定年退職したばかりの義父は、ほとんど1日中家にいる生活をしていました。家事は一切せず、リビングでテレビを見ながらゴロゴロ。そして、私が来ると決まって「メシはまだか?」と言ってきます。ごはんにはまだ早い時間でも、平気で催促してくるのです。
さらに、料理にも必ず文句がつきました。洋食を作れば「こんな脂っこいものは胃もたれする」、和食にすると「俺を年寄り扱いするな!」……何を出しても文句を言われるので、私は次第に料理を作るのが怖くなっていきました。
男尊女卑の義父
義父は昔ながらの考え方が強く、「家のことは女がやるものだ」というタイプでした。私が座って休んでいるのを見かけると、「嫁なんだから働け」「主婦は暇だろ」という言葉を平然と口にします。
夫も義父の態度にはうんざりしていましたが、反論すると長時間怒鳴られることになるため、なかなか強く言えないようでした。結果として、私たちはいつも我慢するしかなかったのです。
さらに困ったことに、義父は外出の際に必ず私を呼びつけました。
「車出してくれ」
買い物や用事があるときの運転手はいつも私。こちらに予定があってもお構いなしでした。
そのころの私は、「この生活がずっと続くのだろうか」と本気で悩んでいました。
義弟夫婦から同居の申し出が…
そんなある日、夫の弟が結婚することになりました。そして新婚にもかかわらず、「今まで兄さんたちに親父の世話を任せきりだったから」と、義実家での義父との同居を申し出てくれたのです。
私は正直、複雑な気持ちでした。義父の性格を知っているからこそ、お嫁さんになる女性が心配だったのです。
そして数カ月後、ついに義弟夫婦が義父と同居を始めました。義妹は小柄で、やさしそうな雰囲気。普段は介護職員として働いているそうです。
「大変なお仕事ですね」と言うと、「いえいえそんな」とはにかみながら答えてくれた義妹。そんな義妹に対して、義父はさっそくこんなことを言い出しました。
「そんな仕事なんか辞めて、これからは俺の世話をすればいい」
相変わらずの横暴さですが、せっかくお嫁さんに来てくれた女性にそんなことを言うなんて……。思わずむっとしてしまった私の横で、義妹はにこやかにこう答えました。
「わかりました。お義父さんの言うこと、ちゃんと聞きますね」
私はその様子を見て、「無理して合わせているのでは」と心配になりました。義父のいないところで「あのお義父さん、なかなかクセの強い人だから……無理しないでくださいね」と伝えたのですが、義妹は笑顔のまま、「大丈夫です」と答えたのでした。
義妹からの静かな反撃
私の心配をよそに、実際に同居が始まってしばらく経つと、状況は少しずつ変わっていきました。
義父が何かを頼んでも、義妹はすぐには動かないのです。
「お義父さんに連れて行けって言われたお店、今日は臨時休業みたいですよ」
「お義父さんに買ってこいって言われたもの、売り切れてました」
そんなふうにやんわり断ったり、話をかわしたりしていたのです。もちろん、言う通りに動かない義妹に、義父のいらだちはどんどん強くなっていきました。その矛先が私たち夫婦に向かうこともありました。
そしてある日、私たち家族もいる前で、ついに義父は義妹を怒鳴りつけたのです。
「嫁なら俺に従え! ここでは俺が一番偉いんだ!」
家の中が一瞬で静まり返りました。その空気を打ち破ったのは、義妹の落ち着いた声でした。
「お義父さん、一度病院で検査を受けてみませんか?」
突然の提案に、虚を突かれた義父。
「お、俺が病気だって言いたいのか!?」
義父はさらに顔を真っ赤にして怒鳴りましたが、義妹は穏やかに続けました。
「怒りっぽくなったり、感情のコントロールが難しくなったりするのは、誰にでも起こりうることです。でも、認知症や脳の病気が関係していることもありますから」
「もし何もなければ安心できますし、一度相談してみるのもいいと思うんです」
介護の仕事をしている彼女の言葉には、説得力がありました。それに、彼女は義父を本当に心配しているようでした。
「私、仕事柄そういう相談を受けることも多いので。良い病院を一緒に探しませんか?」
その言葉を聞いた義父は何も答えず、しばらく黙り込んでいました。
それ以来、義父の態度は少しずつ変わっていきました。以前のように怒鳴ることは減り、義妹や、時々顔を出す私に命令することもほとんどなくなったのです。
どうやら義父は、「また怒ったら、本当に病院に連れて行かれるかもしれない」と気にしているようでした。そのおかげで、義妹も私も義父から解放されたのです。
息子の妻だからといって、義理の親に対して何もかも我慢する必要はないのだと思います。家族になったからこそ、お互いを尊重しながら暮らすことが大切です。
義妹のおかげで、私はようやく穏やかな生活を取り戻すことができました。今では一緒に買い物に行くほど、仲の良い義理の姉妹になっています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。