姉への報告と初顔合わせの日
当日、料亭の前で緊張している私に、姉は「大丈夫。普段通りでいればいいよ」と微笑んでくれました。そのときA子さんから「少し遅れるので、先に入っていてください」と連絡が入り、私たちは中に入ることにしました。
席に通されると、A子さんの両親がすでに着席していました。あいさつを交わした直後、ご両親は姉に向かってこう尋ねました。
「お姉さんは中学を卒業してすぐ働き始めたと聞きましたが、本当ですか? 今はフリーランスと伺いましたが、不安定なのでは?」
質問自体は悪意のあるものではなかったのかもしれません。しかし、背景を知らないまま「安定していないのでは」という見方をされたことに、私は胸がざわつきました。姉は私を育てるために懸命に働いてきただけなのに、その努力を知らずに評価されてしまうことが悔しくて、私は席を立ってしまいました。
外に出ると、姉は慌てて追いかけて来て、「気にしなくていいよ」とやさしく言ってくれました。そこへ遅れて到着したA子さんが「何かあったの?」と心配そうに声をかけてくれました。
数日後の再会と気付き
数日後、姉はフリーランスとして依頼を受けていた建設会社を訪れました。担当者は「ようやく依頼できる」とうれしそうに迎えましたが、姉から名刺を受け取った瞬間、驚いた表情を浮かべたそうです。
実はその建設会社は、偶然にもA子さんの父親が勤めている会社でした。
顔合わせのとき、姉はプライベートの装いで、自分の本名だけを簡単に名乗っただけでした。しかも、普段の仕事現場とは髪型やメイクを変えていることもあり、落ち着いた照明の料亭では印象が大きく変わって見えたようです。ご両親も姉がどんな職業なのか想像しておらず、結びつかなかったのでしょう。
しかし今回は、明るい会議室で、姉が仕事用の名刺を差し出し、正式に自己紹介をしたことで、
「あのときお会いした方だ」とようやく気付いたのだといいます。A子さんの父親は終始、どこか気まずそうで落ち着かない様子だったそうです。
それぞれの価値観のぶつかり合い
A子さんは、自分の両親が肩書や経歴にこだわるあまり、人の背景や事情を見ようとしないところに以前から悩みを抱えていたと明かしました。「私は、自分が信頼している人たちを大切にしたいだけなのに……」と話すA子さんの表情には、家族との価値観のズレに戸惑う気持ちがにじんでいました。
私は「今つらいのは、A子さん自身だと思うよ」と伝え、一度ご両親とは距離を置くことにしました。姉は最終的に建設会社からの依頼を受け、「仕事は仕事だから」と淡々と対応しましたが、私自身は顔合わせで言われた言葉を完全に忘れたわけではありません。
その後、A子さんは「自分の力で生きていきたい」と両親に伝え、実家を出ることを決意。A子さんは姉の紹介でインテリア会社に転職し、自分の専門性を磨く道を選びました。
一方、ご両親は急な変化に戸惑っている様子で、気持ちが落ち着くまでは時間が必要だと感じています。無理に関係を修復しようとせず、双方が冷静に話せる時期を待つことにしました。
姉は「環境が変わると見えるものも変わるよ」と静かに言い、以前よりも穏やかな表情を見せるようになりました。
まとめ
人を外側の情報だけで判断することがいかに危ういかを痛感する出来事でしたね。事情を知らずに決めつけてしまうと、本来なら築けるはずの信頼関係さえ遠ざけてしまうもの。価値観がぶつかる場面では、相手の背景に耳を傾け、互いに歩み寄る姿勢が欠かせないですよね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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