父は昔からの車好きで、私もその影響を受けました。必死に働いて貯めたお金で、実家と同じ車種を購入できたときは本当にうれしかったものです。ガレージには、同じ色・同じ車種の車が二台並んでいます。父の車と私の車、まるで双子のようだと、家族でもよく話していました。
「車がない!」
ある週末、娘を連れて徒歩で実家へ遊びに行き、夕方、帰ろうとガレージへ行くと、停まっているはずの父の車がありませんでした。
「お父さん、車は?」
私が父に声をかけたとき、遠くからエンジン音が聞こえてきました。赤い車がガレージに入ってきます。運転席から降りてきたのは、私の両親と同居している義姉でした。
「ごめーん! ちょっと失敗しちゃった!」
軽い口調でした。車のフロント部分は、ちょっとどころかかなり大きくへこんでいます。
私は凍りつきました。
それは――父の車でした。
私「それ、お父さんの車だよ」
義姉「え? うそ! あなたの車だと思って乗ったんだけど!?」
慌てだす義姉を横目に、背筋が冷たくなりました。つまり義姉は、私の車だと思って、無断で持ち出したのです。
軽い気持ちの大きな代償
家の中に戻り、父が低い声で「なぜ乗ったんだ?」と尋ねました。
「あなた(私)の車だと思ったから。ちょっとくらい平気かなって」と義姉。
ちょっとくらい……その言葉に、怒りが込み上げました。
「私の車でも、勝手に乗っていいわけないでしょう?」
思わず声が震えました。
「誰の車でも同じだ。無断で持ち出すこと自体が問題だ」
父は厳しい口調で言いました。
これまでは、車を使う前には必ず一言確認があったのに、今回はその一言すらありません。ちょうど帰宅した兄が事情を知り、「一言も言わずに勝手に乗るなんてありえないだろ」と厳しく注意し、さすがにみんなに叱られ、義姉も反省の色を見せました。
後日、修理の見積もりを取ると数十万円とかなり高額でした。その金額を聞いた瞬間、「そんなにするの……? ごめんなさい……軽く考えてました。こんなことになると思わなくて」と、義姉の顔色が変わりました。
父が静かに「大事なのはお金の話じゃない。信頼の問題だ」と言うと、義姉は深く頭を下げ、自ら働いて修理代金を支払うと申し出ました。
その後
正直、私はすぐに許せませんでした。父はしばらく口をきかず、私も距離を置きました。数日後、義姉は改めて深く頭を下げに来ました。
「誰の車でも、勝手に乗るべきじゃなかった。本当にごめんなさい」
そのときはじめて、謝罪らしい謝罪を聞いた気がしました。
修理が終わり、再び並んだ二台の車。見た目は元通りになりましたが、以前と同じ「双子」のような気持ちには、すぐには戻れませんでした。
家族だからといって甘えすぎてはいけない。私自身も、相手への配慮を忘れないようにしようと改めて思いました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。