私は本業のかたわら、義実家が営む工務店の経理面を手伝っていました。その日も帳簿をつけていましたが……出るのはため息ばかり。
当時、都内に住む義妹には、義両親から毎月20万円以上もの「お小遣い」が振り込まれていたのです……。
「名家」の肩書にすがる義実家
工務店の経営が資材高騰の煽りを受けていることから、私は何度も支出の見直しを提案しましたが、義父には「商売人の家の空気がわかっていない」「ケチな嫁だな」と一蹴されるだけ。
夫も親のプライドを守ることに必死で、「三代にわたって続く店なんだ。そんなにピリピリしてうちの空気を悪くするなよ」と私の言葉に耳を貸さず、逃げるように夜遅くまで飲み歩く日々。
義母にいたっては、私がまとめた報告書を見ようともせず、優雅に紅茶をすすりながら「娘への仕送りくらいで、そんなに目くじら立てなくても……」という始末。
そんなある日、私は義父から「お前には会計の知識があるから」と経理を一任されました。人件費削減のため、今までの経理担当者を解雇せざるを得なかったのでしょう。
義父が「嫁ならただで使える」と思っているのは嫌でも伝わってきましたが、いいこともありました。私には会社と義実家の家計、両方の振込権限が与えられたのです。
居候宣告と予想外の解放感
私はすぐさま、明らかに分不相応だった義妹への仕送りを止めました。すると数日後、義妹が義実家に乗り込んできたのです。
「嫁のくせに、よくも私のお小遣いを止めてくれたわね!」というリビングに響き渡る義妹の罵声に、義母も冷ややかな視線を私に向けて同調します。
「この子の言う通りよ。あなたが家計を握ってからというもの、この家は窮屈で仕方がないわ。まるで私たちが、あなたに養われているみたいじゃない……」
私は胃のあたりを鋭い刃物で刺されたような不快感に襲われました。喉まで出かかった言葉を、必死に飲み込みました。これは義実家のためなんだ、と我慢したのです。
「かわいそうに……しばらく実家に戻ってきたら?」と義妹にやさしく話しかける義母。そしてすぐに私に向き直り、「あなたは今日中に荷物をまとめて出ていってくれるかしら。しばらく実家にでも帰ったらいかが? 自分がいかに恵まれている環境にいたか、わかるんじゃないかしら」と言ったのです。
「それがいいと思う」と、義母に同調したのは夫でした。
「実は、俺たち家族で事前に話し合っていたんだ。お前、実家で自分の行いを反省してこい」
義父は深く何度もうなずき、義妹は勝ち誇ったように笑って私を指差しました。
「そう、家族会議で全員一致よ!」
「役立たずの嫁はただの居候。さっさと出ていきなさい!」
「わかりました! ありがとうございます!!」
「……え?」
「居候」――その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かがプツンと音を立てて切れました。同時に、頭の中が驚くほど冷静にクリアになっていくのを感じたのです。
その場にいた全員が凍りつくほど明るい笑顔でお礼を言った私。義妹の笑顔も一瞬で固まりました。義母も義父も夫も、呆気にとられた表情で私を見つめていました。
「いえ、本当に! この家から解放していただけるなんて、願ったり叶ったりです!」「もう家計簿や帳簿とにらめっこしなくていいんですよね! それに、これからは自分のためだけにお金を使えます! 本当に感謝しかありません!」
私は心の底から湧き上がってくる喜びを抑えきれず、何度も頭を下げ、スキップして自室へ向かい、荷物をまとめました。後ろから聞こえてくる、義家族の困惑した声すらも心地よく感じられました。
剥がれた義実家の化けの皮
翌朝、義実家を出たその足で、私はあらかじめ目星をつけていた弁護士事務所へ向かいました。そこで、私は1冊のファイルを弁護士に差し出しました。
それは、この数年間にわたる義実家での同居生活で、私が密かに記録し続けてきた、すべての「真実」。ページをめくるにつれ、弁護士の表情は徐々に驚愕へと変わっていきました。
工務店の材料費の支払いに充てるため、私の個人口座から振り込んだ500万円以上にのぼる貸付の記録。義実家の毎月の生活費や光熱費を、私の給与口座に紐づいた家族カードで決済していた事実を示す利用明細。さらに、義父や夫からの「いったん金を立て替えてくれ」「必ず返すから」というメッセージのログ。
私の貸付がなければ、義実家の工務店はとっくに資金繰りが回らなくなっていました。みんなそれに薄々気づいていながら、私の稼ぎをあてにして、目を背けていたのです。
