ある日手渡された「練習指示書」
きちんと通い始めた義母のピアノ教室。最初はそれまでと多くは変わらず、月謝を払い始めたくらいの変化でした。そして本格的なレッスンになってしばらく経ったある日、義実家に家族みんなで遊びに行ったときのことです。夫がいないときに義母から「これ読んで」とある紙を手渡されました。その場で開いてみると、びっしりと書かれた文と「ピアノの練習指示書」の文字が。
義母はその指示書の項目1つひとつを指しながら、「これはこんなふうにやって」「こっちは音楽をかけながらこうしてみて」など細かい指示をしてきました。そして最後に「毎日1時間はピアノに触らせてね」とニッコリ。
毎日1時間も練習を…!?
私は戸惑いながら「え? 習い事ってこんなに厳しいの? これを負担に思っちゃう私ってダメな親?」と思いつつ、義母の勢いに圧倒されるばかりでした。最初こそ義母の指示書を見ながら、見よう見まねで娘のピアノの練習をしていた私。しかしピアノの練習を楽しくする工夫もわからず、10分も練習すれば娘は「もうピアノやらない」と遊び始める状態でした。
まだ下の子が小さいこともあって、お世話に時間をとられることも多く、すぐにピアノの練習は「時間があるときだけ」の状態になってしまいました。
声を荒らげる義母に圧倒される私
練習指示書をもらってから約1カ月後、レッスンを終えて娘を迎えに行くと「お家で練習してないでしょ」と義母に言われドキッとしました。私が「まだ下の子も小さいのでそこまで手が回らなくて」と言うと、「そんなんで、これからこの教室を背負っていけるの!?」との言葉が。「えっ、背負う……!?」と驚いていると、義母はこう続けました。
「この子はこの教室の先生の孫として見られるの。だからこの教室の看板になるの。つまり孫ちゃんはだれよりも特別にじょうずじゃなくちゃダメなのよ!」と声を荒らげたのです。私と娘は義母の勢いに圧倒されうまく言い返せず、「ちゃんと練習するんだよ!」の声を背に家に帰りました。
だったら「やめる!」夫の決意
その日、夫に義母から言われたことをすべて伝えると、「うちの親がごめん」とあきれ顔。夫婦で話し合い、「このままの指導ならばやめることも辞さない」と義母にこちらの意思をきちんと伝えることになりました。
後日、義実家にお邪魔し、「孫だからと特別扱いされるのは、娘にとってよくありません。他の子と同じように扱っていただけなければこちらのピアノ教室はやめて、他のピアノ教室に通わせます」とはっきり伝えました。ピアノ教室の孫が他のピアノ教室に通うなんてもってのほか、と義母は焦った様子で、特別扱いはしないことを約束してくれました。
その後も義母は、私に「ピアノはこう練習するとじょうずになるの」「こんな練習でリズム感がつくんだって」と事あるごとに伝えてはきますが、強制することはなくなりました。私は娘の気持ちと自分たちの生活を一番に考えながら、今日も楽しくピアノの練習をしています。
イラストレーター/miyuka
著者:山口花
田舎で1女1男を育てる母。コーチングの資格を子育てに生かしながら日々奮闘中。主に妊娠・出産・教育の記事を執筆している。