「ごめん! 今日も残業で遅くなりそうだ」
結婚5周年の記念日。予約したお店に向かおうとしていた私に届いたのは、夫からの短いメッセージでした。
「え〜! それなら、早めに言ってよ……」と思わず声に出してしまった私。最近、夫は「仕事が忙しい」「出世がかかってる」と、残業や休日出張が続いていました。
私は、子どもが欲しいことも含め、このままのすれ違いが不安だと訴えましたが、夫は「落ち着いたら考える」「今は余裕がない」と、いつもの言葉ではぐらかすだけ。
結局、私は「お仕事、頑張ってね」と返すしかなく、1人で記念日のディナーを食べることに。まさかその翌日、衝撃の事実を知らされるとは思ってもみませんでした……。
義母の電話から発覚した夫の嘘
翌日、義母から「記念日おめでとう! 昨日は楽しかった?」と電話がありました。
「それが、仕事が忙しいらしくて……1人で食べたんです」
私が苦笑しながらそう伝えると、義母は一瞬黙り込みました。
「……え? ドタキャンってこと? でも……数日前に息子から電話があった時、『記念日のために有給使うつもりだ』って言ってたけど……」「それに今の職場、働き方改革で残業はほとんどなくなったんでしょう? 『最近は定時で帰れてるし、休みも取りやすい。やっぱりエリートは得だよな』なんて、この間やけに自慢してたわよ」
頭を殴られたような衝撃でした。私には「毎日残業だ」と言っていたのに。
「もしかして浮気? ……なんて考えちゃうわよね」 という義母の言葉に、嫌な予感が的中したような気がしました。
夫の嘘に気づいてしまった私。すぐにでも問い詰めたい気持ちを抑え、確実な証拠をつかむために泳がせることにしました。しかし、その矢先のことです。私の体に異変が起きたのは。
私の心中を察したのか、「もし何かあったら、私は絶対あなたの味方だからね。あの子の母親ではあるけれど、私はお嫁さんのあなたのことも大事に思ってるの」と義母。そのあたたかい言葉に、涙が出そうになりました。
義母にお礼を伝え、電話を切った後。 私の胸の中には、夫への不信感が黒い渦のように広がっていました。「帰ってきたら、嘘をついている理由を問い詰めよう」。そう固く決意しました。
しかし――運命とは皮肉なものです。
その翌日のこと。 ここ数日続く体調不良が気になり病院へ行くと、まさかの事実が判明しました。私のおなかに、新しい命が宿っていたのです。
「どうしよう……こんな時に」
夫が嘘をついているこのタイミングでの妊娠。 不安はありましたが、それでもエコー写真を見れば愛おしさが込み上げてきます。「もしかしたら、子どもができたとわかれば、夫も変わってくれるかもしれない」。そんな一縷の望みを抱き、私はその夜、夫の帰りを待つことにしました。
夫が帰ってくるなり、「聞いて! 私ね、妊娠したのよ!」と笑顔で報告した私。
しかし、「えっ? あ、あの、本当に……妊娠したのか?」と夫は一瞬、喜びとは違う、戸惑うような表情を浮かべました。
「ちょっと、なによその反応は! あなただって『子ども欲しい』って言ってたでしょ?」とふくれてみると、「い、いや、もちろんうれしいよ? うれしい……んだけどさ……ちょっと、びっくりしたっていうか……」とどこか歯切れの悪い夫。
その反応に少し不安を覚えたものの、私は「突然のことだもんね」と自分を納得させ、両親への報告を先に済ませることにしたのでした。
妊娠報告の直後に突きつけられた「離婚」の2文字
それから数日後のことでした。
「……ごめん。ここ数日ずっと考えてたんだけど、俺、別居したい。正直に言うと……離婚を考えてるんだ」
何を言われたのか、理解が追いつきませんでした。
「……何を言ってるの? さっき『子どもができてうれしい』って言ってたよね?」と聞くと、「それは、そうなんだけど……俺、改めて自分の人生を考えたら……家庭に縛られてたら、男として伸びるチャンスを逃す! 今は会社で実績を残すことが一番大事なんだよ!」と夫は言ったのです。
