【医師監修】基礎体温が上がらない原因と妊娠への影響
基礎体温を記録し始めてみたけれど、基礎体温が高温期になかなか上がらない、全体的に低いような気がするなど、妊娠できるのだろうかと不安を感じたことのある方もいるのではないでしょうか。今回は、基礎体温が低いと妊娠に影響があるのか、基礎体温が上がらない原因や改善方法についてお話しします。
基礎体温とは?
人間が生きるために必要最低限のエネルギーを使っているときの体温を、基礎体温といいます。食事や運動、精神状態(緊張)など体温を変動させるような条件がないときに測定される体温です。通常の生活でこの条件を満たし、必要最低限のエネルギーを使っているときは睡眠中ですが、眠っている間に体温を測ることができないため、寝起き直後で起き上がる前に測定します。
基礎体温は、発熱時にわきにはさむなど皮膚温を測るタイプの体温計ではなく、口の中(舌の下)で測るタイプの体温計で測定します。女性が基礎体温を測定するために使う婦人科用体温計は、小数点以下2桁まで測定できるため、わずかな体温の変化も知ることができます。
「基礎体温が低い」とは?
基礎体温は体調や測定する時間帯、測定方法によって異なるため、たまたま測定した体温が低い、あるいは一時的に体温が低いだけでは「基礎体温が低い」とは判断できません。
女性の基礎体温は月経周期に合わせて変化します。 そのため、規則的な月経周期で排卵が起きている場合は、月経開始時~排卵までの時期を低温相、排卵~次回の月経が開始する前までは高温相となります。卵巣や子宮などの機能は正常に働き、ホルモンの正常な働きかけで排卵している状態であれば、基礎体温は1回の月経周期のうちに低温相と高温相の二相性となります。低温相と高温相を通して約36~37度の間で推移して、低温相と高温相に約0.3~0.5度の体温差があります。
月経周期は25~38日が正常の範囲で、個人差もあります。また、年齢(思春期、性成熟期、更年期)によっても異なるため、医学的に何度以下なら低いとする定義はありません。低温相と高温相の全期間を通して低めの体温で推移している場合など、何らかの理由で基礎体温が低いと思われるときには、生活習慣の改善や治療を必要となることがあります。
ちなみに、平熱が低いからといって基礎体温も低いとは限りません。体温の測り方が悪くて、測定値が低いということもあります。基礎体温が低いかどうかについては、毎日測定して記録しないと判断はできません。
基礎体温が低いと妊娠に影響する?
基礎体温が低いから妊娠を妨げるのではなく、妊娠を妨げる何らかの原因があるために基礎体温は低いパターンを示します。基礎体温が低めに推移していても、低温相と高温相の二相性を示していて、排卵していれば妊娠することはできます。
基礎体温の示すパターンと妊娠を妨げる原因は、以下の通りです。
①低温相が続く場合は、排卵していない可能性がある。
月経開始から次の月経が始まるまでの期間、ずっと低温相が続く場合は、排卵していない可能性があります。月経があっても、無排卵月経かもしれません。また、女性ホルモンの分泌が低下していることも考えられます。
②高温相が短い場合は、黄体機能不全の可能性がある。
高温相が10日未満で短い場合や、高温相に入っても一時的に基礎体温が下がる場合は、卵巣の働きが低下している黄体機能不全の可能性があります。排卵があって妊娠しても、受精卵がうまく育たないなど、不妊症や不育症の原因となります。
低温相と高温相の温度差が0.3度未満の場合、低温相から高温相への移行が4日以上かかる場合も、黄体機能不全の可能性があります。
③基礎体温が低い場合は、もともと基礎代謝が低い可能性がある。
基礎代謝とは、人間が生きるために必要最低限に使われるエネルギーです。基礎代謝が低いと体に熱を作れないため、基礎体温そのものが低くなります。
人間の体の深部温度は37度程度、皮膚温は周囲の環境にも左右されますが36度程度に保つことで、体の機能は正常に働きます。体温が低い状態が続くことで、内臓の働きが鈍くなる、ホルモンのバランスが崩れるなどの生理的な変化が、排卵や子宮への血流へ影響する可能性があります。
この他にも、血液中の甲状腺ホルモンが低下する甲状腺機能低下症や排卵を抑えたり、生理を止めてしまう高プロラクチン血症は、疾患の治療をすることが必要です。これらの疾患は超音波検査や血液検査など詳しい検査をしないと判断できませんので、基礎体温の記録をもって産婦人科あるいは婦人科を受診しましょう。
基礎体温が上がらない場合はどうしたらいい?
基礎体温を1~3カ月測定し続けて、低温相が続く場合や低温相と高温相の全期間を通して低めの体温で推移している場合は、産婦人科や婦人科へ記録を持参して受診しましょう。
排卵の有無に関わらず、卵巣の機能低下によって基礎体温が低いパターンを示す場合には、まず食事、睡眠や運動など生活習慣を見直しましょう。栄養バランスのとれた適度な量の食事と、適度な時間と質の睡眠は、自律神経やホルモンのバランスを整えるために大切です。また、基礎代謝が低いために基礎体温が低いと予想する場合は、無理のない範囲で継続できる運動を日常に取り入れましょう。運動によって筋肉量を増やすことで基礎代謝量が増え、結果的に基礎体温を上げる効果が期待できます。
体の冷えを改善するために、常温や温かい飲み物を飲むこと、腹巻きやレッグウォーマー、靴下を履いて体を温めるとよいでしょう。また、漢方薬や鍼灸治療による効果は期待できますが、必ず国家資格をもつ専門家のもとで治療を受けましょう。
基礎体温が上がらない原因は、病院で詳しい検査を受けないとはっきりとわからないこともあります。冷えの改善に役立つといわれる特定の食材やサプリメントの効果に期待したり、医学的な診断のないまま科学的根拠のない民間療法だけに頼ることは避けましょう。
まとめ
妊娠を希望している方は、基礎体温が低いと妊娠できるのだろうかと心配になりますよね。基礎体温について気になることがあれば、3カ月分の記録を持参して産婦人科あるいは婦人科を受診しましょう。また、食事や運動、生活スタイルの変更をストレスに感じない程度に取り入れられるとよいですね。
参考:
・産婦人科診療ガイドライン産科編2017
・婦人科乳腺外科疾患ビジュアルブック 学研