娘の宝物を奪ったクレクレママ
そのママ友は、他人の物をなんでも欲しがる、いわゆる「クレクレ」体質。 私がいま一番頭を悩ませているのは、1週間前に彼女に持ち去られたキーホルダーのことでした。
それは、半年前に家族で行ったテーマパークの「10周年記念限定マスコット」。娘がお小遣いを貯めて買った、今では手に入らないレアなアイテムです。
先週、下校途中の娘と遭遇した彼女は「◯◯ちゃん、いいの持ってるわね!」と食いつき、「ちょっと貸して! うちの子に見せるだけだから!」と、娘のリュックから強引に外して持ち去ってしまったのだとか。
それ以来、私が「娘の宝物だから早く返して」と伝えても、「今日は忘れちゃった」とはぐらかされ続け、娘はそのたびに「まだ戻ってこないの?」と寂しそうにしていました。
次にママ友に会ったときには確実に返してもらうように、はっきりと伝えなくては……
と強く心に決めた矢先、ママ友と会う機会が到来したのです。
取り返すチャンス到来!?
週末、私は地域の物産展へ出かけ、夕食のメインにと奮発して、あるブロック肉を購入しました。
その帰り道、近所のスーパーで例のママ友に遭遇。彼女はスーパーを出たところで、エコバックの中を覗き込み、「うわっ、すごい! 高級なお肉の希少部位!?」と目を輝かせました。そして自分のカゴの「豚こま肉」を指差し、信じられないことを言い出したのです。
「ねえ、その高そうなお肉と私の豚肉、交換してよ!」
私が断ると、彼女は急に声を張り上げました。
「えー! ケチくさいこと言わないでよ! お金あるんだからいいじゃない! お願い! 交換してったら!!」
周囲の客が「何事か」と白い目でこちらを見ています。そのとき、彼女のバッグに娘の限定マスコットがぶら下がっているのが見えました。
私は怒りを抑え、ある名案を思いつきました。
「……わかった。交換してもいいけど、条件がある」
私が静かに切り出すと、彼女は「えっ、何!?」と食いつきました。
「そのバッグについているキーホルダー、娘のだよね? 今すぐ返してくれるなら、このお肉と交換してあげる」
彼女は一瞬迷ったものの、目の前の高級そうな肉と、早く話をつけて帰りたい気持ちが勝ったようです。
「あぁ、返すわよ! ちょうど会ったときに返そうと思ってつけていただけだから!」とキーホルダーを渡してきました。 娘が大事にしていたキーホルダーは幸いにも無傷で返ってきたため、私は約束通りブロック肉をママ友に渡し、代わりにママ友が買った豚こま肉を受け取りました。
「やったー! 気が変わらないうちに帰るね!」
私は「あ、そのお肉は……」とママ友を止めようとしましたが、彼女は説明も聞かずに、肉を抱えて逃げるように去っていってしまったのでした。
激怒するママ友に告げた真実
翌日、ママ友からものすごい剣幕で電話がかかってきました。
「ちょっと! どうなってるのよあのお肉!」
「どうしたの?」と尋ねると、激しい怒りをぶつけながらこう説明した彼女。
「ステーキにしたら部屋中が臭くなって最悪よ! しかも硬いし! 腐ってたんじゃないの!?」
私は冷静に答えました。
「腐ってないよ。それ、ジビエ物産展で買ったイノシシ肉だもの」
「……は? イノシシ!?」
「そう。わが家は『ぼたん鍋』にする予定だったんだけど……。下処理なしで焼いたら、臭みも強いし、失敗すると硬くなるかもね」
彼女は“高級ビーフ”だと思い込んでいたようですが、持ち帰ったのは、イノシシ肉のブロック。適切な調理をしなかったためか、強烈な獣臭が家中に充満してしまったようです。
「説明も聞かずに走って帰るから……」と私が伝えると、電話の向こうで彼女が絶句しました。
「う、嘘……カーテンやソファにも臭いが移ってる!」
彼女は力なく電話を切り、それ以来、彼女から物をねだられることは一切なくなりました。
「タダより高いものはない」と言いますが、表面的な価値だけに目がくらみ、人の物を奪おうとすれば、結局は自分が損をするのです。彼女はその教訓を、身をもって学ぶことになったのでしょう。
手元に戻ってきたマスコットをうれしそうに鞄につける娘を見て、私は心から安堵しました。理不尽な相手には、感情的にならず知恵を使って対応する。それが、自分と家族を守る一番の方法なのだと痛感した出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。