婚約者の彼は、そんな私の生活に憧れを抱いているようで、「1日も早く一緒に住みたい」と結婚を急かしていました。彼とずっと一緒にいられるのは嬉しいことですが、時折、私の資産に対する執着が見え隠れすることに違和感を覚えていました。
「おばあちゃんの形見の宝石、売れば結構な金額になるんじゃない?」などと軽い口調で提案されるたび、彼への不信感が少しずつ募っていったのです。
一方で、彼は「将来のために結婚式は家族中心のささやかなものにしよう」と提案してくるなど、堅実な一面も見せていました。私の両親へのあいさつも丁寧で、好青年そのもの。
「私の考えすぎかもしれない」と自分を納得させようとしましたが、実家の大きさや保管されている祖母の遺品の話になったときの、彼の興奮した様子はどうしても引っかかっていました。
拭いきれない違和感と嘘
実家へのあいさつを済ませてからというもの、彼から祖母の遺品について頻繁に聞かれるようになりました。あまりにしつこいため、真意を尋ねると、彼は重い口を開き、「実は、疎遠になっていた姉を助けたいんだ」と告白したのです。
聞くと、彼の姉は父親と喧嘩して家を飛び出し、遠方で結婚して3人の子どもに恵まれたものの、最近離婚してシングルマザーになったとのこと。「食べるものにも困り、家賃も滞納している。弟である僕を頼ってきた」と涙ながらに語りました。
以前、彼は「結婚資金として貯金がある」と言っていましたが、そのお金は、私たち2人の将来を考えて始めた投資に全額回してしまい、手元に現金がないと言うのです。「成長期の子どもたちが不憫でならない。少しだけ援助してほしい」と彼に懇願され、私は悩みながらも、生活費の足しになればと現金を渡すことにしました。
私が援助に承諾すると、彼は大喜び。しかし、「心配をかけたくないから、君の両親には黙っていてほしい」と口止めされました。このとき、私の胸には再び小さな疑念が生まれたのです。
実家を襲った空き巣事件
それから1カ月ほどたったある朝、事件が起きました。私の実家に空き巣が入ったのです。両親が朝の日課である散歩に出かけ、家を空けていたわずか30分の間に、現金や保管していた貴金属などが盗み出されました。
駆けつけた彼に事情を話すと、「短時間で犯行に及ぶなんて、きっとプロの仕業だ」と言い、「こんな物騒なことがあったからこそ、すぐに籍を入れよう。結婚していれば、僕がもっと君やご両親を守れる」と、婚姻届の提出を急かしてきました。
彼の言葉に頷きつつも、私の中である疑念が確信に変わりつつありました。犯人は、金目のもののありかを正確に把握しており、両親の不在時間を狙っていたようだったからです。そう、怪しいのは彼で……。
何より、彼が話していた「結婚資金」も「投資」も、具体的な金額や運用状況を見せてもらったことは一度もありませんでした。彼は「大丈夫! 君を困らせない」「大きなリターンを得られる」などと自信満々でしたが、私は彼の言葉を鵜呑みにせず、事実確認と防犯のために動くことにしました。。
その日の午後、仕事に戻っていた彼から連絡が入りました。
「君の夫になれて幸せだな。これからは僕が君やご両親を守るよ」
「もう婚姻届、出してくれた?」
彼からの甘い言葉で誤魔化すような、入籍を急かすメッセージ。
「ううん、被害届なら出したよ!」
私は、ひと言だけ、事実のみを伝えました。
「は?」
すると、彼は慌てた様子で「どういう意味?」「被害届ってなに?」「役所に行ってくれたんだよね?」と立て続けにメッセージを送ってきました。
実は、私は彼に内緒で彼の実家に連絡を取り、彼の姉の状況を確認していたのです。すると、彼の姉は離婚などしておらず、家族仲良く暮らしていることが判明しました。シングルマザーで困窮しているという話は、彼のでっち上げだったのです。
さらに決定打となったのは、空き巣の現場に落ちていたボタン。それは私が以前、海外旅行のお土産として彼にプレゼントしたブランドのコートのものでした。そのコートには特徴的なボタンがついていたのです。
防犯カメラ映像や足取りなど複数の状況証拠が積み重なり、そのボタンも裏付けのひとつとなって、警察に任意で事情を聞かれた彼は、犯行を自供しました。
その後、彼には金銭トラブルで警察沙汰になっていた過去があったこともわかりました。彼が「プロの仕業」だと言ったのは、自分への疑いを逸らすための発言だったのでしょう。私は危うく、とんでもない人物と結婚するところでした。
愛する人を騙すということ
さらに、彼が怪しい投資話にのめり込んでいたことも明らかになりました。私から「姉への援助」として受け取ったお金も、すべて投資に消えていたそう。それでは飽き足らず、私の祖母の遺品に目をつけ、犯行に及んだとのことでした。
彼は「愛しているのは本当だ。結婚したい」と言い、被害届の取り下げを懇願してきました。しかし、愛する人の家族を騙し、盗みを働くような人を信用することはできません。私は被害届を取り下げることなく、彼との婚約を破棄しました。
法的に責任を問うのは簡単ではないと知り、悔しさも残りましたが、それでも早く気づけたことが救いだったと思っています。もちろん、彼のような人物を見抜けず、簡単に金銭を渡してしまった私自身にも反省すべき点はあります。
現在は、弁護士を通じて彼への慰謝料請求などの手続きを進めています。すべてが終わったら、住み慣れた土地を離れ、心機一転、新しい生活を始めるつもりです。人生を棒に振る前に気づけてよかったと、前向きに捉えようと思います。
◇ ◇ ◇
パートナーの金銭感覚や言動に違和感を覚えたときは、情に流されず、冷静に事実を確認することが大切ですね。もしものときにどうやって自分を守るか、何を優先すべきか、改めて考えておきたいですね。
【取材時期:2026年2月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。