夫が仕掛けた「わざと嫌われるための作戦」
そんな彼にある日、親が持ってきた縁談。それが私との出会いでした。
当時の夫には親に内緒の夢がありました。家業を継ぐことよりも、以前から興味のあった福祉の仕事に携わりたいと考えていたのです。かつて福祉関係の企業から内定をもらっていましたが、それを知った義父が圧力をかけて内定を取り消させたという苦い過去もありました。
「どうせ親が持ってきた話だ。断られるように仕向けて早く終わらせよう」
そう決意した彼は、お見合い相手である私に嫌われて破談にするため、初デートの場所に近所の公園を指定してきました。
一般的なお見合いであれば、ホテルのラウンジやレストランが定番でしょう。しかし彼は、わざと私をがっかりさせるために、コンビニで買ったパンとドリンクだけで済ませる格安デートを突きつけたのでした。
ところが、そんな彼の思惑などつゆ知らず、その時間を心から楽しんだ私。もちろんパンやコーヒー代は自分で支払い、公園のベンチで会話をしながらおいしくいただきました。
これまでの女性たちとは正反対の私の反応に、夫は「作戦がまったく効かない!?」と焦ったようです。別れ際に私が「今日は本当に楽しかったです!」と笑顔で伝えると、彼は「え、これでいいの?」といった様子で、何だか拍子抜けしたような顔をして私を見つめていました。
結局、この格安デートがきっかけで、彼は私に興味を持ち、私たちは結婚することになったのです。
聞こえてしまった…義父の信じがたい暴挙
実は結婚した時点では、夫はまだ私のことを「本当はお金目当てなのではないか?」と半信半疑だったようです。しかし、私が結婚後も自分の仕事を続け、家事も当たり前のように分担して平穏に暮らす姿を見て、ようやく心から信頼してくれるようになりました。
そうして夫婦の仲が深まっていったころ、私たちの穏やかな日々は、義父のひと言で一変します。
ある日、夫婦で義実家を訪れると、「大事な話があるから来い」と義父に呼ばれた夫。嫌な予感がしたのか、夫は私と義母に「隣の部屋で聞いていてくれ」と言い、こっそり録音の準備も整えていました。襖1枚を隔てた隣室で息を潜めていると、義父の信じがたい言葉が聞こえてきたのです。
「取引先の令嬢がお前を気に入った。今の妻とは別れて、その子と再婚しろ」
絶句する夫をよそに、義父はさらに畳みかけました。
「相手の家柄はうちの利益になる。今の妻とも関係を続けたいなら、愛人として囲えばいいだろう。俺だって外に女は何人もいる。それくらいやってこそ男だ」
挙句には、「慰謝料なんて、うちの稼ぎなら“はした金”だ!」と下品に笑ったのです。その最低な言葉をすべて聞き届けた瞬間、私たちは行動に出ました。
明かされた「計画通り」の結婚
「ずいぶんとお楽しみだったようですね、お義父さん」
私が義母と一緒に部屋へ入っていくと、義父は目を見開いて固まりました。義母は、義父の不倫はもちろん、自分勝手な都合で息子夫婦に離婚を迫ったことに対しても、静かな、しかし深い怒りをたたえていました。
そしてここで、夫と義父は、私がなぜお見合い相手に選ばれたのかという本当の理由を知ることになります。
「お義父さん。私は、お義父さんが思うような“言いなりになる嫁”ではありませんよ」
実は、私は以前から義母が参加していたボランティア団体の仲間でした。義母は活動を通じて私の人柄を信頼し、「きっと息子の良きパートナーになれる」と、私にお見合いを提案してくれたのです。
肩書きや損得、そして“支配しやすさ”でしか人間を評価しない義父に対し、義母はあえて私の活動内容を伏せ、「古風でおとなしい、お父さんのお眼鏡にかなう女性です」とだけ伝えていたそう。
義父が私を「無害で都合の良い嫁」だと勝手に思い込み、油断して結婚を認めるように仕向けた……。それは、息子の幸せを願う義母が、義父の性格を逆手に取って仕掛けた、唯一のやさしい嘘だったのです。
私もまた、ボランティア活動に理解のある男性となかなか出会えず、義母から聞く夫の人となりに惹かれていました。私はすべてを承知した上で、義母の想いに応えたいと思い、お見合いを受けることに。まさに、私と義母の「計画通り」の結婚だったのです。
その事実を初めて知った夫は、驚きながらも、すべてを悟ったように深く頷いていました。
夫の反撃と、義父の自業自得な末路
義父は自分の思い通りにならないどころか、大嫌いな「金にならないボランティア」がきっかけで息子が結婚していたことを知り、顔を真っ赤にして苛立ちを募らせました。
そこへ夫が、氷のように冷ややかな声で追い打ちをかけます。
「不倫を平気で自慢し、家族を裏切るような人が、会社や社員を守れるとは思えません。そんな不誠実な経営者には、もう一歩もついていけない」
最も信頼を得るべき息子から、人間性を真っ向から否定された義父は、プライドをズタズタにされ、怒り狂いました。
「親に向かって何てことを! 俺のやり方に文句があるなら、もう会社は継がせん! お前など即刻クビだ、今すぐ出ていけ!」
感情的に叫ぶ義父に対し、夫は冷静に答えました。
「不当解雇だと争うつもりはありません。こちらから辞めさせていただきます」
私も「これで、前からやりたかった福祉事業を一緒に始められるね!」と伝え、夫もうれしそうに頷きました。
その後、事態は急展開を迎えました。義母が突きつけた不倫の証拠をきっかけに、義父が会社の資金を不倫相手への貢ぎ物などに流用していたことが発覚したのです。コンプライアンスを重視する他の役員たちによって、義父は事実上の解任に追い込まれました。義母からも離婚と多額の慰謝料を突きつけられ、義父はすべてを失いました。
現在、私と夫は二人で福祉事業を立ち上げ、充実した毎日を送っています。以前より収入は減りましたが、やりたいことに情熱を注げる今の生活は、何物にも代えがたい幸福に満ちています。
そして、離婚して自由になった義母も、私たちの事業を応援してくれながら、大好きなボランティア活動に生き生きと取り組んでいます。義父の顔色をうかがう必要がなくなり、自分らしく笑う義母の姿を見ることが、私たちにとっても何よりの喜びです。
あのとき、勇気を出して義父と決別する道を選んで、本当によかったと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。