義母は私の予定などお構いなしに用を言いつけます。義母の雑用のために、前々から計画していた用事すらキャンセルされる始末。家事に育児、介護に走り回り、1日はあっという間に過ぎていきます。
義父との約束を守っていたけれど…
こんな環境下でもなんとか頑張れるのは、亡き義父の言葉があるからです。義父はこの家で唯一、私をとても大切に扱ってくれた存在でした。
そんな義父は「わがままな妻と頼りない息子だが、何かあったときはできるだけ助けてやってほしい……」と私に託して亡くなりました。義父の最期のお願いを引き受けた以上「できる限りはやらなきゃ」と、自分に言い聞かせているのです。
それでも私は限界間近……。そんなあるとき、思わぬものを目にします。夫がお風呂に入っている間、放置されていたスマホに届いているメッセージを、偶然見てしまいました。
「一緒に暮らす日が楽しみ♪ 離婚する日を待ってるよ♡」
そういえば、以前娘が夫に似た男性を街で見かけたと言っていました。しかも、女性と手をつないで歩いていたと……。そのとき私は「見間違いじゃない?」と言ったのですが、どうやら事実だったようです。
私が家事や育児、介護に追われている間、夫は不倫相手と楽しい時間を過ごしていたのです。とてもショックでした。
私は離婚に向けて証拠を集めることにしました。義父には申し訳ない気持ちでいっぱいですが、やれることはやったつもりです。
もう1つの約束
まもなく、義父の三回忌を迎える時期。
実は義父が亡くなったとき、もうひとつだけ私に託されたお願いがありました。法要の準備も夫は私に丸投げ。私はその節目を機に、義父のお願いを果たし、夫との生活にも区切りをつけようと心に決めたのです。
そんな矢先、義母の容態が急変し、あっという間に亡くなってしまいました。危篤を知らせるため急いで連絡したものの、夫は「今は忙しいから、そっちでなんとかして」と突き放すような返事のみ。結局、義母の最期に間に合いませんでした。
ところがその後、外面の良い夫は一変します。親戚や会社関係者が集まる葬儀となると、今度は積極的に動き出し、段取りはあっという間に決められていました。私に知らされたのは、すべてが決まったあとのことです。
さらに、その葬儀の日程は、私がすでに準備を進めていた義父の三回忌と同じ日になっていました。日取りは事前に伝えていたはずなのに……。家族だけで静かに行う予定だった義父の三回忌と、大勢を呼ぶ義母の葬儀。その扱いの差に、言葉を失いました。
どうするべきか、正直迷いました。けれど義母と義父、どちらの思いを大切にしたいのか。私の中で答えは、もう決まっていました。
義母の葬儀を欠席したワケ
義父の三回忌を予定していた日、私の携帯電話が鳴りました。「母さんの葬儀なのに、どこにいるんだよ!」と、電話の向こうで夫が怒鳴っています。
私はできるだけ感情を抑えて答えました。「ハワイだけど……」その瞬間、夫は一瞬静かになり、驚きと動揺が入り混じった息遣いが伝わってきました。
私は、義父の遺言だった散骨のためにハワイに来ていることを伝えました。前もってその予定を知らせていたことも、やり取りの履歴を提示すると、夫は返す言葉がない様子……。
これは義父たっての願いでした。「都合のいいタイミングでいいからな」と、生前に何度も言っていた言葉が、ずっと胸に残っていたのです。国内の手続きや現地業者への依頼など、必要な準備はすでに義父が整えてくれていて、私がしたのはその最後を見届けることだけでした。
嫁と孫の姿がない葬儀に、夫は相当焦ったのでしょう。体裁ばかり気にする人なので、面目が丸つぶれだったのだと思います。
私はその流れで、彼の不倫に気づいていること、すでに弁護士に相談していることも伝えました。そしてこの出来事を区切りに、これからは自分自身の人生を歩いていくと、はっきり心に決めたのです。
新しい旅の出発
ハワイでの散骨式を終え、静かな海を見ながら私は涙が止まりませんでした。義父をようやく送り出せた安堵とともに、これまで抑えてきた感情が、波の音に溶けるようにこぼれていきました。
帰国後、私は夫との離婚に向けて動き出しました。探偵の調査報告や、やり取りの記録など、不貞を裏づける証拠もそろっていたことから、協議は比較的スムーズに進みました。結果的に、こちらに有利な条件で離婚が成立し、ようやく肩の力が抜けたのを覚えています。これで、娘とふたり、新しい生活を始められます。
一方で、夫の不倫は相手の家庭にも知られることになったようです。しかも、不倫相手の配偶者が、夫の勤務先と関係のある人物だったこともあり、社内でも噂になってしまったと聞きました。あれだけ体裁を気にしていた夫が、職場で居場所を失いかけていると知り、どこか冷めた気持ちで受け止めている自分がいました。
私と娘は今、親子留学を目標に英語の勉強をしています。ハワイに行ったことをきっかけに、それぞれに「やってみたいこと」が見つかったのです。この新しい目標は、義父が残してくれた静かな贈り物のように感じています。
これからは、義父の思いを胸に、娘と一緒に「自分たちの人生」を大切に歩いていこうと思います。
◇ ◇ ◇
「家族だから」「妻だから」という理由で、自分の気持ちを後回しにしてしまう人は少なくありません。けれど、本当に守るべきものは、誰かの機嫌ではなく、自分自身の人生です。
勇気を出して踏み出した一歩は、これからの日常に、静かな変化をもたらしてくれるはずです。
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。