不安になった私は、妹にメッセージを送りました。私の妊娠がわかってから妹はとても親身になってくれ、出産準備も夫と妹で買い物に出掛けてくれたのです。
「うちの旦那から連絡ない? 何かあったのかな」と私。すると妹は、しばらく間を置いてから、「今、彼と一緒にいるよ」とだけ返してきました。さらに追い打ちをかけるように、「これから2人で、しばらく離れて暮らすことにした」と続けます。
出産を目前に控えた私でも、それが事実上の別れの宣告だと理解するのに、時間はかかりませんでした。
出産当日に届いた駆け落ち宣言
何も返せずにいると、今度は夫から「ごめん。正直に言うと、父親になる自信が持てない。このまま一緒にいるのは無理だと思う」という連絡が。
「『早く子どもが欲しい』って言ってたよね?」と問いかけても、返ってきたのは、「ああ言うしかなかった。親も孫を楽しみにしてたし、『子どもはいりません』なんて言えなかった」という言葉でした。
陣痛の痛みと、胸の奥をえぐられるような裏切り。その瞬間、私の中で何かがぷつりと切れました。「この子は、私が守る。母親として向き合うしかない」そう自分に言い聞かせるように、スマホを握りしめました。
産後の体調が少し落ち着いたころ、私たちは正式に離婚。夫は記入済みの離婚届を郵便で送ってきて以来、そのまま音信不通です。産後すぐで心身ともに余裕がなく、慰謝料や養育費についてきちんと話し合うところまで至らないままでした。
児童手当がほしい
息子が2歳をすぎたある日のこと、突然、元夫から目を疑うようなメッセージが届きました。
「子ども育ててると児童手当っていうのがもらえるんだって? 俺だって血縁上父親なんだから、何かしら対象になるんじゃないのか?」
児童手当は、「子どもを実際に育てている人」に支給されるものです。2年前に私と子どもを置いて出ていった元夫に『権利がある』と主張されても、正直、怒りとあきれしか湧いてきませんでした。
元夫に児童手当を受け取る権利はないと伝えても「俺にも権利がある。全部そっちが受け取るのはおかしい!」と何度もメッセージを送ってきたのです。
私ははっきりと「父親だと言うなら、まず責任を果たしてほしい。養育費も払わず、出産の日に姿を消した人を私はもう信頼できない」と伝え、電話を切りました。
息子を引き取る!?
しかし、それで終わらないのが元夫と妹。数日後、今度は妹から連絡が入りました。
「実はね、お姉ちゃんの子ども、私たちが引き取ってあげようかなって♡」「子どもは両親がそろっていたほうがいい」「シングルマザーじゃ大変でしょ?」と、話します。
けれどよくよく聞いていると、すぐに本音が見えました。「子どもがいたら児童手当とか、ほかの支援とかも受けられるんでしょ? お姉ちゃんは月にどのくらいもらってるの?」妹も元夫同様、子育てしている家庭の支援や補助をあてにしていることがわかります。
駆け落ちした2人の生活はうまくいっておらず、仕事も軌道に乗らないまま、経済的にかなり厳しいようでした。
「父親である彼が子どもを引き取りたいって言ってるんだよ? お姉ちゃんもひとりでいろいろ大変だろうから、私たちが育ててあげる」と言う妹に、私はあえて話に乗ったふりをすることにしました。
「わかった」と静かに答えると、あまりにあっさり決断した私に拍子抜けしたようです。「え? 本当にいいの?」と驚いていました。
「そこまで『責任を取りたい』って言うなら、一度きちんと話し合いましょう。子どもを引き渡す前にやるべきことがあるから」そう言って、私は2人を呼び出したのです。
夫の思わぬ言動
数日後、私たちは近所の大きな公園で待ち合わせをしました。もちろん息子を渡すつもりはありません。父親としての責任を果たしてもらうこと、つまり養育費の話し合いが目的です。
久しぶりに顔をあわせる元夫は、私の腕の中にいる息子を見た瞬間表情が変わりました。それもそのはず、息子は元夫によく似ているのです。
妹は先日の電話の続きのように、「じゃあ、いつから引き取る?」と話を進めようとしました。けれど、その言葉を元夫が遮りました。
「俺に育てさせてください」突然の発言に、妹が目を見開きます。「息子を見たら……やっぱり俺の子だって実感した」と元夫は続けます。
しかし、本当に今更すぎるのです。私は「父親としての自覚があるのなら……」と養育費の話を持ちかけることに……。元夫は一度言葉に詰まりましたが、最終的には「……わかった」と小さく答えてくれました。
その瞬間妹が声を荒らげました。「は? 私たちなんのためにここに来たわけ? 児童手当は?」妹の表情には、はっきりと不満が浮かんでいます。
私は、そこで話を終わらせるように言いました。「養育費は子どもの権利です。それすら渋る人に、子どもを育てる資格はありません。それに、養育費さえも払えない人に、子どもを育てるお金が出せるとは思えない」
元夫は何も言えず、妹は唇を噛みしめたまま黙り込みます。——これで十分でした。息子を誰に渡すこともなく、話し合いは終わったのです。
生まれた日に決意した気持ちは変わることはありません。これからも息子を大切に育てていくと改めて心に誓ったのでした。
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かわいいわが子と過ごす人生を失ったことは、一生背負う後悔となるでしょう。出産という大切な場面で失われた信頼は、あとから「気持ちが変わった」と言われても、簡単に取り戻せるものではありません。
それでも親である以上、できる形で責任を果たし、養育費など現実的な支えを続けていくことが、子どもの未来につながっていくのではないでしょうか。
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
それより遥かに子育てにはいろんなお金がかかるんだよ!!