ある日、朝から激しい嘔吐と下痢に襲われました。這うようにして救急車を呼び、病院へ担ぎ込まれた私は、ひどい脱水状態で点滴を受けることになったのです。
「お願い、今病院にいるの。点滴が終わったら迎えに来て……」なんとか夫に連絡すると、返ってきたのは信じられない言葉でした。
「え〜無理。俺、今取引先とゴルフに来てるんだよ。途中で抜けるなんてできない」 「車で吐かれたら嫌だから……乗せたくないかも。自力で帰れないの?」
目の前が真っ暗になりました。私が病室でひとり、孤独と激痛に耐えているにもかかわらず、自分の予定を優先するだけでなく、私を汚いもの扱いしたのです。
この出来事をきっかけに、私は離婚を決意しました。実は以前から夫の不倫に関する目撃情報が届いており、今後について迷っていたのです。「この8年間、私は何のために耐えてきたのだろう……」。涙も出ないほどの絶望の中にありましたが、その日から少しずつ離婚の準備を始めました。
記念日に起こった緊急事態
数カ月後の結婚記念日のこと、夫は案の定「上司とゴルフだ」と言って、私との食事を拒否しました。これまでの行動パターンを省みると、きっとゴルフは嘘でしょう。夫はお気に入りのジャケットを着て出掛けて行きました。
しかししばらくして、私のスマホが鳴りました。画面には夫の名前が表示されています。
「今すぐ病院に来てくれ! 事故った!」
LINEには、病院のベッドで撮ったであろう病室の天井と点滴の写真、そして動揺が伝わる支離滅裂なメッセージが並んでいました。しかし私は病院に行くつもりはありません。
「私が行ってどうするの? 私が救急車で運ばれたとき、あなたは助けてくれた?」と返信したのです。
不倫相手はどこ?
夫は取り乱し、「俺のは骨折なんだぞ! 嘔吐とはレベルが違う!」と喚き散らしました。しかし、私は冷徹に事実を突きつけました。
「浮気がバレてないとでも思ってた? 今日彼女と会ってたことも知ってるから」
夫は一瞬絶句しましたが、すぐに「今日別れようとしてたんだ!やり直そう!」と見え透いた嘘をついたのです。
相手にするのも嫌で一度電話を切りましたが、このまま放置して病院から自宅に連絡が来続けるのも厄介です。夫との関係を終わらせるためにも、一度顔を出しておくべきだと思い直しました。それに急に「やり直そう」と言われたのも不思議でなりません。
私が渋々病院へ向かうと、そこには驚くほど惨めな夫の姿がありました。一緒にいたであろう不倫相手の姿はどこにもありません。
「来てくれたのか、やっぱりお前はやさしいな!」私の顔を見るなり、夫は縋り付くように声を上げました。しかし、私がここへ来たのは情があったからではありません。病院側に迷惑をかけず、自らの手で引導を渡すためです。
駆けつけた警察官の話では、夫の過失による自損事故とのことでした。スピードを出しすぎたままカーブを曲がりきれず、ガードレールに激突したのです。幸い、巻き込まれた歩行者や車はおらず、被害が夫ひとりで済んだことだけが不幸中の幸いでした。
「不倫相手はどうしたの? 一緒にいたんでしょ」私の問いかけに、夫は視線を泳がせました。問い詰めたところ、助手席にいた不倫相手は無傷でしたが、パトカーや救急車が来る気配を感じるやいなや「不倫がバレるのは困る」「巻き込まないで」と、動けない夫を放置して現場から立ち去ったそうです。
「やり直そう」と言ったワケ
夫が急に「やり直そう」と手のひらを返したのは、心を入れ替えたからではありません。不倫相手に即座に切り捨てられ、病院での世話や今後の生活に困り果て、私を「便利な介護要員」として確保したかっただけでしょう。
「あんな薄情な女、もういいんだ! 俺にはやっぱり尽くしてくれるお前が必要なんだよ。だから今回のことは水に流して、また一から……」
私は夫の言葉を遮り、用意していた書類を無造作にベッドの上に投げ出しました。「これ、離婚届。不倫相手への慰謝料請求も弁護士さんを通じて進めてもらうことにしたから」
夫の顔から一気に血の気が引いていきました。「嘘だろ……」と絶望に染まった声を漏らしましたが、私は一度も振り返ることなく病室を後にしたのでした。
◇ ◇ ◇
苦しい思いをしているときに、信頼しているパートナーから突き放されるショックは計り知れません。ましてや「汚い」とまで罵られた傷は、そう簡単に癒えるものではないでしょう。
本来、夫婦は互いに支え合ってこそ成り立つものです。相手を軽んじて都合よく利用しようとする姿勢は、いずれ自分自身に跳ね返ってくるはず……。
「悪事を働けば必ず自分に返ってくる」という因果応報を体現するかのような結末でしたが、相手に寄り添う心を忘れた人には、相応のバチが当たったのかもしれませんね。
【取材時期:2025年12月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。