朝のシャワー中、スマホのロックが甘かった夫。そこには、浮気相手との楽しそうなやり取りが克明に残っていたのです……。複雑な思いで仕事に行く夫を見送った私ですが、仕事から帰宅途中の夫に、問い詰めることにしました。
夫に離婚を突き付けた私
「あなた……また浮気してるでしょ」
「は? なんか証拠でもあんのかよ」
夫は、悪びれる様子もなく鼻で笑います。証拠を突きつけると、今度は逆ギレです。
「何、勝手に人のスマホを見てるんだよ! 男なら遊びの一つや二つ当然だろ!」
ため息しか出ません。借金の件で揉めたばかりだというのに。「浮気相手に貢いで50万も借金作って……! まだその返済も終わってないでしょうが!」「あーはいはい、俺が悪かったよ。でも今回は借金してないし、ガタガタ言うなよ」
そのあまりにも反省のない態度に、私の中で何かがプツリと切れました。
「……覚えてる? 『次やったら本気で離婚』って言ったとき、離婚届にサインさせたよね? あの紙、まだ私が持ってるから」
「はぁ? あれは、ただの脅しだろ。どうせ出す勇気なんかないくせに」
夫はまだ、私が本気ではないと高をくくっているようでした。
「……なら今すぐ出してくる。離婚届、提出してくるから」
「えっ!?」
私はそのまま荷物をまとめ、家を飛び出しました。
「おい、離婚って……本気で言ってんのか!?」
「本気だって前に言っておいたはずだよ。もう我慢の限界なの」
電話口で夫は、なおも義母の言葉を盾に私を言いくるめようとします。
「母さんも言ってただろ? 『女なら我慢しろ』って! 嫁は黙って支えるもんなのに、お前ってやつは!」
浮気も借金も、いつも義母に庇ってもらう夫。その姿に心底あきれ果てました。
「もう無理なの。離婚しかないわ」
「ふざけんな! 離婚なんて俺は認めないからな! 俺のメシは!? 掃除は!?」
最後まで自分のことしか考えない夫に、私は準備していた言葉を叩きつけました。
「こっちは、もうとっくに弁護士に相談済み。あなたが認めなくても、離婚してやるんだから。慰謝料はきっちり払ってもらう。さようなら」
電話の向こうで夫が何か叫んでいましたが、私は静かに通話を切り、着信を拒否しました。
離婚後に流された「嘘」
離婚から3週間。ようやく新しい生活にも慣れ、落ち着きを取り戻し始めたころ、元夫の兄から連絡がありました。「急にごめん、弟と離婚したって、本当なの!?」
義兄は、夫とは違い常識的で、いつも私にやさしくしてくれていた人です。私は事情を説明しました。「はい。彼の浮気や借金が何度も続いて……もう耐えられなくなったんです」「ええええ!? あいつ、そんなことしてたのか!?」
義兄は心から驚いている様子でした。そして、信じられない言葉を続けたのです。
「実は……さっき実家で弟から離婚のことを聞いたんだけど、『妻が俺を裏切ったんだ』って……。まるで君に原因があるみたいな言い方でさ」
耳を疑いました。「なんですって!? ちょ、ちょっと待ってください! 浮気したり、家計も好き勝手やってたって……そんなの違います! 裏切ったのは完全に彼の方です!」 私がこれまで我慢してきたこと、そして慰謝料すら一円も支払われていない事実を伝えると、義兄は深くため息をつきました。
「……やっぱりか。正直、弟の話はどうにも嘘くさくてさ。兄として情けないよ、本当に申し訳ない」 「いえいえ、お義兄さんが謝ることじゃ……」 「いや、本当にごめん。……そうか、慰謝料も踏み倒してるのか。ちょっと俺からも事実を確認してみるよ」 義兄の力強い言葉に、私は心から感謝しました。
義母からの脅迫電話
しかし、義兄が行動を起こすより早く、事態は思わぬ方向へ転がります。翌日、今度は元義母から電話がかかってきたのです。「ちょっとあんた、まだ息子に慰謝料払ってないんですってね!? 一体いつになったら振り込むつもりなのよ!」「……は? 慰謝料を払うのは、彼の方ですよ?」