私は弁護士の助言のもと、私の名義で契約していた義実家のすべての公共料金、そしてインターネット契約を停止しました。そして、私の給与口座に紐づけられた家族カードも解約したのです。
それから2週間後――。
義妹から何度も何度も着信履歴がありました。意を決して出てみると、義妹はいきなり怒鳴り散らしてきました。
「ちょっと! どういうこと!? カードが全部エラーになる! 家のネットもつながらないんだけど!」
私は、用意していた言葉を淡々と、かつ最も冷徹なトーンで告げました。
「自分のものを整理しただけよ? あなたたちが『居候』と呼んで追い出したその女が、実はその家の電気代も、水道代も、ネット代も支払っていたって、一度も考えたことはなかったの?」
電話の向こうが一瞬静まり返りました。
「は? ……嘘でしょ……?」
「今あなたが使おうとしたそのカード、全部私の口座に紐づいていたの。公共料金も、ネット回線も、全部私名義。追い出された居候が、なぜ他人の生活費を払い続けなきゃいけないのかしら?」「工務店の材料費だって、全部私が貸し付けて穴埋めしてたのよ。合計で500万円以上。私がいなくなったんだから、当然、支払いは止まるわよね」
「そんな……パパの会社が……?」と義妹。信じられないようでしたが、そのまま無言で電話は一方的に切られました。
続いて、夫からも震える声で電話が入りました。
「大変なんだ! 今月末が材料費の支払期日なのに、お前が立て替えてくれていた分の入金予定がないって資材屋から確認が来て……そこで初めて、全部お前が払ってくれていたことに気づいたんだ。このままじゃ期日に間に合わない!」
そしてさらに数日後、月末を迎えた日。夫から悲鳴のような電話がかかってきました。
「資材屋が怒鳴り込んできた! 入金がないって! どうすればいいんだ!?」
すべてを私が立て替えていたことにようやく気づいた夫に、私は淡々と告げました。
「とりあえず、工務店に今まで貸した500万円、一括返済の請求書を弁護士経由で送ったわ。期日までに返さないなら、支払督促から法的手続きを進めるから」
「法的手続き……!? 待ってくれ、うちはどうなる!?」と焦る夫。
「死ぬ気で働けばいいんじゃない? 居候がいなくなって、家の中もすっきりしたでしょ。これからは、自分たちの力だけで頑張ってね」
私はそこで電話を切りました。彼らが守り抜こうとしていた「名家のプライド」という名の化けの皮が、実体のない砂の城のように崩れ落ちていく音が聞こえるようでした。
その後――。
知人を介して耳に入った元義家族の末路は、まさに「自滅」という言葉がふさわしいものでした。
義実家の工務店は、資金繰りの実態が銀行に露見して融資が受けられなくなったそう。連鎖的に他の債権者からも督促が押し寄せ、あっけなく倒産しました。
自宅と土地は競売にかけられ、プライドの塊だった元義父は最後まで現実を受け入れられず、パチンコと酒に溺れる日々。元義母と元義妹は責任をなすりつけ合って、毎日激しい罵り合いを繰り返していたそうですが……今は親戚の伝手を頼って、遠く離れた地方の小さな工場でそろって働いているとのことでした。
あの優雅だった元義母が油にまみれ、贅沢三昧だった元義妹が深夜までライン作業に追われている姿を想像しても、私の心には一欠片の同情も湧きませんでした。
元夫からは今も「お前がいないと家が回らない」「やり直したい」と、反省というよりは「便利な財布」への未練が詰まったメールが届きますが、すべて既読をつけずに削除しています。
今回のことでわかったのは、他人の見栄を支え続けても、相手を甘やかして腐らせるだけだということです。「結婚して家族の一員になったから」と言い訳して、自分を安売りしてしまった私。あの地獄のような生活から抜け出せたのは、奇跡に近いことだと思っています。
今、1人で暮らすアパートの窓から見える空は、驚くほど高くて澄んでいます。かつてあれほどまでに私を縛り付けていた、義務感や「嫁としての責任」という名の鎖は、もうどこにもありません。自分で稼いだお金は、自分の好きなように使えるのです。
本当の幸せとは、誰かから与えられるものではなく、自分でつかみ取るものなんだ――私は、私の力で幸せになろうと思います。
【取材時期:2025年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。