夫のなかでは、家庭は「縛り」で、私とおなかの子は「足かせ」のよう……会社のために、私も子どもも捨てるというのでしょうか。
「捨てるっていうか……頼む、わかってくれよ! ここで成果を出せば、俺の未来が開けるんだ! もちろん養育費は払うから! そこは安心してくれ」
「……養育費だけで責任が果たせるとでも?」と私。自分でも驚くほど冷たい声が出ました。
「俺だって苦渋の決断なんだよ!」と言って、夫はここ最近の残業や出張がいかに大変だったかを必死に語り、「どうか離婚してくれ」と繰り返しました。
「頼む! 俺の出世のために……仕事に集中するために離婚してくれ」
「養育費は毎月ちゃんと払うから!!」
「慰謝料もよろしくね」と、私は冷静に言いました。
「え?」
「仕事のため」という真っ赤な嘘
「な、なんだよ慰謝料って! 養育費払うんだから十分だろ?」と言いながらも激しく動揺する夫を、私はまっすぐ見つめて言いました。
「……まーだ、そんなこと言うんだ。浮気してるくせに」
夫が目を大きく見開きました。
「とぼけても無駄よ。何が『仕事で忙しい』よ! 本当は浮気相手と会うための嘘だったんでしょ? お義母さんから聞いたよ、結婚記念日の日、有給取ってたらしいわね」
夫の顔がサッと青ざめます。
「まだごまかすつもり? 給料明細こっそり見たけど、記念日の日、しっかり有給使ってるじゃない。『最近は定時で帰れてるし、休みも取りやすい』ってお義母さんには自慢してたくせに。私に『残業だ』って言ってたのは、全部嘘だったんでしょ?」
「お、おい! やめてくれよ!」と、夫は声を張り上げました。
ずっと「残業だ」「出張だ」と「仕事」を言い訳に使ってきた夫。嘘の隠れ蓑にしやすいのは、当然その「仕事」関係者のはず。私は確信めいた推測で、カマをかけてみました。
「……そうやって引き止めるのが、何よりの証拠だよ。最近やたらと『部下から連絡が』って部屋で電話してばかりだし……浮気相手も、もしかしたら……職場の子なのかしら?」
「え、えっと……」と、案の定、夫はわかりやすく狼狽えました。どうやら当たりのようです。
「浮気相手がいるくせに、それを隠して離婚だなんて信じられない。養育費は当然、そして浮気の慰謝料も払ってもらうから!」「私はもう実家に帰ります。詳しい話は弁護士を交えて話し合いましょう。さようなら」
私はそう冷たく言い放ち、夫に背を向けました。
最強の味方の怒り
私はすぐに義母に電話し、すべてを話しました。妊娠したこと、夫から離婚を切り出されたこと、そしてその理由が「仕事」という嘘で、本当は浮気だったこと――。
「……ちょっと待って……妊娠ってどういうこと!? ……まずは妊娠おめでとう……! 私もすごくうれしいわ!!」と電話口で喜んでくれた義母。夫はまだ義母に、私の妊娠を伝えていなかったようでした。
しかし、次の瞬間、義母の声色が変わりました。
「でも……まさかあの馬鹿息子ったら……!! 自分の妻が命を宿したのに、浮気して離婚を口にするなんて……最低よ! 母親として情けなくて、涙が出そう……」「子どもは1人でも産むつもりなのね? わかったわ。私たちは全力で応援するわ!」
義母は「養育費は絶対に逃れさせない」「浮気相手も許さない」と、私以上に怒ってくれました。
「相手は……どんな人か、わかってるの?」という義母の問いには一瞬ためらったものの、私は先ほどの夫の様子から会社の人で間違いないと伝えました。
「まぁ! 社内不倫!? よし、そういうことなら、いったん私に任せてもらえるかしら? 大丈夫、悪いようにはしないわ。うちの嫁を傷つけたやつは許さないんだから!」と息巻く義母。最強の味方を得て、涙がこぼれそうになりました。
数日後――。
夫からの着信履歴が何件も入っていました。出てみると、「頼む!! 慰謝料、少しだけ減額してくれないか!? それと、できればやり直したい……俺にはもうお前しかいないんだ!」と必死に頼み込んでくる夫。