一瞬、何を言われているのかわかりませんでした。
「はぁ!? なにを言ってるの! 離婚になったのは、あんたのせいでしょ!あの子がどれだけ苦しめられてたか……話は全部、聞いてるんだから!」
あぁ、あの嘘八百の話を鵜呑みにしているのか。私が事実を説明しようとしても、義母は聞く耳を持ちません。「まあなんて人なの!? 息子が、私に嘘を言うわけないでしょうが!」「えぇ……」 「それに、浮気や借金がなんだっていうの! 女なら男を支えるのが当たり前なの! 浮気したとしたら原因はあんた! どう考えてもあんたが悪いわ!」
開いた口がふさがりません。義母は息子を盲信するあまり、常識すら見失っているようでした。「当然でしょ! 息子のことを悪者にするなんて許さないわ!」 「じゃあ……私が何度、訂正しても意味なさそうですね……」
「そうよ!」と義母は勝ち誇ったように笑います。「だからね! とっとと観念して、慰謝料を支払いなさい! 息子の戸籍に傷をつけて……! そうね、500万ぐらいは払うべきよね!」
義母の脅迫が「切り札」に変わった瞬間
「500万!?」 あまりに突拍子もない金額に驚いていると、義母はさらに畳みかけてきました。
「うふふふ、拒否するつもりなら、すぐにでも弁護士を呼ぶから! うちには弁護士の息子だっているんだから! 話を聞いて『それはけしからん』って本気で怒ってたわよ! あんたなんて一発で負けるのよ!」
義母はさらに続けました。
「早く息子に慰謝料を払って!」
「まだ拒否するっていうなら、弁護士を呼んで500万請求よ!」
「別に構いませんが……?」
私がそう答えると、「余裕があるのも今のうちよ」と義母。
「さぁ! 覚悟を決めなさい! 裁判になったら、恥をかくのはあんたなんだからね!!」
その言葉を聞いた瞬間、私は思わず口元が緩むのを抑えられませんでした。
「裁判ですか……ありがとうございます」
「は?」と素っ頓狂な声を上げる義母に、私は、これ以上ないほど冷静に、そしてはっきりと告げました。
「だって私の手元には、あの人浮気や借金の証拠が山ほど揃ってますし、弁護士であるお義兄さんに全部きちんと見てもらえるんですよね? それに、弁護士を立てて慰謝料100万円を請求しましたが、それすら無視して踏み倒している状況です。当然、遅延損害金も上乗せで請求できます。ああ、それと。離婚後に『私が浮気した』なんて嘘を言いふらしている件ですが、これは悪質な名誉毀損ですよね。100万円とは別に、その分の慰謝料も追加で請求させていただきますね。お義母さんが『500万』とおっしゃいましたが、あながち冗談では済まなくなるかもしれませんよ?」
「……え?」
義母の声が、明らかに動揺しています。
「浮気相手とホテルに入る写真もありますよ。LINEのスクショだって。消費者金融からの借用書と督促状も……これを全部、お義兄さんに直接、確認してもらえるなんて! 非常に頼もしくて、ありがたいですね!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい……! え? あなたじゃなくて!?」
「何度もそう言ってるじゃないですか。けどもう私は大丈夫です! 弁護士を用意してもらえて、しかも追加で慰謝料を請求できるなんて! 私にとっていい話しかないので、早く話し合いの場を設けましょう!」
「そ、そんな...」 私はとどめを刺しました。
「いやぁ〜楽しみです! 弁護士のお義兄さん同席で、きっちりケリをつけましょう! 後日会えるのを楽しみしていますね!」
証拠が招いた自業自得の結末
1時間後、元夫から案の定、鬼の形相が目に浮かぶような電話がかかってきました。
「おい!! お前、なんで余計なことを母さんに言ったんだよ!! おかげで母さんに問い詰められて……全部白状させられたんだぞ!? 親父からも本気で怒られるし……!」
