そうはいっても、高齢者である義父のお世話は簡単なことではありません。義姉にもサポートを求めたものの、いつものようにヘラヘラ笑って取り合ってくれません。
「嫁ぎ先の親の面倒を見るのは当然じゃない? 私はもう嫁に出た身だし、今は自分の家族が優先よ〜」と言って逃げるのです。
義父の介護
平日の夕方に義父宅へ行き、買い物・食事の準備・お風呂の介助・薬の管理……。週末の通院の付き添いも、ほとんど私と夫がお手伝いする日々が続きました。
次第に義父のお金の管理は自然と私の役目に。病院代や介護に関する支出は、義父の口座から出し、出金の記録やレシートをきちんとファイルに整理していました。
しかし私が義父のお金を預かっていると知った義姉は、ここぞとばかりに口を出し「こういうのって“使い込み”が疑われやすいんだって〜。通帳、預かってあげようか? 長女の私が持ってたほうが安心でしょ?」と、私から通帳やカードを受け取ろうとしました。
日々の通院や買い物は私たち夫婦でやっているので、義姉に託すのはどう考えても不便です。義父が制してくれたこともあり、義姉にお金の管理を任せずに済んだものの、不満そうな顔を見せました。
これまではたまに顔を出し、気まぐれで介護を手伝ってくれた義姉でしたが、この出来事以降、それすらなくなってしまいました。
義父の急逝
そんな生活が続いたある日、義父の体調が急変。急いで病院へ連れて行って処置をしてもらったものの、体調は回復せず、そのまま息を引き取りました。
あいにくその日、夫は出張中。飛行機の都合ですぐには帰ってこられそうもありません。
義姉に連絡すると「急すぎない? この前まで元気だったじゃない。うち、子どももいるし今日はあれこれ予定があって……。とりあえず、葬儀とかそっちで話進めておいてくれる? 介護も全部やってたんだし!」と、葬儀まで丸投げ。
「お義父さんの葬儀なんですよ? 一緒に決めましょう」と食い下がっても、「どんな葬式でもお父さんはもうわからないから適当でいい!」と言って関わろうとせず、電話は一方的に切られてしまいました。
突然のことで戸惑いながらも、義父をきちんと送り出したい一心で、私が葬儀社への連絡から参列者の調整まで進めることにしたのです。
葬儀は「家族」だけで…
そして迎えた義父の葬儀。バタつきながらも、私は義父をしっかり送り出したいと気を張っていました。すると、義姉から「ちょっと外に出てきて」と呼び出されたのです。
なにか不備があっただろうかと思いきや、待っていた義姉は開口一番こう言いました。「ここからは家族だけでやりたいの。悪いけど、荷物まとめて帰ってくれる?」
あまりの言葉に、耳を疑いました。私だって、お義父さんの家族だと思っていたのです。私がそう言うと、義姉は鼻で笑いました。
「あんたは“弟のお嫁さん”であって、うちの家族じゃないの。お父さんを“実の家族”だけで送ってあげたいっていう気持ち、わからない?」
その言葉に続いたのは、さらに耳を疑うひと言でした。
「もしかしてさ、今日遺産の話があるかもって思ってる? 悪いけど、どれだけお世話してくれても相続人は私たちきょうだいなの。期待しないでね?」
あまりの言葉に、手が震えました。私がひとりで頑張って準備をしたのはお金のためではなく、ただ義父をきちんと見送りたい――その一心だったのです。
夫を交えて話し合ったものの義姉は譲らず、その間に葬儀の時間は迫るばかり。このままでは義父が穏やかに旅立てないと思った私が折れて、話は終わりました。葬儀には立ち会わず、親族控室でただただ待っていることにしたのです。
香典は誰のもの?
葬儀が滞りなく終わり、お客様が帰った後、夫と義姉が揉めていました。急いで駆けつけると、いただいた香典をめぐって言い合いをしています。
どうやら義姉は香典は自分のものだと言い張るよう。持って帰ろうとしたところを夫が止めたのだと言います。
しかし今回の葬儀費用の一部に香典を充てることになっています。そのように説明しても、義姉は「香典を葬儀代に充てるなんて失礼だ!」と独自の持論を主張します。香典を使わず、私たちが負担すべきだと主張されて驚きました。
香典はこれから義父のお墓や仏壇を維持するための費用にすると義姉は言います。それだって私たちに押し付けてくる未来が見えていますが……。
結局、葬儀場のスタッフさんが「香典には遺族の葬儀費用の負担を軽くするという目的もある」と説明し、渋々義姉は香典を戻してくれました。
義父の遺言
葬儀から少し経って、義父が生前に用意していた遺言の存在が明らかになりました。そこに残されていたのは、義父の静かな、しかしはっきりとした意思でした。
自分が半分はもらえると思っていた義姉の手に渡った遺産は、ほんのわずかな取り分だけ。義父の遺言には、残りはすべて長男である夫に託し、私と家族のために使ってほしいとありました。
「介護を担ってくれた長男夫婦には、あらためて感謝の気持ちを伝えたい。長男の嫁には家族になってくれて感謝している」という文面を目にした瞬間、義父が私たち家族に思いを託してくれたのだと感じ、涙が止まりませんでした。
しかし、「嫁に相続権なんて1円もない」と笑っていた義姉にとっては、受け入れがたい内容だったのでしょう。遺言の中身を知った義姉は顔を真っ赤にして叫びました。
「ちょっと待ってよ…どうして? あなたが何か言ったんじゃないの? こんなの認められない!」
そこで口を開いたのは夫でした。「姉さん……父さんは全部わかってたんだよ。金の話ばかりして、顔も出さない姉さん夫婦のことも、毎日通ってくれたうちの妻のことも。だから、こういう形にしたんだ。これは、誰かが唆した結果じゃない。父さん自身が出した答えだよ」
義姉はしばらく黙っていましたが、最後には席を立ち、何も言わずに部屋を出ていきました。
義姉夫婦の末路
夫から聞いた話ですが、義姉夫婦は遺産で子どもたちを私立の学校に通わせる計画を立てていたそうです。ところがそれが白紙になり、義姉は大慌て! 教育ローンを組むか、私立の進学を諦めるか……ギスギスしながら話し合いをしたようです。
結局、私立進学は諦めることになったそう。もらえると思っていたお金が手に入らず、義姉夫婦は遺産のことで連日言い争っていたようです。
しかし、子どもたちから「そんなに喧嘩するなら受験はやめたい」と言われたことで状況が一変。義姉夫婦はようやく自分たちの言い争いが家族を追い詰めていたことに気付いたようです。
義姉に「家族ではない」と言われて傷ついた日もありましたが、義父が残してくれた言葉に救われた私。血のつながりがなくても、家族になれるのだと教えてもらいました。いつか私の子どもたちが結婚したら、その相手も家族として大切に接すると心に決めたのでした。
♢♢♢♢♢♢
遺産は、本来故人が抱いていた感謝や想いを形にして残すもの。その気持ちを無視し、欲だけを優先してしまえば、家族関係まで簡単に壊れてしまいかねません。
故人が残してくれた想いを大切にし、日々を誠実に積み重ねていくことが、結局はどんな金額よりも価値のある「受け継ぐべきもの」なのだと感じさせられますね。
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。