そのママ友は、ご主人と共に一流企業に勤めているという、いわゆるパワーカップル。
「ひとりで子育てなんて大変ねぇ。私には考えられないわ。私はすぐにシッターさんを頼っちゃうから」と、事あるごとに上から目線で話しかけてくるのです。
「パートのおばさん」と見下すママ友
送迎時に顔を合わせれば、決まって彼女の自慢話が始まりました。ある時、私が「娘がもう少し大きくなったら、常勤に戻ってバリバリ働こうと思っている」と何気なく話したことがありました。
すると彼女は鼻で笑い、「パートのおばさんがまともに就職なんてできるの? パートのほうが気楽なんじゃない? あなたにはお似合いよ」と、偏見に満ちた言葉を投げつけてきたのです。
私は彼女に医師であることをわざわざ伝えていませんでしたし、言い返すのも大人げないと思い、それ以降はなるべく送迎の時間をずらして接触を避けるようにしていました。
久しぶりの家族旅行、機内での最悪な偶然
ある週末のことです。私の実家の両親と久しぶりに休みが合い、みんなで北海道へ家族旅行に行くことになりました。私の両親も現役の医師として忙しくしていたため、3世代での旅行は本当に貴重な機会でした。
娘は久しぶりの飛行機に大はしゃぎ。私たちもウキウキとした気分で機内に乗り込み、娘と並んで窓側の席に座りました。離陸をワクワクしながら待っていると、通路側の席に一人の女性がやってきました。
「……あら?」
荷物を棚に上げ、座席に座ろうとしたその女性と目が合った瞬間、私の血の気が引きました。なんと、あの苦手なママ友だったのです。
「こんなところで会うなんて偶然ね!」
彼女は私と娘に気づくと、周囲には気付かれないような小声で、ネチネチと嫌みを言い始めます。
「貧乏人が家族旅行? シンママでパートの身分なのに、飛行機なんて随分と無理してるんじゃない? それとも親のスネをかじって連れてきてもらったの?」
人を見下すような発言に苛立ちましたが、せっかくの旅行を台無しにしたくない一心で、私は「ええ、まあ……」と適当に相槌を打ち、彼女の言葉を聞き流すことにしました。
機内に響くアナウンス「お医者様は…」
離陸からしばらく経ったころです。機内がにわかにざわつき始めました。どうやら後方の座席で、乗客の体調が急変したようです。客室乗務員が慌ただしく行き交い、やがて機内アナウンスが流れました。
「お客様の中にお医者様、または医療従事者の方はいらっしゃいませんか?」
いわゆるドクターコールです。私と両親は顔を見合わせ、すぐに近くの客室乗務員に声をかけました。
「はい、私たちでよければ。3人とも医師です」
私がそう告げると、すぐ横で聞いていたママ友が「えっ……?」と声を上げ、信じられないものを見るような目でこちらを凝視しています。
私たちはすぐに患者さんの元へ駆けつけ、両親と協力して処置にあたりました。緊迫した時間が流れましたが、幸いにも大事には至らず、無事に容体を落ち着かせることができました。
手のひら返しをするママ友の末路
その後、席に戻ると、ママ友の態度は一変。
「あなた、お医者様だったの!? すごーい、さすがだわ! 見直したわよ! お金持ちならそう言ってくれればよかったのに~。これからはもっと仲良くしましょ?」
さっきまでの蔑んだ態度はどこへやら、猫なで声ですり寄ってくる彼女。そのあまりの変わり身の早さと、職業や収入でしか人を判断できない浅ましさに、私は心底あきれてしまいました。
「いいえ、結構です。私たちは住む世界が違うようですから」
きっぱりとお断りし、その後は彼女を無視して家族との時間を楽しみました。
旅行から戻り、しばらく経ったころのことです。そのママ友を保育園で見かけなくなりました。 風の噂で聞いたのですが、どうやら彼女、旦那さんと離婚して遠くへ引っ越したそうです。あんなに羽振りの良さを自慢していましたが、実際は無理をして見栄を張っていただけで、家計は火の車だったのだとか。
しかも、私と鉢合わせたあの飛行機も、実は現地で不倫相手と落ち合うためのものだったそうで……。それが決定打となって、慰謝料を請求される立場になってしまったようです。
人を外見や肩書きだけで判断し、見下していた彼女。私は娘に、人の本当の価値は職業や持ち物ではなく、その人の「行動」や「心」にあるのだと、しっかり教えていこうと改めて心に誓いました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。