娘のひと言で思い出した、亡き母の着物
最初は「和菓子が食べられるから」という不純(?)な動機でしたが、回を重ねるうちに所作や道具の扱い、季節ごとのしつらえに魅了され、今では自分から着物や茶花の本を眺めるほどになりました。そんな娘が、「先生に受験が終わりましたって伝えたら、久しぶりにお茶会に参加できることになった」と話したのです。
半年ほどお稽古を休んでいた娘にとって、それは久しぶりの“ご褒美”のような出来事でした。「本当にうれしい。でも緊張する……」と、どこか浮き立った様子を見せた直後、娘は別の悩みも打ち明けました。「今回のお茶会は正装で参加するものだから……着物で参加したい」
そのとき、ふと頭に浮かんだのが、昨年亡くなった母の形見分けとして譲り受けた着物でした。柄はかわいらしく、若い子が着ても古くさくならない。私自身も若いころに一度だけ袖を通したことのある、思い出の一枚です。娘に伝えると、「ママの着物? 私が着られるの、ある?」と返ってきました。
私は母の着物のことを話し、「あれなら、あなたが着ても似合うと思う」と伝えました。娘は「でも、大事な形見なんだよね。汚しちゃったら怖いし……私が着ていいの?」と不安そうでしたが、私は首を横に振りました。
着物姿を見せに行く…義母との電話で感じた不安
お茶会まであと1カ月。それまでの間、娘は久しぶりのお稽古にも前向きに通い、所作を復習しながら当日を心待ちにしていました。「せっかく着物を着るなら、おじいちゃんにも見せたい」と言い出したのは、そのころです。私の父は遠方に住んでいるため写真で見せるとして、娘が会いたいと言ったのは、夫の両親――近くに住む義実家の祖父母でした。そこで私は、義母に予定を確認する連絡を入れることにしました。
用件を伝えると、私のことを嫌っている義母はふっと鼻で笑うように言いました。「着物を着るって……まさか七五三のじゃないわよね」と、矢継ぎ早に続けます。私は「違います。亡くなった母の形見分けでいただいた着物を着せようと思って」と答えました。
すると義母の口調は、露骨に変わりました。「お母様の着物? それ、どれだけ古いのよ。数十年前のものなんて、今どき着たらおばさん臭くなるだけじゃない」電話口で、胸の奥がきゅっと縮むのを感じました。さらに追い打ちをかけるように、義母は「よく考えたら、その日はおじいちゃん(義父)がいない」と言いました。同級生と温泉旅行に行くらしいのです。
娘がいちばん見せたがっていた相手がいない――。それが残念で、私は思わず「そうなんですね」と声を落としました。すると義母は、「でも私はいるから来て。写真も撮ってあげる」と、妙に張り切った調子で言いました。嫌な予感が消えないまま、私は「わかりました。娘に伝えます」とだけ答え、電話を切りました。
義母の手元が滑った? 娘が打ち明けた違和感
お茶会当日の朝。着付けを終えた娘は、鏡の前でそっと背筋を伸ばし、いつもより少し大人びた表情をしていました。母の形見の着物は驚くほど娘に似合っていて、私は思わず「かわいい」と笑顔になりました。
そろそろ義実家に着いたかな、というとき、娘から電話が入ったのです。「ママ……ごめん。着物、汚しちゃった……」私は「転んだの? どこかぶつけた?」と、矢継ぎ早に聞きました。すると娘は、泣きそうな声で続けました。
「おばあちゃんが『コーヒーを飲む?』と言って……いつもならテーブルに置いてくれるのに、そのときはなぜか、コーヒーカップを持ったまま私のところへ来たんだよ。そして、コーヒーをこぼしてしまって……。でもね、そのあと、おばあちゃん、笑っていたの」メイクも崩れ、娘は「このままじゃ、お茶会に行けない」と声を震わせました。
娘の話を聞いた瞬間、これは“事故”じゃないと私ははっきり思いました。
義母「事故よ」―その直後、耳を疑うひと言が
私は怒りで手が冷たくなるのを感じながらも、まずは娘の一日を守ることだけを考えました。お茶会は14時開始。まだ時間はある。「大丈夫。今から服を買いに行って、美容室もやり直そう。3時間ある。間に合わせるよ」
娘が義実家を出て近くのコンビニにいることを確認し、私は車で迎えに走りました。着物は脱いで大切に畳み、結局、洋服に着替え、ヘアメイクも最短で整え直し、ぎりぎりでお茶会に滑り込みました。
お茶会が始まり、少し落ち着いたころ。私は義母に電話をかけました。「先ほどの件ですが、娘の着物にコーヒーがかかったと聞きました。どういう状況だったんですか?」義母は、あっさりと言いました。「ごめんなさいね。コーヒーを出してあげようと思ったら、つまずいちゃったの。最近、足が弱ってきてて。事故よ、事故」
私は「そうですか」とだけ返しました。すると義母は、かぶせるように言ったのです。「それで、お茶会には行けたの? まさか、あの汚れた着物のまま行ったわけじゃないでしょう?」私が着替えたことを伝えると、「よかったわ〜。でもさ、コーヒーがついたところ、すごく目立ってたじゃない? あの子、固まってておかしかったのよ。私、つい笑っちゃって」その瞬間、私の中で何かが切れました。
「捨てたら」義母の暴言が招いた、思わぬ結末
私は義母に、「着物はクリーニングに出します。費用は負担していただけますよね」と伝えました。すると義母は、「どうせ古い着物でしょ。さっさと捨てたら」と言い放ちました。義母が私のことを嫌っているのはわかっていましたが、娘にまで意地悪をするとは思ってもいませんでした。これ以上話しても無駄だと感じ、私は電話を切りました。
その後、この日の出来事を夫と義父に伝えました。娘がどれだけ傷ついたか、義母がどんな言い方で笑ったか、形見の着物を「捨てろ」と言ったことも、すべてです。義父は激怒し、「お前の性格には薄々気づいていたが、孫にまでそんなことをするのは許せない!」と義母を突き放し、離婚を切り出したと聞きました。
その直後、義母から私に怒鳴り声の電話がかかってきました。「ちょっと、あなた! 夫に何を言ったの!」私は淡々と答えました。「今日のことを、お義父さんに事実としてお伝えしただけです」
義母は最後には「心を改めるから、離婚しないで」と泣きついたそうですが、義父は意思を変えませんでした。汚れた着物は専門のクリーニングに出し、シミは目立たない程度まできれいになりました。きれいになった着物を見て、娘は「次は、この着物でちゃんと行きたい」と言いました。私はうなずき、今度は義父にも見てもらおうと心に誓ったのでした。
◇ ◇ ◇
着物姿を見てもらおうと義実家を訪れた娘さん。その気持ちを踏みにじるような出来事は、決して「うっかり」では済まされるものではありません。お嫁さんへの不満から、孫にまで意地悪をするような振る舞いについて、義母には猛省してほしいですね。
【取材時期:2026年1月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※一部にAI生成画像を使用しています。