疎遠になった家族との距離
私が家を出たのは18歳のとき。当時、父とは進路のことで衝突し、母も妹の味方ばかり。私は「自分の居場所はない」と感じ、就職と同時に地元を離れました。以来、実家には帰らず、年賀状すら出さないまま年月が過ぎていきました。
妹がどんな生活をしているのかも知りませんでしたが、SNSに投稿されたウェディングフォトには、まぎれもなく妹の姿がありました。
相手は大学時代に何度も飲みに行った友人・A男。偶然とはいえ、あまりの展開に頭が真っ白になりました。
「兄はもういないことにしている」と聞いて
数日後、共通の友人づてに、妹がA男と婚約した経緯を聞きました。
「妹さん、家族とは縁を切ったって言ってたよ」
「お兄さんはいないって……」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がズキンと痛みました。「いない」というのは、亡くなったという意味ではなく、「もう関係を断った」ということなのでしょう。けれど、血のつながりを消すような言葉を妹が口にしたと聞き、ショックを隠せませんでした。
それでも、妹の幸せを祝いたい気持ちは本物でした。私はA男に直接連絡を取り、「突然で驚かせてごめん。おめでとう、式の日に少し顔を出してもいいかな」と伝えました。A男は一瞬戸惑ったものの、「来てくれたらうれしい」と笑ってくれました。
結婚式での「存在」
式当日、私はそっと会場の隅に座り、控えめに見守っていました。母と父の姿も見えましたが、私に気付くと顔をこわばらせ、何も言わず目をそらしました。――それでいい、今日は祝福の日だから。そう思い、最後まで静かに見届けるつもりでした。
ところが、妹のスピーチの中で耳を疑う言葉がありました。
「私は、家族にたくさん支えられてここまで来ました。兄はいませんが、両親の愛に恵まれて幸せです」
まるで私がこの世にいないかのような口ぶりに、胸の奥がざわつきました。
思わず姿を現して
その後の新郎A男のスピーチで、彼が少し笑いながらこう言いました。
「実は今日、僕の大学時代の友人が、偶然この会場に来てくれています。しかも、びっくりするつながりがある人で――」
そう言って、私の名前を呼びました。
一瞬、会場が静まり返り、視線が集まりました。私は立ち上がり、「新婦の兄です。突然すみません」とだけ伝えて軽く会釈しました。会場には驚きと笑いが混ざり、妹は信じられないという表情を浮かべていました。
「兄さん……来てたの?」
「おめでとう。幸せになってくれよ」
短い言葉しか交わせませんでしたが、それだけで十分でした。その後、妹は涙をこぼしながら「本当は、来てほしかった」と小さくつぶやきました。
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家族のわだかまりは、時間がたつほど修復が難しくなるもの。妹が「兄はいない」と言ってしまったのも、きっと複雑な気持ちや気まずさからだったのでしょう。でも、勇気を出して一歩を踏み出せば、途切れていた絆も再びつながるのかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています
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