「あなたが自分に都合のいい嘘なんてついたからでしょうが……」
「だって、親に本当のことなんて言えるわけないだろ!? どうしてくれるんだよ!!」
どこまでも自分勝手な元夫に、私はあきれ果てました。
「はぁ……もうこうなったら、容赦しないからね。慰謝料も、遅延損害金も、名誉毀損の分も、全部まとめて払ってもらうから。覚悟しておくことね」
「なっ……!?」
後日、話し合いの場が持たれました。義兄は『弁護士としてではなく、元夫の兄として事実確認のために同席する』という立場を明確にした上で参加してくれました。私が集めた証拠がすべて開示されると、法律の専門家である義兄の前では元夫も義母も嘘をつけず、顔面蒼白でした。
結果、私はその場で慰謝料の未払い分に加え、遅延損害金、さらに今回の名誉毀損に対する慰謝料も上乗せした金額で、法的な拘束力を持つ公正証書を作成させることができました。 義兄は「弁護士としても人としても、あの家とは距離を置きたい」と、家族の非常識さに心底あきれていました。
「お義兄さん、今日は本当にありがとうございました!」 「いや、本当にごめん。……とりあえず何かあったら、また連絡してよ。 もちろん、僕はあいつの兄だから、君の『弁護士として』代理人になることはできない。それは法律で禁止されているんだ。でも、法律知識のある友人として、いつでも力になるから」 「ありがとうございます!」
これで全て終わったと思った数日後。なんと義母から再び電話が。
「お願い! 私のことを助けてちょうだい!!」
聞けば、話し合いの前に「元嫁から慰謝料をガッツリ搾り取ってやる」と近所や親戚に自慢して回っていたというのです。
「そ、そしたら……親戚の一人が長男にまで連絡しちゃって……!」 「『母さん、いい加減にしてくれ! そんな嘘、俺の弁護士としての信用問題に関わる!』って激怒して……!」 「『もし今度同じ嘘を耳にしたら、俺が親戚中に真相を説明する』とまで言われて……!」
義母は電話口で泣き喚いています。
「でも、今さら私が間違ってましたなんて……近所の人に笑われちゃう……! お願い、あんたが悪かったってことにしてくれない!?」
「嫌ですよ、そんな馬げた話」 私はきっぱりと断りました。
「自分の行動のツケは自分でとってくださいよ。もし勝手に、私が悪いなんてデマを流したら……その時点で名誉毀損で訴えますから。お義兄さんにもすぐに報告します」
「そ、そんなのズルいじゃない!」と泣き叫ぶ義母の電話を、私は今度こそ完全に切りました。
その後、元夫は実家に転がり込んでいるそうですが、義母が親戚や近所に嘘をついていた手前、元夫も『妻が悪い』と言い張っていたようですが、話し合いの場に同席していた親戚からも真相が漏れ、あっという間に近所に知れ渡ったそうです。
「あんたのせいで、街を歩けないじゃない!」と義母は毎日泣き喚き、親子そろって肩身の狭い思いをしていると聞きました。
信じていた家族から裏切られ、ありもしない嘘によって尊厳まで踏みにじられそうになった日々は、本当に苦しいものでした。
しかし、泣き寝入りするのではなく、冷静に事実と証拠を集め続けたこと、そして自分を信じ抜く強さを持ったことが、最後には私自身を救ってくれました。
義兄のような良識ある存在が、たとえ敵対する家族の中にもいたことは、唯一の救いだったかもしれません。この経験を通して学んだのは、正しいと思うことを貫く勇気と、真実を諦めない姿勢こそが、理不尽な状況を覆す最大の力になるということです。手に入れたこの穏やかな日常を大切にして、これからは、取り戻した自分自身の尊厳を胸に、笑顔で前を向いて歩いていきます。
【取材時期:2025年8月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。