「貧乏人とは別れるわ」妻からの突然の通達
仕事から帰宅すると、リビングのテーブルの上に一枚の紙が置かれていました。緑色の枠線……離婚届です。
驚いて妻の方を見ると、彼女は今まで見たこともないような冷ややかな笑顔を浮かべていました。
「もうあなたとの貧乏生活にはうんざりなの。私、再婚することにしたから」
僕は耳を疑いました。
「再婚って……まだ離婚もしていないのに?」
妻は悪びれもせず、新しい相手について自慢げに語り始めました。
相手は誰もが知る大企業の専務で、経済力も社会的地位も僕とは雲泥の差だと言うのです。
「彼はあなたと違って本当のエリートよ。専務夫人になれるチャンスを逃すわけないでしょ? だから、さっさと判を押して」
そう言い放つ妻の態度はあまりに理不尽で、僕への愛情のかけらも残っていないことは明白でした。
僕は怒りを通り越し、呆れ果てて離婚届にサインをしました。
妻は「あー、せいせいした! これで勝ち組の仲間入りよ!」と捨て台詞を残し、荷物をまとめて出て行きました。
5年後、旅先での最悪な遭遇
離婚から5年。僕は一念発起して会社を辞め、友人と共に立ち上げたITベンチャーの経営に没頭してきました。
必死に働いた甲斐あって事業は軌道に乗り、今では業界でも注目される規模に成長していました。
久しぶりの休暇を取り、地方の温泉街へ一人旅に出かけたときのことです。駅の改札を出ようとしたその時、聞き覚えのある甲高い声が聞こえてきました。
「あら、やだ! まさかこんなところで会うなんて!」
振り返ると、そこには派手なブランド品で身を固めた元妻と、恰幅の良い年配の男性が立っていました。
元妻は僕の顔を見るなり、ニヤニヤと嘲笑うような表情を浮かべ、隣の男性に話しかけました。
「あなた、見てよ。この人が例の『貧乏な元夫』よ(笑)」
元妻は僕のラフな服装を見て、相変わらず僕がうだつの上がらない生活をしていると思い込んだようです。
「まだそんな安っぽい服着てるの? 私たちはこれから高級旅館に泊まるところなの。あなたには一生縁のない世界でしょうけどね」
元妻は勝ち誇ったように言いましたが、僕は怒るどころか、少し憐れみを感じていました。
なぜなら、隣にいる「エリート専務」らしき男性の顔色が、みるみるうちに蒼白になっていったからです。
青ざめる専務、そして立場逆転
「おい……お前、何を言っているんだ……!」
青い顔をした男性は、震える声で元妻を制止しました。
「え? どうしたの? こいつ、ただの貧乏人よ?」
状況が飲み込めない元妻をよそに、男性は僕の前に進み出ると、深々と頭を下げたのです。
「も、申し訳ありません! まさか、T社の社長様だったとは……!大変な失礼をいたしました!」
元妻は「は? 社長?」と目を白黒させています。
実は、僕の会社は先日、この専務が勤める大企業と大規模な業務提携を結んだばかりだったのです。
しかも、僕はその提携プロジェクトのキーマンとして、先方の社長とも直接やり取りをしていました。専務という立場なら、僕の顔を知っていて当然です。
「あ、あの時は御社に大変お世話になりました。まさか、あなたが彼女の……」
僕は穏やかに微笑んで言いました。
「ご無沙汰しております。まさか、元妻があなたの奥様だったとは驚きました。世間は狭いですね」
「へ? 社長ってどういうこと? この人はただの……」と狼狽する元妻に、専務は「黙れ!この方は我が社にとって最重要人物なんだぞ!」と一喝。
僕は二人に軽く会釈をし、「では、せっかくの旅行ですから楽しんでください」とだけ告げて、迎えに来ていた宿の送迎車に乗り込みました。
バックミラー越しに見ると、専務が元妻に対して激しく怒っている様子が見えました。元妻は顔面蒼白で立ち尽くしていました。
その後、風の噂では、元妻と専務は別居しているようだと聞きました。僕は過去を完全に吹っ切り、充実した日々を送っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。