嫁さんもさみしいだろうから、一緒に暮らしてあげたい」と言われたとのこと。夫はすぐにその許可を出したというのです。
「早速荷物をまとめてるし、今月下旬には来るって言ってたぞ」「そういうわけだからよろしくな! 母さんと2人暮らしになれば、毎日にぎやかで楽しいはずだぞ」
そう言った夫は一方的に電話を切りました。呆然としながらもカレンダーを確認すると、義母が来るまで3週間もありませんでした。
その後すぐに義母に電話をかけましたが、結果は……最悪でした。
「いきなりすみません! 同居のことですが、ちょっと考え直してもらえませんか?」と言うと、「そんなの嫌よぉ~」と楽しそうな義母。
「荷物もまとめちゃったし。それに私、一度でいいからタワマンっていうのに住んでみたくてねぇ。すごく楽しみにしてるのよ?」
同居は夫が勝手に決めてきたこと、私は1人暮らしでもさみしくないことを伝えたのですが、義母は聞く耳を持ちません。
そこで、私は「新婚」を持ち出すことに。「新婚で夫もいないのに、いきなりお義母さんと同居っていうのは……」と言うと、義母は含み笑いをしました。
「だからこそ、同居したほうがいいんじゃない。新婚なのに夫がいないなんて……そういうときの嫁はなにをするかわかったもんじゃないからね。だから私が同居して、見張ってあげないと」
そして、義母は結婚式での私と私の上司との距離感についてお小言を言ってきたのです。その上司は、大学時代の先輩でもあり、愛妻家として有名な方。そう説明しても、義母は「周りにいい顔している男こそ危ないのよ!」と聞かないのです。
「やましいことがないなら、同居したって問題ないでしょ? そもそも私は家主である息子の許可をもらってるんだから。嫁のあなたが逆らうなんて、許されないんだからね」と高圧的に言われ、電話は切れました。
絶たれた最後の望み
このままではまずい。そう思った私は、最後の望みをかけて、夫の兄の嫁である義姉に電話をしました。義母とも付き合いが長いお義姉さんなら、何かうまく断る知恵を貸してくれるかもしれない、と思ったのです。
「お義姉さん、助けてください! お義母さんからいきなり同居したいって言われて……夫も勝手に許可しちゃったんです。どうか、お義姉さんからもお義母さんに、考え直すよう言ってもらえませんか?」
しかし、返ってきたのは予想外の言葉でした。
「えっ、同居? いいじゃない、楽しそう!」「だってお義母さん、最近1人暮らしはさみしいってよく言ってたもの。あなたも、1人はさみしいでしょ? ちょうどいいじゃない」「それにお義母さん、『タワマンに住める』ってすごく喜んでたよ! 大丈夫、あなたならきっとうまくやれるって!」
あまりに他人事な言葉に、血の気が引いていくのがわかりました。味方だと思っていた義姉まで、義母の肩を持つなんて。
言葉を失っている間に、「それじゃ、私これから出かけるから。お義母さんのこと、よろしくね!」と電話は一方的に切られました。
「やっぱり同居は無理! 絶対に無理! お願いだから今すぐ白紙にしてちょうだい!」
私は絶望しながらも、震える手で、再び夫に電話をかけました。
はぁ? そんなことできるわけないだろ。同居の話は全部決定だ! お前のわがままなんて聞いてられるか」「母さんの役に立ちたいと思わないのか?」
夫は、義母も歳をとってきたし、1人暮らしはいろいろと心配だろう、と得意げに語ります。それにしたって、義兄夫婦の近くに住むとか、方法はいくらだってあるはずなのに……。
「……どうして、私たちなの?」と、夫に尋ねた私。妻である私の気持ちをないがしろにしてまで、同居しなければならない理由があるのかを知りたかったのです。
「母さんが一度はタワマンに住んでみたいって言ったから。お前が心配だから同居したいっていう、母さんの気持ちも汲んであげないとな」
そして、夫は信じられない言葉を続けました。
「あ、そうそう。母さんも大変だから、家賃の18万は引き続きお前が払ってくれ。食費や光熱費も増えるかもしれないけど、俺からの仕送りは今の金額が限界だから、お前のほうでうまくやりくりしてくれ」
思わず「なんですって!?」と声を上げてしまった私。
「いやぁ、なんか身内にお金って請求しづらいじゃん? ここは漢気見せて、俺たちが負担するぞ!」「ちなみに、これも全部決定事項だから。それじゃ、いろいろと準備よろしくな」
家賃に加えて、増えた分の生活費まで、全部私にやりくりしろと言うのです。私になんのメリットもない、義母との同居。到底受け入れられるはずがありません。
「……本当に、私の話はなにも聞いてくれないのね。そういうことなら、もう私もなにも言わない。黙って準備すればいいんでしょう!」
私は荒々しく通話終了ボタンを押し、これからどうすべきか、必死に考え始めたのでした。
妻からの反撃
そして3週間後、義母の引っ越し当日――。
単身赴任先の夫から電話がかかってきました。
「もう母さんの引っ越しは済んだか?」
「単身赴任の俺に代わって、嫁として手際よく終わらせたんだろうな!?」
「うん!私の引っ越しも!」
「は?」
私は1つ深呼吸をして、続けました。
「もう全部バッチリよ。お義母さんの荷物が続々と運び込まれるから、部屋に振り分けて。そして私の引っ越し荷物は早々に運び出して。それじゃ全部終わったから鍵を置いて私は実家に帰るわね」
「実家に!? お、おい、ちょっと待てよ! お前は急になにを言い出すんだ!」とあわてる夫に、「今日から実家に帰ることにしたの」と冷たく告げた私。