「妊娠中の妻を裏切って浮気したのに何言ってるの? 減額とかありえないから!」と突っぱねて切ろうとすると、夫はさらに焦りながら引き留めてきました。
「お、俺だって悪かったって思ってる! で、でも……母さんが、母さんが会社に来て、大騒ぎしたんだよ!」
夫によると、義母はアポなしで会社に突撃したそう。
お昼時の受付ロビーで、義母は感情を抑えきれず「息子の○○を出してちょうだい!」と思わず声を荒らげてしまいました。「妊娠中の嫁を捨てて、うちの息子が社内不倫してるみたいなので、確認に来ただけよ!」と詰め寄ろうとしたところで、すぐに総務の社員に制止され、会議室へと通されたそうです。そこで夫と上司、浮気相手を前に「妊娠中の嫁を捨てて社内不倫なんて、親として恥ずかしい」と怒りをぶつけました。
夫によると、義母の訴えをきっかけに社内調査が行われ、上司と部下という立場での不適切な交際が問題視されました。浮気相手の彼女は『このまま会社には居づらい』と、自ら退職を選んだそうです。
しかし、夫への地獄はそこからでした。義母の騒動をきっかけに、その後、社内で詳しい調査が行われました。その結果、夫が『残業』と偽って浮気相手と会っていた時間の分まで、会社に「残業代」を申請していたことが発覚したのです。これは会社としても見逃せない『給与の不正受給』でした。
数カ月後、会社から夫に対し、『企業秩序を乱したこと』と『給与の不正受給』を理由に、係長から平社員への降格という重い懲戒処分が言い渡されたそうです。当然、不正に受け取った残業代の返還も命じられました。針のむしろ状態で給料も激減し、会社での居場所は完全に失われたようです。
そして義母に「これからは実家で生活しなさい。給料も一度全部こちらの口座に振り込ませて、そこから生活費と養育費をきちんと分けて管理するから」と言われ、元夫も逆らえず従ったそうです。「養育費を一度でも滞らせたら、すぐに弁護士に頼んで給料の差押えを申し立てるから覚悟しなさい」とまで言われた、と元夫は嘆いていました。
家庭も、浮気相手も、仕事も失った夫。義母は完全に夫の逃げ道を封じてくれたようです。
「頼むよ……俺が馬鹿だったんだ! 本当に後悔してる! 愛してるのはお前だけだってやっと気づいたんだ!」とすがりついてくる夫。正直、気持ち悪さすら感じ始めていました。
「……甘ったれてんじゃないわよ! 妊娠した妻に『離婚』なんて言った時点で、人として終わってる。そんな人にかける情けはありません」
私はそう言い放ち、電話を切りました。
その後――。
慰謝料や養育費の減額要求は弁護士を通じて正式に拒否し、私たちは離婚。元夫は会社での立場も失いましたが、辞めることもできず、肩身の狭いまま会社にしがみついているそうです。
成人した息子の不始末に親の法的責任はありません。しかし、元義母は「こんな情けない男のせいで、あなたとおなかの子が苦労するのは許せない。これは私たちからの『孫への贈り物』と、息子への『教育的指導』よ」と言って、慰謝料や財産分与の支払いに必要な不足分を、その場で用立ててくれました。
その代わり、元夫は実家に連れ戻され、給料日は一度すべて元義母に報告し、預けることになりました。そこから親への借金返済と、私たちへの養育費を優先して支払わせるという、実家の厳しい監視付きの生活が始まったようです。
信じていた元夫からの裏切り、そして妊娠という喜びの絶頂で突きつけられた「離婚」という名の地獄。あの時の絶望は今も忘れられません。
しかし、私をどん底から救い上げてくれたのは、なんと「最強の味方」となった元義母でした。元義母の力強いサポートと、私が泣き寝入りせずに戦うと決めたことで、元夫と浮気相手にはしかるべき慰謝料を支払わせ、子どもの未来を守るための養育費についても、きちんと取り決めることができました。
これからはおなかの子と共に、強く、明るく歩んでいきます。
【取材時期:2025年8月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。