義母が露骨にイヤな顔をした“名前”
出産翌日、義母がいそいそと病室にやってきました。勢いよく病室の扉を開けた義母は「生まれたのね〜? 来たわよ〜。ほら、見せてちょうだい」と浮かれた様子。娘を抱っこし笑顔を見せてくれました。穏やかな時間が流れる中、私は夫と何度も話し合って決めた名前を義母に伝えました。
その瞬間、義母の顔色がスッと変わり「……その名前にしたの?」と、さっきまでの浮かれた声とは違う、低いトーンで呟きました。 私は戸惑いながらも「おなかの中にいるときからこの名前で呼びかけていて……。娘が一番しっくりくると思って」と理由を告げました。すると義母は作り笑いを浮かべながら「ふ〜ん……まあ、“あなたたちがそうしたいなら”いいけど」とどこか棘のあるような返答をしたのです。
空気が気まずくなったまま、義母は早々に病室を後にしました。 あとから病室に来た母にさきほどのやり取りを話すと「義母さん、自分の考えが強いタイプなんだろうね。 でも、名前は“親が決めるもの”だよ。あなたが悪いことをしたわけじゃないから」 そう言って背中をさすってくれました。しかし、胸のざわつきは消えませんでした。 それでも私は、「ちょっと機嫌を損ねただけ」と自分に言い聞かせ、そのモヤモヤをいったん心の奥へ押し込めたのです。
勝手に変えられた「娘の名前」
退院当日。 この日は夫と義母が、出生届を役所に提出しに行くことになっていました。 私が「私も一緒に行こうか?」と声をかけると、 夫はあきらかに面倒くさそうな顔をして「え? 別に来なくてよくない? 母さんも気を使うし。おまえは実家で休んでろよ」と言い放ったのです。 こうして私は娘と一緒に実家で待つことになり、夫と義母だけが役所へ向かっていきました。
しばらくして、1人で戻ってきた夫が「出生届出してきたよ」とひと言。何気なく受け取った出生届の控えを見た瞬間、血の気が引きました。 そこに書かれていたのは【A美】と、義母の名前によく似た漢字と読みがありました。私は「ちょっと待って……この名前、なに?」と聞くと、夫はしれっと「母さんが“これ一択だから”って。だから書き直しただけ」と言うのです! 私「は!? 2人で“B美にしようね”って決めたよね? どうして私にひと言もなく変えられるの?」と激怒! すると夫は鼻で笑いながら「母さんのほうが“経験者”だろ。 嫁が勝手に突っ走ってもロクなことにならないって。 名前なんかさ、普通は夫側に合わせるもんなんだよ」とドヤ顔で言うのです。
私は震える手で義母に電話をかけ「どうして娘の名前を勝手に変えたんですか?」と問いました。義母は「はぁ? だって初孫よ? 私にちなんだ名前のほうが“縁起がいい”じゃない。 B美なんてさ、まあ悪くはないけど全然“華”がないのよね」と悪びれた様子もなく言い放ったのです。私は「この子は、 義母さんの“持ち物”じゃありません! 私たちが決めた名前を、勝手に変えないでください」と反論! 義母は「なにその口のきき方。 嫁はね、“立場”をわきまえてればいいの。 名前は昔から“夫側”が決めるものよ。あなたみたいな嫁がしゃしゃるから揉めるの」と言い電話を切ったのでした。
その後、夫は「なんでいちいち波風立てるかなぁ。 もう役所に出したんだから、あとは従うしかないだろ。 生活だって俺の稼ぎに頼ってるくせに、文句言える立場か?」と呆れ顔。その言葉で、私の中の何かが音を立てて崩れました。
役所からの一本の電話で取り戻したもの
その日の夕方、見知らぬ番号から電話がかかってきました。相手は市役所の戸籍担当の方でした。 担当者は「不備がありまして……確認させていただきたくてお電話しました」と言うのです。
私は深呼吸して、「実は……本来の名前は“B美”なんです。夫の母の希望で別の漢字が書かれてしまっていて……正しい名前で届け出たいです」と真実を伝えました。担当者は事情を理解してくれ、出生届はいったん「受理前の保留」となり、期限内に親が窓口へ行くよう案内されました。電話のあと、夫は不機嫌そうに「もう出したんだから従えよ。いちいち話をややこしくすんなよ」とひと言。その言葉を聞いたとき、私は心の中でそっと線を引きました。
数日後、私は実母と一緒に役所へ行き、正式に「B美」で出生届を提出。 娘の名前は無事に取り戻せました。その後も夫と義母の姿勢は変わらず、名づけ騒動をきっかけに、私は時間をかけて相談を重ね、最終的に離婚を決意。今では娘と2人、「B美」という名前を誇れるような毎日を積み重ねながら、あのとき自分の気持ちを曲げなかったことは間違いじゃなかったと実感しています。
◇ ◇ ◇
子どもの名前は、ただの文字の並びではありません。祖父母の意見を取り入れるのも素敵なことですが、それはあくまで“親の気持ちが尊重されていること”が前提。「この名前でよかった」と胸を張って言えるように、周囲の期待よりも“この子を大切に思う気持ち”を軸に選ぶことが、これからの子育てを支えてくれるでしょう。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。