「なに勝手なことを! 俺になんの相談もなく、実家に帰るなんてありえないだろ!」
「え? それ、あなたが言うの? 私に何も言わず勝手に同居を決めた、あなたが」 と私はその言葉を、そっくりそのまま返しました。
「あなたが勝手にしたから、私も勝手にしたの。なんと言われようとこれは決定したことなので。あなたは黙って受け入れてちょうだいね」「私、今まで何度も同居は嫌だって言ったよね? なのに私の気持ちが伝わっていなかったの? あなたっていつから日本語が通じなくなったのかしら」
「……え、えっと、もしかして、めちゃくちゃ怒ってる?」とおそるおそる聞いてきた夫にあきれながら、私は「当然でしょ。だからもう1人で静かに引っ越すことに決めたのよ」と言いました。
「そういうわけだから、あとはよろしくね。離婚届はあなたの単身赴任先に郵送するから」
「離婚届!? 嘘だろ、俺と別れたいのか!? ついこの間結婚式あげたばっかりだぞ!?」と叫ぶ夫に、私は最後まで冷たく返しました。
「こんなことになって私も悲しいわ。でも仕方ないわよね、もうあなたと夫婦でなんていたくないし」
私が実家に着いてから、案の定、義母から「ちょっとあなた、今どこにいるの!? 荷物を受け取ったなら荷解きしておきなさいよ、使えないわね」と電話がありました。
「使えない嫁ですみません〜。それと実家にいるので、お手伝いは無理ですね。どうぞ、自分のことは自分でやってください」
「えっ、ご実家にいるの!?」と驚く義母に、私は元気よく答えます。
「はい! 同居なんて絶対に嫌なので実家に戻ってきました。夫とは離婚するつもりです」「お義母さんって、すごく私のことを心配していましたよね? 夫が近くにいないからって嫁の浮気を疑ってばかり。でも離婚すればもう嫁じゃないですもんね! 私のことを心配する必要がなくなって良かったですね!」
「り、離婚だなんて、ふざけんじゃないわよ! 私のお世話は誰がするっていうの!?」と本音を叫ぶ義母に、私は冷静に事実だけを伝えました。
「さぁ? 離婚する私にはどうでもいいことですね。お1人でのタワマン暮らし、満喫されてみては?」
そして、とどめに「……つかぬことをお聞きしますが、お義母さんって年金いくらくらいもらってます? 私が出て行ったので、生活費は自分で用意してほしいんです」ととどめの一撃。
「そのタワマン、本当の家賃は月28万円なんですよね。私が住んでいれば、うちの会社から家賃補助が毎月10万でてたんですけど……もうその手当ももらえませんし。だから、家賃は全額お義母さんのほうで支払ってくださいね」
電話の向こうで義母が絶句しているのがわかりました。
「では、私はこれで失礼します!」と言って、私は久しぶりにすっきりした気持ちで電話を切りました。
翌日――。
夫から「本当に離婚届が届いた……」と青ざめた声で電話がありました。
「俺は離婚なんて嫌だ! 頼むから考え直してくれないか!? 勝手に同居を決めてごめん! 謝るから!」
しかし、今さら謝られたところで、私の気持ちは変わりません。私の意見に一切耳を貸さず、義母ばかりを優先する夫と、これから先夫婦としてやっていけるとは思えなかったのです。
「俺はただ、みんな楽しく一緒に暮らせたらなって……」という夫に、「楽しく? 誰が? あなたが言う楽しさって私の苦しみの上に成り立つものでしょ? だから反対したのに……あなたは私の気持ちを一度でも本気で考えた?」と言い返した私。
言葉に詰まった夫に、「謝られても、もう遅いの。あなたには信頼も信用もない。そんな状態で夫婦としてやっていくのは無理よ。私は離婚するから、どうぞこれからは好きなだけお義母さんに尽くしてあげてちょうだい」と私は言葉を重ねました。
その後――。
夫は急遽休みを取り、私の実家まで謝りにやってきました。しかし、私は夫と顔を合わせるつもりはありませんでしたし、そもそも両親が敷居を跨ぐことを許しませんでした。
両親は離婚届へのサインを催促し、夫はその場で泣く泣くサイン。夫が帰ったあと、すぐに役所に提出し、私たちの離婚は無事成立したのです。
同時に、私はマンションの管理会社と自分の会社に、私自身が退去したことを伝えました。元夫と元義母は、家賃全額を自腹で払って住み続けるか、1カ月以内に退去するかの選択を迫られることとなったのです。
結局、元夫たちが選んだのは退去。夢のタワマン暮らしも束の間、元義母は荷物をまとめ直す羽目になりました。元義母は元義兄夫婦の家に転がり込もうとしたそうですが、義姉の猛反対にあい、行くあてもなく途方に暮れているそうです。ちなみに、元夫はその義母の費用をすべて負担することとなり、貯金を切り崩しているのだとか。
元夫は電話をかけてきては今の惨状を私に訴えてきます。なんとか復縁できないかと思っているようですが、私のほうはそろそろ元夫の連絡先を全部ブロックしてもいいかなと考えているところです。
結婚は、お互いを尊重し、思いやることなしには成り立たないと実感しました。「家族」という言葉を盾に、誰か1人の犠牲の上に成り立つ関係は、いつか必ず破綻するのだと。
あのとき、自分の気持ちにフタをせず、理不尽な要求に「ノー」を突きつけた自分の選択は間違っていなかったと確信しています。今は、私を本当に大切にしてくれる人たちに囲まれて、新しい一歩を踏み出しています。
【取材時期:2025年9月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。