【医師監修】妊娠中のつらい便秘のときは下剤を飲んでも大丈夫?
便秘を治すための薬を緩下剤あるいは下剤と呼びます。今回は、妊娠中の便秘と下剤についてお話しします。
便秘とは?
便が腸内に長時間とどまり、水分が減って硬くなることで快適に排出できない状態を便秘と言います。排便習慣には個人差があるため、排便回数の減少(週3回未満)だけでなく、腹痛や腹部膨満感、残便感などがあれば、生活習慣の改善や治療が必要な便秘です。
妊娠中に便秘に悩まされる妊婦さんは多いですが、便秘そのものが胎児に悪影響を与えることはありません。しかし、便秘が起こることで、妊婦さん本人が腹痛や腹部膨満感に悩まされたり、排便のために強く下腹部に力をかけることで性器出血や肛門からの出血の原因となったり、一時的におなかが張りやすくなることがあります。
どうして妊婦さんは便秘になりやすいの?
①プロゲステロン(黄体ホルモン)の作用
妊娠すると、妊娠を維持する作用をもつプロゲステロン(黄体ホルモン)というホルモンが母体の中で増加します。このプロゲステロンは、腸の動き(蠕動運動)を抑える作用があります。この作用は、食べ物を胃や腸内をゆっくりと時間をかけて移動させることで、効率よく栄養の吸収をするためですが、同時に排泄する作用が弱まるため、便秘が起こる原因となります。妊娠前から慢性的に便秘があると、プロゲステロンの作用がさらに腸の動きを鈍くさせることになります。
腸の動きが鈍くなることで便が腸内に長く留まると、便が硬くなり、腸内にガスが溜まりやすくなります。ガスは便の体外への排泄を促しますが、腹痛の原因にもなります。ようやく体外へ硬い便が排泄されたことをきっかけに、溜まっていた便が次々と排泄され、軟便~下痢便を排泄することもあり、便秘と下痢を繰り返す妊婦さんもいます。
②食生活の変化
特に妊娠初期はつわりがある場合に水分摂取が少なくなることで、便が硬くなることがあります。妊娠中期以降は食べる量の変化や、胎児の成長とともに子宮が腸を圧迫することで、腸自体の正常な動きが抑えられ、便秘が起こる原因となります。
③運動量や活動量の変化
体を動かすことで腸の動きは促されますが、妊娠や生活パターンの変化をきっかけに運動量や活動量が減り、腹筋や横隔膜の動きが低下することで便秘の起こりやすい状態となります。また、切迫早産や前置胎盤と診断された場合に、自宅安静や入院生活となることで便秘が起こりやすくなります。
④鉄剤の内服による副作用
妊娠中は貧血になりやすいですが、鉄剤を内服し始めたばかりの時期に副作用で便秘が起こる場合があります。共に処方された鉄分の吸収を促すビタミンCを含むビタミン剤を内服することで、さらに便秘に悩まされるケースもあります。鉄剤を内服し始めてから便秘が起こった場合は、早めに医師や助産師へ相談しましょう。
⑤精神的なストレス
妊娠に伴う緊張感や生活環境から受けるストレスによって自律神経が乱れて、便秘を起こすことがあります。
下剤に頼らず便秘を解消する方法は?
便秘の治療の基本は生活習慣、食事、運動です。この3つを見直して効果が不十分な場合には、薬物治療が必要です。下記を参考に生活習慣、食事、運動について改善できることや自分に合った方法を見つけるために、妊婦健診の際に医師や助産師へ相談しましょう。
・早寝、早起きをし、規則正しい生活をしましょう。腸の動きは副交感神経が優位なときに最も活発になります。副交感神経は睡眠中に優位になるので、十分な睡眠をとることは便秘解消に役立ちます。
・バランスのとれた食事を摂りましょう。1日3食が基本ですが、一度にたくさん食べることでおなかが張りやすい場合は、4~5回に分けて食べても良いです。
・野菜、海藻、果物、芋類、豆類など食物繊維を含む食材を摂りましょう。食物繊維は腸で吸収されず水分を含んで便の量を増やし、硬くなるのを防いだり、大腸内で発酵して腸に刺激を与える効果があります。
・水や麦茶などで水分を十分に摂取しましょう。水分は腸の動きを活発にして便をやわらかくします。
・お菓子や糖分を含んだ飲料は、カロリーが高いわりにあまり便にならないので控えましょう。
・排便リズムを整えましょう。朝食後など必ずトイレに行く時間を決めたり、排便のための十分な時間を確保できるように環境を準備しましょう。
・体を動かすことは、腸の運動を活発にして排便を促します。妊娠経過が順調であれば、散歩や家事など軽い運動でかまわないので、適度に体を動かすようにしましょう。
妊娠中に下剤を飲んでも大丈夫?
妊娠中の便秘に悩む場合は、医師や助産師へ相談しましょう。医師が処方した下剤であれば内服して大丈夫です。下剤の成分が胎児へ影響することはありませんが、大量に服用すると子宮収縮を誘発する可能性があるので、医師に指示された通りに服用しましょう。
妊婦さんが内服可能な市販薬もありますが、妊娠経過や便秘の状態は個人差があるので、まずは医師へ相談することを優先しましょう。妊娠前に使用していた下剤やサプリメントを自己判断で使用するのはやめましょう。
妊娠や胎児への影響がないため安全性が高く、効果が確実で、習慣性とならない(クセにならない)と考えられている妊娠中に使用可能な下剤は下記の通りです。なお、妊娠中に使用可能な下剤は、産後の授乳中にも使用可能です。
塩類下剤
酸化マグネシウム(商品名 酸化マグネシウム マグラックス® マグミット®)
→酸化マグネシウムは、便に直接働きかけて、便をやわらかくする作用があります。便が出なくなってから内服するのではなく、便が硬くならないように毎日同じ量を飲むことで、快適に排便する効果が得られます。酸化マグネシウムを内服する場合は、水分も十分に摂ったほうが効果は得られやすいので、妊娠前よりも多めに水分を摂るように心がけましょう。
大腸刺激性下剤
ピコスルファート(商品名:ラキソベロン®)
→酸化マグネシウムだけで効果が得られない場合に、腸の動きを促す大腸刺激性下剤に変更したり、併用することがありますが、センナをはじめ大腸刺激性下剤には子宮の収縮に影響する可能性のあるものもあるので、注意が必要です。ピコスルファート(ラキソベロは比較的安全に使える薬ですが、腹痛や下痢を起こさないように飲み始めに量の調整が必要です。医師とよく相談しながら使用しましょう。
このほかに、坐薬タイプの新レシカルボン坐剤®やグリセリン浣腸も妊娠中に使用可能ですが、自力での排便が困難な便秘の場合に限り、速やかに排便するために医師の判断のもと使用するものです。また、漢方薬を処方されることもありますが、すべての妊婦さんに効果があるとは限らないので、医師とよく相談して効果をみながら使用することになります。サプリメントなどの健康食品や民間療法が妊娠中の便秘に安全かつ有効だとする医学的なデータはありませんので、鵜呑みにしないように気をつけましょう。
妊娠中は特に、妊娠経過や便秘の状況に合わせた治療をおこないますので、心配なことがあれば医師や助産師へ直接質問しましょう。処方された薬について相談したい場合は、厚生労働省事業「妊娠と薬情報センター」を利用しましょう。
まとめ
妊娠中は日ごろから便秘を予防したり、生活習慣を改善しても快適に排便できない場合には適切な治療をすることが大切です。便秘に悩む場合は、医師や助産師へ相談しましょう。
慢性便秘症診療ガイドライン2017
妊娠と薬情報センターHP