【医師監修】妊娠中は貧血になりやすい?理由と原因を解説
妊娠をすると、ママの身体にはいろいろな変化やトラブルが起こります。そのトラブルの1つに貧血が挙げられます。今回は、妊娠中の貧血について、貧血の原因や症状、おなかの赤ちゃんへの影響、治療方法などについて解説します。
- 【目次】
- ・貧血の診断方法
- ・妊娠中の貧血の原因
- ・貧血の症状とおなかの赤ちゃんへの影響
- ・鉄欠乏性貧血の治療
- ・貧血の治療中に気を付けること
- ・貧血の予防について
- ・まとめ
- ・貧血に関連するQ&A
貧血の診断方法
貧血とは、血液中の赤血球や赤血球中にあるヘモグロビンが正常値より少ない状態のことを言います。
妊婦健診では、一般的に
・妊娠初期(目安:妊娠12週未満)
・妊娠中期(目安:妊娠24~30週ごろ)
・妊娠後期(目安:妊娠36週前後)
の計3回、血液検査をおこないます。
血液検査では主に、赤血球数(※)、ヘモグロビン濃度(※)、ヘマトクリット値(※)などの項目を参考に診断をします。
妊婦さんの場合、ヘモグロビン濃度やヘマトクリット値の低下で貧血と診断し、食事療法や鉄剤の投与などの必要な治療をおこないます。
※赤血球(RBC):肺で受け取った酸素を体の隅々の細胞に供給したり、二酸化炭素を受け取って肺まで運ぶ役割をします。
※ヘモグロビン(Hb):赤血球のほとんどの成分を占めているのがヘモグロビンです。ヘモグロビンに含まれる鉄分によって、酸素濃度が高いところでは酸素と結合し、低いところでは酸素を放つという特徴をもっており、酸素を全身へ運搬します。
※ヘマトクリット(Ht):血液は、血漿、赤血球、白血球、血小板からできています。ヘマトクリットは全血液量に対する赤血球の割合を示したものです。
妊娠中の貧血の原因
妊娠中に起こる貧血の9割ほどは鉄欠乏性貧血です。
鉄分はヘモグロビンにとって必要不可欠ですが、妊娠中は胎児の成長のために、母体よりも胎児に優先して供給されるため、母体に必要な鉄分が不足して、鉄欠乏性貧血を引き起こします。
また、妊娠初期には欠かすことのできない葉酸不足によっても貧血になることがあります。葉酸は赤血球をつくるのに必要なビタミンです。妊娠中は妊娠していないときよりハイペースで造血するため、葉酸が不足しがちとなり、結果的に葉酸欠乏性貧血を引き起こすことがあります。
妊娠16週ごろまでは、つわりによって十分な食事をとれないことで鉄分が不足し、貧血が起こりやすくなります。
また、妊娠中期以降、特に妊娠20週以降は、赤血球を作るために必要な鉄分や葉酸の必要量も増すので、生理的に貧血が起こりやすい時期となります。
そして妊娠32週ごろには妊娠していないときと比べ、循環血液量が40~50%(約1,000ml)増加しますが、赤血球は20~30%の増加にとどまるため、血液が薄まった状態になります。
貧血の症状とおなかの赤ちゃんへの影響
妊娠してから徐々に貧血が起こりやすい状態になるため、特に症状を自覚しないまま過ごす妊婦さんが多いです。血液検査の結果を知らされて、疲れやすさや息切れが体型の変化のせいだけではなく、貧血によるものだと初めて自覚する妊婦さんもいます。
貧血が進行している場合の代表的な自覚症状には以下のようなものがあります。
・疲れやすい
・だるい
・体力が落ちた気がする
・動悸がする
・息切れが起きる
・めまいが起きる
・顔色がさえない or 白っぽい
・下まぶたの裏が白い
また、妊娠中の貧血がおなかの赤ちゃんに与える影響として以下のようなものがあります。
・胎児発育不全:胎児の発育が標準より遅いあるいは停止する状態
・低出生体重児:生まれたときの体重が2,500g未満
・早産:妊娠22週0日~36週6日までの出産
鉄欠乏性貧血の治療
血液検査の結果、鉄欠乏性貧血と診断された場合や、食事だけでは鉄分を補うことが難しいと判断された場合に、鉄剤が処方されます。
基本的に鉄剤は錠剤タイプのものが処方されますが、錠剤タイプが内服できない場合に限り、シロップタイプを処方されることもあります。
【鉄剤による副作用について】
鉄剤を内服し始めたばかりの時期は、
・消化器症状(胃がムカムカする、嘔吐する、便秘や下痢が起こる)
・便が黒くなる
などの副作用が起こる妊婦さんも少なくありませんが、心配はいりません。鉄剤の鉄っぽい味が苦手で飲みづらいこともよくあるケースです。
【副作用を抑える方法】
鉄剤は胃酸の影響を受けるため、胃薬(胃粘膜保護剤)と共に内服する、あるいは食後ではなく、食間や寝る前に内服するなど、内服のタイミングを工夫することで、副作用である消化器症状(悪心・嘔吐・食欲不振・便秘・下痢など)を抑えることもできます。
貧血の治療中に気を付けること
貧血の治療で鉄剤を服用しているときに気を付けることがいくつかあります。
■炭酸飲料を飲み過ぎない
妊娠中、炭酸飲料を好む方もいらっしゃいますが、毎日炭酸飲料を飲むことで胃の中が酸性ではなくアルカリ性に傾いている時間が長く、鉄吸収を妨げる可能性があります。
鉄剤を内服するときは炭酸飲料を飲む量を控えるようにしましょう。
■自分の判断で処方された鉄剤を中断する
副作用がある場合、処方された鉄剤の内服を自己中断することはやめましょう。「飲みづらい」「飲めない」「副作用に耐えられない」ということがあれば、かかりつけの産婦人科医や助産師へ早めに相談してください。
■自分の判断で鉄剤のサプリメントを飲む
サプリメントは薬剤ではなく、あくまでも栄養補助食品ですが、鉄分をとり過ぎると胃腸に刺激となることがあります。また、貧血のない妊婦さんが鉄分を含むサプリメントを摂取しても妊娠に伴う生理的な変化を打ち消すような予防にはなりません。
貧血の予防について
どうしても貧血が気になる場合は、サプリメントに頼らず、食事で鉄分を補うように心がけましょう。
鉄分の豊富な食材というと、レバーを思い浮かべる方が多いですが、妊娠中は、免疫力や抵抗力が下がり、生肉に含まれるトキソプラズマやリステリア菌などの寄生虫や細菌に感染する可能性があるため、よく火を通した物を摂取しましょう。
鉄分を含む赤身肉、赤血球を作るために必要なビタミンB12を含む魚介類やチーズはおすすめの食材ですが、こちらも食中毒を予防するために、必ず加熱処理された物を食べるようにしてください。
助産師や栄養士などの専門職に食生活の見直しを相談することで、貧血を改善することは可能です。まずは普段の食事内容を見直すことから始めましょう。入手しやすい食材、毎日食べても飽きない食材、意識して食べることが苦にならない食材を取り入れ、鉄分や葉酸を含む食材だけにこだわるのではなく、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。
まとめ
妊娠中の貧血は、母体の生理的な変化ではありますが、放置してしまうとおなかの中の赤ちゃんや出産の際に影響を及ぼす可能性もあります。日ごろから食事に気をつけることはもちろんのこと、鉄剤の服用が必要になった場合は、用法用量を守って服用するようにしましょう。気になる症状がある場合には、かかりつけ医に相談してくださいね。