やさしかった先代とは正反対の新大将
ある日、いつも通り魚を納品に訪れたときのことです。店の奥から聞こえてきたのは、「うるっせぇな!」という荒い声。新しく大将になった息子さんのものでした。
穏やかで物腰の柔らかかった先代とはまるで別人。その後も、伝票を渡すたびに威圧的な態度を取られ、内心では不安を覚えつつも、「これまで通りよろしく頼む」と言ってくれた先代の言葉を思い出し、なんとか関係を続けようとしていました。
世代交代からしばらくして、新大将から一本の電話がかかってきました。
「店を移転したから、次からは新店舗に持って来い」
事前に何の連絡もなかったことに驚きつつ、指定された住所へ向かうと、そこはすでに別の寿司店が向かいにある場所。正直、立地としてはかなり厳しそうに見えました。
それでも新大将は、「あんな店、うちの相手じゃない」と強気な態度。根拠はわかりませんが、不安はますます募っていきました。
値段に対する執拗なクレーム
代替わり後、初めての本格的な納品日。夫が別件で手が離せず、私ひとりで向かうと、新大将から開口一番こう言われました。
「スーパーならこの半額……いや、もっと安く買えるだろ」
事実とはかけ離れた言い分でしたが、どうやら奥さんの意見も強く影響している様子。その日以降、価格に関する無理な要求やクレームが毎回のように続くようになりました。
そんな中、新大将から大きな注文が入ります。若者に人気のインフルエンサーが店を紹介する動画を撮影するため、100万円分の魚を用意してほしいという内容でした。
正式に契約書を交わし、こちらも漁師さんに事情を説明して、特別に魚を分けてもらう段取りを整えました。
ところが、納品当日。店に着くなり、「その魚はいらない。返品してくれ」と言われたのです。事情を説明し、契約内容を確認しても話は平行線。最終的には、「1万円で買い取る。それが嫌なら今後の取引はなし」と、一方的な条件を突きつけられました。
到底受け入れられる内容ではありません。私はその場で、今後の取引を続けられないことを伝え、交渉は終わりました。
思わぬところからの救いの手
大量の魚を前に、どうすべきか途方に暮れていたそのときです。向かいの寿司店の女将さんが、声をかけてくださいました。事情を聞いた上で魚を見て、「本当にいい魚ね」と、すべてを当初の金額で買い取ってくれたのです。胸がいっぱいになり、思わず涙が出そうになりました。
その後、例の高級寿司店では別の問題が起きていたようです。撮影に訪れたインフルエンサーが、提供された魚の質に違和感を覚え、問い合わせをしてきたのです。
私は、これまでのやりとりがわかる範囲で事実を説明しました。結果として、インフルエンサーは女将さんの寿司店を訪れ、その味と鮮度を高く評価する投稿をおこないました。向かいの寿司店は評判を呼び、連日満席に。一方で、新大将の店からは、少しずつ客足が遠のいていったと聞いています。
後日、新大将から「以前の条件で取引を再開したい」と連絡がありました。しかし、これまでの一連の出来事を思うと、これ以上関係を続けることはできませんでした。先代との縁は大切な思い出ですが、商売は信頼あってこそ。私たちは取引をきっぱりと終える決断をしました。
現在は、あのとき助けてくれた寿司店と正式に契約し、良い関係を築いています。
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長年の取引先であっても、世代交代や姿勢の変化によって関係が崩れることはあります。商売において大切なのは、価格や規模以上に「誠実さ」と「信頼」。真摯な姿勢は、巡り巡って必ず評価されるということを実感させられるエピソードですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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