ある日のこと、娘が学校へ行っている間にひとりで近所のカフェに立ち寄り、のんびりお茶をしていた私。
すると、A子さんが店に入ってきました。そして「あなたがいるのが見えたから」と言って、私の隣の席に座ってきたのです。
突然現れたママ友
軽くあいさつを交わして、私は読みかけの本を手に取りました。もともと、カフェでひとりの時間を満喫するつもりだったのです。
一方のA子さんはケーキを3つも注文。ひとりで次々と食べながら、一方的に私に話しかけてきます。私は少し戸惑いながらも、適当に相づちを打っていました。
やがて私が帰ろうとすると、A子さんは「ちょっと待って!」と言って、自分のかばんをごそごそと探り始めます。そして、思いがけないことを言ってきたのです。
「ごめん、財布忘れちゃったみたい……。ちょっと立て替えてもらえない? すぐ返すからさ!」
正直なところ、お金の貸し借りはあまりしたくありませんでした。それでもA子さんは同じマンションの人ですし、子ども同士も仲良し。金額がそこまで大きくなかったこともあり、そのときは私が彼女の分まで立て替えて支払うことにしました。
広がっていく被害
それから1週間ほど経ったころ、マンションのエントランスでA子さんに会いました。
できるだけ早くお金の貸し借りを解消したかったので、私は思い切って「この前立て替えたお金、返してもらえるかな?」と話しかけたのですが……。
「ごめん、今ちょっと急いでるの!」
さっきまでスマホをいじりながらのんびり歩いてきたA子さんは、そのまま足早に去ってしまったのです。
その後もA子さんとなかなか会えず、気づけばお金が返ってこないまま1カ月が経ってしまいました。お金の貸し借りをする前は、あんなに頻繁に顔を合わせていたのに……。
そこである日、仲の良い近所のママ友たちとのランチ会で、A子さんが来る前に私はその話をしてみたのです。解決の糸口が見つかれば、という気持ちからでした。
すると驚いたことに、同じようにA子さんに「財布を忘れた」と言われてお金を立て替えた経験のある人が複数人いたのです。どうやらA子さんの被害者は、私だけではなかったようでした。
そんな話をしている最中、A子さんが「ごめん、ちょっと遅れちゃった!」と言ってお店に入ってきました。
財布忘れの常習犯
1人のママ友が、A子さんに対して「A子さん、今日はちゃんとお財布持ってきてるよね?」と聞きました。
ほかのママ友も、「この前のお金、まだ返してもらってないから……。今日はそれぞれ、自分で支払おうね」と追撃。みんな、私と同じく疑心暗鬼になっていたのでしょう。
A子さんは笑いながら「もちろん。今日はちゃんと財布持ってきてるから!」と言って、バッグの中を見せてきたのです。
「あ、でも……そこまでまとまったお金はないから、立て替えてもらった分は個別に返すね~」
その言葉に、私たちは少し安心してしまいました。そしてそのままランチを楽しむことにしたのですが……会計の時間になると、A子さんはバッグの中をごそごそと探しながらこう言ったのです。
「……財布だと思って間違えて、ポイントカードのケースを持ってきちゃった!」
「ごめん、今日も誰か立て替えてくれない? 本当にごめんね?」
A子さんの軽い口調に、私たちは言葉を失いました。しかしお店に迷惑をかけるわけにもいかず、その場では1人のママ友がA子さんの分を仕方なく立て替えたのです。
A子さんへの反撃
その後、私たちはA子さんを除いてグループチャットを作り、話し合いました。「このままだとずっと同じことが続くよね」という思いは、みんな一緒だったはずです。
「今度こそ、ちゃんとA子さん自身に支払わせよう」「今まで立て替えた分も返してもらおう」という話がまとまったときに、A子さんからこんなメッセージが届きました。
「この前のランチ会、めっちゃ楽しかったね!」
「おいしそうなお店を見つけたから、また近いうちにみんなでランチしよ~!」
そしてその次の週、私たちは再びランチ会を開くことに。A子さんには少し早めの集合時間を伝え、私たちはA子さんより少し遅れてお店に着くようにしました。
お店に到着すると、A子さんはすでに席に着いていて、ひとりでランチセットを注文し、食べ始めていました。私たちの姿を認めると、「やっほ~! おなか空いてたから、先にオーダーしちゃった!」と手を振ってきます。
私は席に着く前に、念のため聞きました。
「今日は財布、持ってきてるよね?」
すると彼女は、笑顔でこう言ったのです。
「もちろん、持ってきてるよ~!」
その言葉を聞いた瞬間、私たちは顔を見合わせました。これまで何度も同じことを繰り返されてきた私たちは、「もうA子さんの分は立て替えない」と決めていたのです。
そのままランチ会は継続。会計の時間になり、店員さんが伝票を持ってきました。するとA子さんは、少し困ったように私たちのほうを見てこう言ったのです。
「お財布、持ってきてはいるんだけど……お金おろしてくるの忘れちゃった」
「今日もお願いできないかな?」
その瞬間、ママ友の1人がはっきりと伝えました。
「今日はもう、立て替えないよ」
「私たちも今日は余分にお金、持ってきてないから」
一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに「困るんだけど」と言い返してきたA子さん。しかし私たちは、それ以上何も言わず、自分たちの支払いのみを淡々と済ませました。
最後まで、誰かしら立て替えてくれるだろう、と甘い考えでいたらしいA子さん。私たち全員が支払いを済ませると、事の重大さに気づいたのか、真っ赤になりました。
「本当にお金がないのなら、旦那さんに持ってきてもらうしかないよ」
そう伝えると、A子さんは店の外に出て電話をかけ始めました。私は用事があったのでそのタイミングでお店を後にしたのですが、最後まで見届けたママ友によると、A子さんの旦那さんが昼休み中に駆けつけて支払いをしたそうです。
その日の夜、A子さんと旦那さんがわが家を訪ねてきました。旦那さんは事情を知らなかったようで、これまでA子さんが「財布を忘れた」と言って周囲の人に支払いを立て替えさせていたことを知り、とても驚いたそうです。
A子さんと旦那さんは私に深々と頭を下げ、先日カフェで立て替えた分を返してくれました。その日のうちにほかのママ友たちの家も回り、全員に全額返済したそうです。
財布をうっかり忘れてしまうことは、誰にでもあるかもしれません。しかし、それを何度も繰り返し、人に支払いを任せてしまうのは信頼を失う行動だと思います。
その出来事以降、私はA子さんと必要以上に深く関わることはせず、適度な距離を保って付き合うようになりました。人間関係を大切にするためには、お金のことも含めて、互いに誠実であることが大切だと改めて感じています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。